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 Ⅰ オワリノハジマリ 

Ⅰ 01/01

1話「操−misao−」


 新創世魔法歴、716年。

 ある戦争があった。

 それは12本の鍵を束ねし英雄が、全てを犠牲にしてまで守りたかった家族の為に引き起こした、大規模戦争。

 これをマギアブレイクという。


 新創世魔法歴、721年。

 マギアブレイクは終結した。

 それはある英雄が戦死したからだ。

 12本の鍵は所有者を失い、世界各地に全て散らばった。


 新創世魔法歴、722年。

 12本の鍵を巡り、新たなマギアブレイクが始まった。

 ある英雄の仲間達がそのマギアブレイクに立ち向かう為に、各首都ごとに魔法学園を設立する。


 あの日から俺は、父さんに会っていない。



   ◇ ◇ ◇



 新創世魔法歴731年、4月。


 あれから10年の時が経ち、俺は首都レイファにある、アルス魔法学園へと入学した。

 俺の名は、シュウ・ガーディア。身長170cm、少し痩せ型で、ショートヘアの水色の髪、黄色の瞳が特徴の男だ。

 ここの入学試験はマギアブレイクが未だに終わらない為か、簡単な筆記試験と面接のみ。

 と言ってもある程度の知識が無いと落とされてしまう。

 だがそこは面接で高い評価を得れば、合格出来るみたいだ。

 まあ入学試験など序の口だ。

 ここの問題は進級にある。

 進級にはある程度のカリキュラムや実技が必要になる。

 カリキュラムは成績が悪くても良さそうだか、実技は鬼と言っても過言ではない。

 既に入学して数日で10名程、実技だけで落とされている。

学力が低い者もいれば学力の高い者も少なからず落とされている事から、軍隊にでも入隊した気分だった。

 俺は教諭の指示に従っている為まだマシな方だが……、周りは疲れ気味だ。

 いつ誰が消えてもおかしくない状況だった。

 そんなこんなで今日の午後の講義中も、何名かの生徒は朝の実技に疲れて居眠り中だ。

 出席日数を稼ぐのは構わないが、授業単位が今後必要になるのを知らない愚か者達だ。


 今日の講義は12本の鍵についての内容だ。

 これは入学試験にも存在したが名前なんて誰も知る由もなく、このアルス魔法学園でも詳しく知る者はほんの一部の者達だけだ。


「では、シュウ君。君は名前くらいは知ってるとは思うから、立って皆に言っておくれ」


 老いぼれのマルカ教諭は俺を名指しで呼ぶ。

 マルカ教諭は歴史担当。身長は150cm前後、体型は普通の赤毛の女性。歳は言わないでおこう。

 俺は席から立ち、生徒の皆に聞こえる声で話した。


「はい。蒼穹のスカイ、電脳のペクタ、時のロスト。迅雷のエネル、剣聖のルクス、機獣のメガロ。疾風のウィンディ、混沌のカオス、砲撃のボンバー。鳳凰のフレイ、氷雪のスノウ、銀河のメテオです」

「宜しい。座れ」

「はい。分かりました」


 俺は着席した。

 それにしても俺のクラスの生徒、一組は40名程とかなり多く、良く生き残ってるな。

 二組は半分の20名、三組はやや多く30名、四組は絶望的に10名と極端な生徒数だと言うのに。


「シュウ君は、凄いね」


 右から声が聞こえたかと思えば、幼馴染みのミカが俺に話し掛けていた。

 ミカ・レイリス。茶髪のロングヘアで黒色の瞳をした女の子。身長は152cm、体型は痩せていて細い。

 一組の学級委員長をやっている俺の幼馴染みだ。


「そんなの当たり前だろ。だってコイツは最初のマギアブレイクを起こした奴の息子なんだぜ」


 と、左からは腐れ縁のマグナスが呆れた口調で話し掛けた。

 マグナス・クロード。赤髪のショートヘア、橙色の瞳をした男。身長は175cm、痩せて見えるが、意外とスポーツ万能。

 そしてミカと同じ幼馴染みで腐れ縁だ。


「マグナス君は、先に授業の成績上げたらどう?」

「成績優秀のミカに言われる筋合いはない」

「あんまり声を上げると、教諭に見つかるけど」

「すみません」「すまん」


 と言っても見つかる事は無いだろうな。


(なあ、ラグナ)


