俺は鞘から太刀を抜きミシロの背後を狙いつつ、強襲をかけた。
するとミシロは偶然その攻撃を避け、紅い剣で金色ノ白王を斬った。
「〝パワーブースト〟遅かったじゃねえか。準備は終わったか」
ミシロは俺を横目にそう呟いた。
すると金色ノ白王はポリゴン体となり、目の前で四散した。
━━《金色ノ白王、敗北》━━
「お前、良くも。〝魔王剣技 桜花一閃〟」
刃先が一瞬輝きに満ちて光が閃くと、俺は透かさずミシロを斬る。
するとミシロは紅い剣を盾にしてその攻撃を防ぐ。
《ミシロは麻痺になりました》
(良し!! これで相手に隙が出来る……)
俺は使い勝手の悪い回転斬りで、ミシロを追撃する。
「何だ、麻痺か……。ヴァルディヴィータ、修復しろ。〝ディフェンスブースト〟」
ミシロは俺の追撃を意図も簡単に防御した。
《ミシロの麻痺が強制解除されました》
「くそっ。まだだ……」
俺は左右に斬り刻み、ミシロにコンボを決めた。
ダメージはそこまで減って無いが、それでも手応えはある。
「〝魔王剣技 桜花一閃〟」
刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。
もう一度ミシロに同じ技を使用した。
《ミシロは麻痺になりました》
「またか? ヴァルディヴィータ。頼む」
《ミシロの麻痺が強制解除されました》
「チートかよ」
「チートじゃねえよ……。これは俺の相棒が作成した剣なんだ。気安くチート呼ばわりするなら、お前も白いライオンみたいにやっても良いんだぞ」
「そんなの出来てから」
「アイツを侮辱するな、人間」
ミシロは目にも止まらぬ凄まじい速度で紅い剣を振るい、ミリ単位で寸止めする。
俺は恐怖を感じて青褪めた。
ミシロの瞳は橙色から紅く染まり、俺を睨み付ける。
「何ならリアルで殺っても良いんだぞ。黒井焔」
「何でアンタが俺の名を知ってるんだ」
「そんなの今はどうでも良いだろ。興醒めだ」
ミシロは何もない虚空に紅い剣を投擲した。
するとアキラが虚空から姿を現して、白の長杖で紅い剣を弾く。
その反動で魔女姿が解除され、アキラは元の魔法使いの姿に戻った。
「ずっと見えていたのですね」
「まあな。ヴァルディヴィータ」
紅い剣は空中を浮き、持ち主であるミシロの手へと戻る。
「それは魔剣ですか……」
「ああ。これは破滅の魔剣、ヴァルディヴィータ。スカーレットアイズの騎士が俺の為に作成した剣だ」
「騎士と言えば、サブマスのあの方ですね。道理で化け物クラスの魔剣だと思ったです」
「あの男みたいにチートとは言わないんだな……」
そう言ってミシロは俺を指差すと、瞳の色が元の橙色へと戻っていく。
「いいえ。騎士さんの事は、私も知ってる方ですからね。無闇にそう言う発言をした場合、案内人のレッドアイズや炎の魔剣使いロト、スカーレットアイズのギルマスの姫、その他の勢力の仲間を敵に回す事になるです、よね」
「知ってんじゃねえか」
(おい、アキラ。それ、先に言えよ)
「彼は何も知らない初心者です。私が謝るので、どうか……」
アキラはミシロに頭を下げて謝罪した。
「別に魔法使いの謝罪なんかに興味はない。お前達二人で俺と本気の戦いをしろ。あの白いライオン、自分を隠す為に防御しかしなかったから暇なんだ。なあ良いだろ」
「分かったです。交渉は成立するですよ」
ミシロは仕切り直しに俺達から離れ、ある程度距離をとって場所を確保しつつ紅い剣を鞘にしまった。
あの紅い剣を抜かない所を見る限り、俺達に先攻を渡しているようだ。
「第二ラウンド、開始」
勝者気取りか、それとも唯のバトルジャンキーか。
俺はミシロに敵わないからそこまで言える義理は無いが、本気のアキラがどのくらい勝るのか俺は知る由もなかった。
「私が囮になるので、ホムラさんは隙を見て攻撃を仕掛けるです」
「分かった」
「〝ファントムリベレイト マジシャン〟」
アキラはいつもの魔女姿へと変わる。
転移を使って、ミシロに急接近する。
「〝聖なる光は私と共に〟〝シャインチェーン〟」
アキラが持つ白い長杖の上部にあるオーブが白く光り輝く。
するとミシロの背後から光の鎖が放たれた。
「その程度か?」
「零距離ではこの攻撃は回避不可能ですよね」
「まあ、な!! 〝スピードブースト〟」
ミシロはその場から離れ、光の鎖を避ける。
「まだですよ。〝シャインチェーン〟」
するとアキラは光の鎖をまた背後を狙って放つ。
それをミシロは直ぐに避けると、最初の光の鎖がミシロの目の前を狙う。
「もう一つ追加です。〝シャインチェーン〟」
ミシロの背後にはまた新たな光の鎖が放たれる。
「だからその程度かよ。〝パワーブースト〟」
ミシロは鞘から紅い剣を手にして、目の前と背後の光の鎖を斬って破壊する。
「今です〝ストック魔法 ゲート・オープン〟」
するとミシロの背後にさっき放たれた光の鎖が飛び交う。
その隙に俺はアキラの魔法で瞬間移動し、ミシロの視覚に隠れる。
ミシロは光の鎖が目障りだと思ったのか、透かさず斬って破壊する。
それを見逃さず、俺は鞘から太刀を手にした。
「〝魔王剣技 桜花一閃〟」
刃先が一瞬輝きに満ちて光が閃くと、俺はミシロを零距離で斬った。
「〝ディフェンスブースト〟」
ミシロは全くダメージもなく、無傷だった。
(ディフェンス、ブースト……)
はっきりとミシロの口からその言葉が聞こえた。
まさかとは思うが、あの魔法。
ディフェンスブーストは、防御。
パワーブーストは、攻撃。
スピードブーストは、速さ。
ただ上乗せしてる技だと俺達は思っていた。
だがそれは違うんじゃないか。
それだと攻撃や防御のみで、光の鎖を破壊すら出来ない。
ならば極振りならどうだろうか。
それなら今までの行動が、何を意味していたのかが理解できる。
そしてそれが魔法だとするなら、今ディフェンスブーストの効果が切れれば、一体どうなるだろうか。
強力な能力や魔法には制限があるし、待機時間も要する。
「最初に倒すのが男で良かった」
ミシロの瞳が紅く染まっていくのが分かる。
アキラを呼ぶ時間は俺には無い。
だったら俺がこの場で戦うしかない。
「〝ラストアタック〟」
赤く染まった太刀をミシロに向けて斬る。
だがまたしてもダメージは通らない。
ならこれならどうだ。
「〝魔王乱舞 鬼牙一閃〟」
何もない空間から突如出現したいくつもの赤い斬撃が、ミシロの周囲を囲うように襲いかかる。
ミシロは何もせずに俺を見つめた。
するとダメージは通らず、桜花の術式が発動しなかった。
俺は鬼牙一閃を不発させてしまった。
「ディフェンスブーストの前では、今の攻撃も不可能だ。効果は切れちまったけどな」
「だったら……」
俺は次の行動に出る。
だが動けない。
(くそっ。動けよ)
身体は全く反応せず、ビクとも動けなかった。
「無駄な足掻きは止めろ。ラストアタックは失敗すれば、次の行動までに時間が掛かる。初心者あるあるだな」
俺は無防備の状態でミシロに勢い良く斬られた。