ミシロがやったその攻撃は偶然にもクリティカルヒットが決まり、俺のHPバーを3割りも削られてしまった。
そこからコンボへと繋がれ、俺は遊ばれる様にミシロの6連撃を受けた。
(残り2割り)
それでも俺はまだ動けなかった。
ラストアタックが不発したのにも関わらず、技や能力、魔法などを使用した時に表示するクールタイムが表示されない。
だからいつ動けるのかも分からない。
「残り2割りか……。案外呆気ない物だな。おっと……」
ミシロはそう言いつつ、背後から襲い掛かって来た光の鎖を難なく右に避けて回避する。
するとミシロが避けたその場所の上空から、光と闇を混合した魔法が地面に向けて放たれる。
だがミシロは紅い剣を上空に投擲し、その魔法の核そのものを破壊した。
「ヴァルディヴィータ」
今投擲した筈の紅い剣がミシロの目の前に現れるとそれを急いで掴み、そのまま地面に紅い剣を刺す。
すると地面に隠されていた術式を破壊した。
「まだ有るな」
(見えているのか?)
ミシロの戦い慣れしているその行動に、俺は近くにいながら驚かせる。
左右からはまた光の鎖が放たれたがその場所には既にミシロの姿はなく、的から外れていた。
さっき破壊した術式は位置を特定するもので間違いない。
「時間稼ぎにしては無駄だと思うけどな」
ミシロは何もない空間を斬ると、また隠された術式を破壊した。
「俺が出来るのはこれ位だろうな。次はアイツじゃないと出来ない」
あれ程襲っていた攻撃が一斉に止まった。
否。次に発生する魔法を先に止めたのか……。
(……。……あれ……)
指が動く。
身体も僅かに動かせる。
これでやっと行動が出来る。
次からはラストアタックの使用には注意しないといけないな。
(でもこれからどうする)
ミシロの強さを知る俺は考えが見当たらず、どうする事も出来なかった。
ただ負けるのが恐い訳ではない。俺は近接戦闘が得意だが、ミシロの攻撃を受け流す事は流石に難しそうだ。
あの極振りの技や状態異常を無効化にする紅い剣。
待てよ。何でミシロはあの紅い剣を名前で……、まさかな。
あの状態異常の無効化や剣の再装填はパッシブスキルでは無く、音声認識だとすれば……。
※パッシブスキル。自動で発動する能力のこと。
一か八か試しても良さそうだが、リスクは高い。
だが待っていても倒されては、俺もおしまいだ。
だったらアキラに今の場所を知らせる事が先決だな。
俺は地図を持たない為、今の座標だけをアキラにメールで送った。
するとアキラからすぐに返事が来る。
━ ━ ━ ━
私が今すぐ行くので、ホムラさんはその場で待機です。
ボイスチャットは敵にバレるのでダメです。
━ ━ ━ ━
(どうやって)
「それは瞬間移動で、ですよ」
そうか。アキラは俺の正確な座標さえ分かれば、マジシャンの瞬間移動でここまで来る事は簡単だった。
だけど俺が今まで動けなかったから、アキラは何も出来ずにいた。
それにもしも俺がアキラを裏切る可能性だってあった筈だ。それなのにアキラは俺を信じて、この状況の中でも駆け付けてくれたのか……。
「アキラ……」
「今は静かにするです。〝リベレイトアウト〟〝ファントムリベレイト ヒーラー〟」
俺は興奮の余り思わず口に出してしまったが、アキラがそれを静止させた。
アキラは魔女の姿を解除し、治癒師の様なヒラヒラとした白い服装の姿へと変化した。
「〝アルティメットヒール〟」
俺のHPは全回復した。
これでまた戦える様になったが、もうこんなチャンスは一度しか無いだろう。
だから……。
「ッ!! 〝リベレイトアウト〟〝シャインチェーン〟」
アキラは何かに気付き、リベレイトを解除させて元の魔法使いの姿へと戻り、透かさず光の鎖を目の前に放つ。
すると紅い剣が真っ直ぐこちらに放たれたが、咄嗟に放った光の鎖に弾かれる。
「〝ファントムリベレイト マジシャン〟」
「遅え。来い!! ヴァルディヴィータ!!」
さっき弾かれた紅い剣が、ミシロの元へと素早く戻る。
ミシロは紅い剣を左手に持つが、アキラはリベレイトが間に合わないのか、白い長杖で防御しようと構えた。