 ラグナと呼ばれたこの水色の結晶は、元々蒼穹そらのラグナマギアのコアだった。父さんがいなくなる前に貰った、父さんの唯一の形見。


「そう言えば、シュウ。朝の実技は、どうだった?」

「マグナス程じゃ無かったよ。俺はバランス型じゃないし、難易度高めの成長型だって前にも言ってたろ」

「そうか……。ここ最近はリベレイターの活動が活発化しているから、お前も気を付けろよ」

「分かったよ。マグナス」


━ ━ ━ ━


《リベレイター》

 あの戦争の後に作られた反社会組織で、違法なマギアコネクトをしている者。マギアの色は黒。

 今も尚、12本の鍵の行方を探している俺達コネクターの敵。


《コネクター》

 俺達アルス魔法学園の生徒や、正式なマギアコネクトを果たした者達。

 マギアの色は主に白が多く、他にも色分けされているマギアも存在する。


《マギア》

 ブレスレットやネックレスなど、様々な形をした携帯型魔法端末。

 マギアから取り出した武器は持ち主のみが使用でき、学園内の売店などで他の武器も購入可能。


━ ━ ━ ━



   ◇ ◇ ◇



 放課後。

 俺達はアルス魔法学園を出ると、いつもみたいに三人一緒で下校する。

 ミカを一人して帰れないのが俺とマグナスの意見だが、ミカも良い歳頃で最近は恥ずかしいらしい。


「今日も終わったな」


 夕焼けを見れば、俺は直ぐにそう思ってしまう。

 あのマギアブレイクの時もこの夕焼けの空の様に赤く、地獄の様な空間が広がっていたのを思い出す。

 だが今は平和だ。リベレイターが何もしなければの話だが……。

 もしリベレイターがこの世界を滅亡させたら、あの頃の様になってしまう。

 それが嫌だから、俺はこの学園にいる。


「湿気た面してんな」

「もう!! マグナス君はちょっとはデリカシーが無いの?? ……シュウ君。またいつもの考え事をしてたんでしょ」


 マグナスは励まそうと俺の背中をガッシリ強めに掴んだが、ミカがそれに気付いてマグナスを叱る。

 だけどミカは俺には優しい対応をした。


「まあ。でもこの学園には各砦事に代表者が警備にあたっているから」


 俺は不意に裏路地の境い目を見ると、少女が大人集団に追われているのが見えた。

 何だよ、アレ……。警備は?? それよりも。


「どうしたの??」

「何かあったか??」


 今のこの状況に二人は何も気付いていなかった。


(どうする??)


 選択肢は二つ。

 このまま少女を見捨てるか。

 それとも俺が助けに行くか。


 でも何か嫌な予感がする。

 俺は後者を選んだ。


「マグナス。用事が出来たから、ミカを頼む」

「分かった。シュウ。コレを忘れるなよ」


 マグナスは俺の鞄から腕輪の形をした白いマギアを渡した。

 俺はその白いマギアを右手に装着すると、ミカも俺の行動に気付いた。


「シュウ君、絶対に死なないでね」

「ちょっと見て来るだけだよ。ミカも俺の二つ名を知ってるだろ」


 俺はミカをそう言って慰めた。

 だが相手は大人。

 俺も勝てる保証は無いに等しい。

 だけど俺はこの二つ名で良かったのだと改めて思った。

 消失のシュウ。それが俺に付けられた二つ名。

 俺は二人の前から姿を消し、裏路地へと駆け抜けた。



   ◇ ◇ ◇



 首都レイファと言えど裏路地へ侵入すれば、そこは無法者で溢れている危険地帯に過ぎない。

 コネクターの学生でも教師からは武装許可が出されており、何なら殺してしまっても構わない程だから、裏路地に侵入する者は甘い認識で行動出来ない様になっている。

 まあここで死人が出ても回収出来ないから、首都レイファでは行方不明者が多発している。

 そこは何処の首都でも同じ認識で間違い無いだろう。


「さて、始めるとするか……」


 俺は右手に着けたマギアと呼ばれる白い携帯型魔法端末を起動させた。

 音はなく、正常に動いている事を確認すると、俺は大人達にバレない様に静かに近付く。

 大人は全員で4人。

 白い長髪の少女を見てみると、黒いフードの男性に無理矢理手を引っ張られていると言うのに、何も言わず暴れている様子は無かった。

 それを最初に見た俺は不思議に思えたが、相手の行動が怪し過ぎるので興味本位に観察してみる。

 すると大人達は歩くのを止めて、背後の俺の存在に気付いた。


「何だ。ガキか……」

「まあ良い。殺れ!!」

「はいよ。姐さん……」


 黒いフードの男は俺を見て呆れていたが、先頭にいた黒いフードの女に命令されると、一度溜め息を吐きつつ、俺に襲い掛かって来た。

 黒いフードの男は俺との距離はかなりあったものの、すぐ近くへ瞬時に来たので俺は焦った。

 だがどうやら身体強化の魔法を使用したのだろうと思い、俺は冷静に白いマギアを使って鉄の片手剣を取り出してそれを右手で持って構える。

 黒いフードの男は黒いマギアを使って黒の短剣を二本取り出し、それぞれを両手に持ちつつ、素早い攻撃を繰り出した。

 それを俺は回避せず、鉄の片手剣を使ってその攻撃を受け流す。

 すると黒いフードの男はニヤリと笑って俺にフェイントを仕掛けたが、俺はすぐ後ろへ後退しその攻撃を回避した。


「ガキにしては大した者だ。だが……」


 そう言って黒いフードの男は黒の短剣を二本共投擲し、俺はその短剣を鉄の片手剣で全て弾く。


「遅え!!」


 黒いフードの男は身体強化魔法で俺の背後へと周り、黒いマギアで黒の太刀を取り出し、そのまま躊躇なく振り下ろした。


「〝消失のラグナマギア〟」


 俺は白いマギアを通してラグナの能力を使い、黒の太刀そのものを消失させた。

 そして背後にいるであろう黒いフードの男に、俺は鉄の片手剣で容赦無く斬った。

 黒いフードの男は斬られた所から大量の血飛沫が飛び、そのままぐたりと倒れ、持っていた黒の太刀と地面にある二本の黒の短剣は四散した。


「くそっ!! ガキの分際で!!」

「まっ……、待て!!」


 仲間の死に少女を捕まえていた黒いフードの男がキレる。

 それを黒いフードの女が止めようとしたが、彼は言う事を聞かずに俺へ襲い掛かった。

 黒いフードの男は黒いマギアを使い、黒の槍を取り出して片手で構えつつ、火魔法を起動させた。

 それを横目に見つつ、俺は襲い掛かろうとしている黒いフードの男に近付く。


「馬鹿か!!」

「馬鹿はお前だ。〝消失のラグナマギア〟」


 俺は白いマギアを通してラグナの能力を使い、危ない火の粉を消失させると、黒いフードの男は黒の槍で俺を薙ぎ払おうとした。

 それを避けて鉄の片手剣で男の胸を容赦無く貫いた。

 黒いフードの男は口から血を吐きつつ、ばたりと倒れ、持っていた黒の槍は四散した。


「作戦は失敗よ」