俺は前へ出て鞘から太刀を手にし、紅い剣に向けて放つ。
「〝魔王剣技 桜花一閃〟」
刃先が一瞬輝きに満ちて光が閃くが、ミシロはその場で俺の太刀を弾かずに鍔迫り合いへと進行した。
《ミシロは麻痺になりました》
「効くかよ。ヴァルディヴィータ!! 修復しろ!!」
《ミシロの麻痺が強制解除されました》
今だ。
「〝魔王剣技 白色氷華〟」
刃から水色の冷気が宿るのも、束の間。
鍔迫り合いで重なった紅い剣にも同様に水色の冷気が宿ると、みるみる内に紅い剣は凍り付き、ミシロは紅い剣から手を離した。
俺の太刀は耐久値が無くなり凍り付く前に壊れたが、これで紅い剣は使えなくなった。
「今だ!! アキラ!!」
アキラが魔女の姿へと変化した事を確認してから、俺は咄嗟に叫んだ。
俺はアキラの邪魔にならない程度に、その場から立ち去る。
「〝シャインチェーン〟」
光の鎖で身動きが取れない様に、ミシロの身体を拘束した。
《アキラの状態異常魔法により。ミシロはスキル、魔法が使用不可になりました》
これでミシロのスキルなのか魔法なのか分からない技を無効させ、尚かつ紅い剣の効果も使用不可にした瞬間だった。
「〝ラストアタック〟」
「仕方ねえ」
「〝ティターニア・フォース〟」
白い長杖から眩い閃光を放つとその場を白く染めて、ミシロは閃光に飲み込まれた。
だがすぐに閃光は消え去り、ミシロの瞳は紅く染まっていた。
「〝ファントムリベレイト ノーヴァ〟」
ミシロは紅いゴシックロリータを身に着けた姿で、左右の腰には紅いナイフを武装している。
金髪のショートヘアからロングヘアへと様変わりし、紅いリボンでツインテールに結んでいた。
「やはりこの技で貴方を屠る事は出来ないみたいですね」
「弱者が俺を舐めたからこうなる。だがラストアタックは成功したんだから良かったじゃねえか」
(どういう事だ?)
「彼女は今ティターニア・フォースの効果で失明しているです。だから何も出来ない筈です」
「マジかよ」
これなら勝負は見えたも同然。
「と言っても声が聞こえる限り、ここ一帯を破壊すれば良いだけの話だろ。〝スカーレット〟」
━━《乱入発生》━━
「━━ミシロ、駄目。明……、テラが呼んでたよ」
後ろから誰かがミシロのフリルを軽く引っ張る。
「何だ? 白猫か。今失明してるし、鎖のせいで身動きが取れないからやめてくれ」
「これの事」
すると初めて彼女は俺達に姿を現した。
白猫と呼ばれた銀髪ロングヘアの少女は、騎士の様な鉄の鎧を身に着けてはいるが、武器は何一つ装備していなかった。
「その紅いナイフ借りるね」
「剣はどうした?」
「壊れた。テラに作り直して貰ってる」
白猫はミシロの腰に武装された紅いナイフを二本手にし、光の鎖を意図も簡単に素早く斬ると光の鎖は粉々に破壊された。
「ミシロは貰うけど、貴方達は大丈夫?」
「私は別にそれで構わないです」
「貴方は?」
「俺は……」
「やめとけ。白猫と殺り合うなら、「ミシロは、黙ってて」……分かった」
俺の反応に対して、ミシロがその迷いを打ち砕く。
すると白猫は話に割り込み、ミシロを黙らせた。
「貴方は?」
「俺も降参だ……」
ミシロが言ってなかったら、俺は今殺り合っていたかも知れない。
「うん。その判断は正しいと思うよ。じゃあ、行こ」
「ちょっと待て。白猫。バトルロイヤルが切れてないから、今は出られないんだ」
「そんなのもう斬ちゃったよ」
━━《乱入、フィールドに異常発生。バトルロイヤルと共に終了》━━
「はあ?? お前チートだろ、それ。アイツに怒られるぞ」
「テラはミシロを呼んでるって言わなかった? はい。ヴァルディヴィータ」
白猫はミシロの紅い剣を鞘へと戻す。
えっ……と俺は驚き、咄嗟にあの紅い剣が置かれていた場所を見れば、真っ二つに斬られた氷があった。
アレも斬ったのか。
「そうやって驚いてると、いつか死んじゃうよ」
ニコッと俺に向けて、白猫が微笑みながらそう言った。
「次は勝ってやる」
「うん。次は本気で来て。じゃあね」
白猫はミシロと共に姿を消した。