「そうだな……。お前は用済みだ」

「え……??」


 黒い仮面の男は黒いマギアを使って鉄の短剣を一本取り出すと、そのまま黒いフードの女を斬った。

 仲間割れかと思われたその行動に、俺は黒い仮面の男を警戒する。


「……アンタ。裏、切る……き……」

「裏切ってなどいない。俺の役割は作戦失敗時の後始末だ。お前が言った時点で、それは執行される。リベレイターの下っ端風情が調子に乗るなよ」

「あの……子は……、どうする……つもり……」

「ああ。抜け殻か……。これはもう用無しだ。俺達の任務はさっき完遂された。じゃあな」


 黒い仮面の男は黒いフードの女に鉄の短剣を向け、グサリと心臓を貫く。

フードの女は糸が切れた操り人形のようにその場で倒れ込んだ。

 それを見せられた俺は、仲間を殺したというのに平然と佇む黒い仮面の男に警戒心が高まるのが分かる。


「少年。君は運が良い。俺を逃がせば、その抜け殻は助かる」

「何が言いたい?? 今お前は仲間を殺ったんだぞ!!」

「ああ。これか……?? この女はリベレイターでは下っ端でしか無い。何なら君にくれてやるが、どうする??」

「残念ながら、俺にそんな趣味は無い」

「ハハハ。君は面白い。俺はカラク。リベレイターでは炎帝のカラクと呼ばれている。君の名は……??」


 俺の反応を見てカラクは高笑いした。

 俺に敵意が無いのか、鉄の短剣を黒いマギアへとしまう。


「俺はシュウ・ガーディア。二つ名は消失のシュウ」

「ほう……。ガーディアとはな……。では君は、ソラの息子か何かかな??」

「何故父さんの名を……」


 どうしてリベレイターが父さんの名を……。

 もしかしてマギアブレイクについて何か知ってるのか……??


「ソラに免じて、その抜け殻は君に預ける事にする」

「待て!!」

「では失礼するよ。〝炎帝のイフリートマギア〟」


 カラクは黒いマギアを通してイフリートの能力で、自分自身を燃え盛る炎へと姿を変えて、炎が消えると同時にカラクはその場から姿を消した。

 俺は三人が倒れている中、俺は悔しがりながら硬い壁を強く殴った。


「くそっ……!! 父さんの手掛かりが……」


 マギアブレイクについての情報は余りにも見せられない情報が多い為か、本当の真実を明かされていない。

 いわゆるタブーだ。

 俺ですら父さんが誰と戦っていたのかも分からないままだからだ。


「何で、怒っているの??」


 すると白い長髪の少女が俺に気付いて、恐る恐る近付いた。

 少女は青色の瞳を俺に向けながらそう告げた。

 身長は130cm位だと言うのに可弱そうな少女の身体を見て、俺は冷静さを取り戻す。


「ごめん。ありがとう。君のお陰だ」


 すると少女は不思議そうに首を傾げた。

 分からないのは無理も無いか……。

 俺は少女の髪を撫でる。


「……シュウ」

(あれっ……。この子、カラクとの会話聞いてたのかな……)


 俺の名を言った少女を見て、逆に俺が少女に問い掛ける。


「君の名は……」

「……ミサオ。シュウの……恋人」

「無闇に恋人発言しないでくれ」


 俺は少女の発言に驚かず冷静に応えた。


「じゃあ……」

「愛人も無しだ。許嫁ってのも却下だ」

「酷い……」


 俺がからかってやると、ミサオは残念そうに顔を俯いた。


「なあ、友達は駄目なのか??」

「それは……、選択肢に無い……」

(無いのかよ……)

「じゃあ、恩人は??」

「うん。分かった……。シュウは私の恩人……」


 ミサオは納得したのか、笑顔を取り戻す。

 こうして彼女の笑顔を見ていると今までの出来事は何だったのか、つい気になってしまう。

 裏路地を徘徊していた警備員に俺はリベレイターの三人を渡した。

 警備員からは色々と事情聴取されたが、学生が夜に出歩くのも悪いなと言われた為、俺は現場の状況のみを話して見逃して貰えた。

 その後。俺はミサオを連れてこの場を去った。


 この物語は俺シュウ・ガーディアと白い長髪の少女ミサオが出会った、始まりの物語。

 そしてこれをきっかけに、次のマギアブレイクが加速したのは言うまでも無かった。




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