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 Ⅰ Fragment / 救世の絆 

Ⅰ 14/17

14話「真実」


(アキラを助ける?? 何の事だ。アキラはさっき……)


 俺が見た頃には既に彼女の姿は無かった。

 メール自体も明らかに遅れているから、俺は「アンタこそ誰なんだ」と返信する。

 だがメールは送れなかった。


(何でだよ!!)

 何度やっても同じ画面のまま。画面に対して「ポンコツ野郎」と叫ぼうとしたら、咄嗟に誰かが俺に話し掛けて来た。


「それ。ランダムメールなんじゃない??」

「え。アンタは」


 不意に声を掛けられ振り向けば、そこには茶髪のロングヘアの女冒険者、シロッコが俺の様子を見に来ていた。


「ランダムメールって何なんだ??」

「送信主は宛先構わず周囲にいるプレイヤーに送信出来る機能よ。だからランダムメール。受信者は返信できないけど、その内容が受信者にとって重要なのかどうかが今後の展開に左右されるの」


 俺はもう一度メールを見返し、すぐに決断を出した。


「シロッコ。俺はアキラを探したい。だから手伝ってくれないか」

「…………。どちらにせよ、暇だったし。良いわ。場所は分かる??」

「悪い……。何も分からないんだ……」


 シロッコは俺の言葉に驚かず、冷静に考え始めた。

 何も分からない状況で人探しなんて無理難題を押し付けた俺も悪いが、シロッコを待つ事にした。

 するとシロッコが口を開いたと思ったら、拍子抜けな事を俺に話した。


「パーティーは解除したの??」


 俺はメニューのパーティー画面を開くと、そこにはアキラの名前があった。

 解除し忘れてたのか……??

 アキラっていつも重要な事を忘れて無いか。天然なのかは分からないが……。


「パーティーはそのままだった」

「じゃあ名前を押せば場所が何処か表示されている筈よ。パーティーメンバーが離れると簡易ではあるけど、場所が判るようになってるの」


 俺はシロッコに教えて貰いながら確認した。


━ ━ ━ ━

 アキラ

 魔法都市アルカナ 火の神殿

━ ━ ━ ━


(二度あれば三度あるってこの事か……。何かここに思い出でもあるのかよ……)


「魔法都市アルカナ、火の神殿」

「隣りじゃない。でも待って!! それだとラスネロからよね……」

「?? 転移魔法とかは持ってないのか」

「持つ訳無いでしょ。あんなの案内人しか……。案内人……」

「どうした??」


 シロッコはふと何かを考え始める。

 案内人に良い思い出が無い様に思えたが、そうでも無かった。

 シロッコが考え始めたのはもっと別の理由があったからだ。


「案内人のアキラ。そう。あの子、噂の子ね」

「何の話だ??」

「話すよりある情報をホムラに流すわ。と言っても噂話だけどね」


━ ━ ━ ━

 最近。ギルド、スカーレットアイズ所属の案内人、レッドアイズがある案内人をイジメているらしい。


 その内容は状態異常やPVPが殆どだ。

 俺達でも簡単だろうと思うが状態異常はレッドアイズお手製だし、PVPの相手はスカーレットアイズの前衛共だ。


 それを一週間の内に何度か行われているようだ。

 それでもその案内人は強いらしく、俺も応援したいと思うが、俺は…………。

━ ━ ━ ━


 途切れていて全てが読めなかった。


「これが??」

「そう。その案内人の特徴がショートヘアでボロいローブを着た魔法使いなのよ。ねえ似てると思わない??」


 そう言われるとアキラに似ているような気がする。

 ただ。どうしてそう思ったかは分からないが……。


「だとしたら。俺が行けば、戦闘は避けられないのか」

「もしその子が噂の子ならね」


 それでも行くしか道は無さそうだ。

 ただ相手が前衛クラスでスカーレットアイズがどう言うギルドなのかは分からないが、このランダムメールの通りに動くしか今は方法がない。


「だったら俺は行く」

「そう。分かったわ……。じゃあ私について来て」


 シロッコは俺を手招きした。


「ラスネロから行けば」

「夜のラスネロは危ないから、あまりお勧めはしないわ」

「そうか。分かった」


 俺はラスネロには行かず、シロッコと一緒に何処かへ行った。



   ◇ ◇ ◇



 夜の外でも照明があるから明るいが人通りは極めて少なく、夜だけは治安がどうしても悪くなるのは俺も頷けた。

 シロッコの話によると夜のラスネロはプレイヤーキラーの巣窟になるらしい。

 初心者には常に呼び掛けており、今は強者共の裏決闘場になっているようだ。

 ただそれはごく一部。実際のプレイヤーキラーの巣窟は他の場所にも存在するのだが、現状は何も変わっていないらしい。


 今俺達は教会へと来ていた。

 なんでも。シロッコの友達に転移魔法を使える者がいるらしく、交渉の為にその友達がいる教会へと足を踏み入れていた。

 だが……。


「お願いよ〜」

「嫌です!! こんな夜分に来たかと思えば、問題事じゃないですか。神父様からも程々にする様に言われてるから、今回は駄目です!!」


 シロッコの頼みを教会管理者のクシーは断る。

 クシーは修道女らしく、黒色の修道服を身に着けており、顔は整っており美人だった。

 それでも負け路とシロッコはアイテムボックスからある物を取り出した。

 出されたのは大量の金貨だった。


「ざっと10万ベルカよ。これでも駄目かしら」

「うぅぅ……。お金で釣るのは卑怯です!!」

「そう。私はホムラの為なら、どんな手を使ってでも交渉を成功させるわ。それにクシー。貴女、孤児院も欲しいとか言ってたじゃない。でもお金が足りないから、転移魔法で稼いでるみたいね」

「何でその情報を……!!」

「これでも私は情報通なのよ。まあ商人程じゃないけどね」


 シロッコは胸を張りながら自慢げにそう言った。

 するとクシーはそんなシロッコに自分の秘密を暴かれた為、すぐに心が折れ、溜め息を吐いた。


「分かりました……。今回だけですよ」

「やったわ」


 シロッコは自分の事の様に喜びながら、金貨を入れた袋をクシーに渡した。

 俺は悪気を感じて、そんなクシーに小声で訪ねた。


「本当に良いのか……??」

「貴方もシロッコには気を付けた方が良いですよ。色んな意味で」

「え?? どう言う意味だ」

 クシーはそれ以外話さず、俺を惑わせるとその反応にクシーはクスッと笑う。


「では転移させますね。シロッコ。場所は??」

「魔法都市アルカナの火の神殿よ」

「分かりました。〝空間を司る神よ。移動に長けた大いなる力を我が手に捧げよ〟」


 クシーは返事を返すと詠唱に入る。

 するとシロッコが思い出したかの様に、アイテムボックスから長剣を取り出して俺へと投げた。


「ホムラ。コレあげるわ」

「ありがとう。助かる」


 俺は長剣を装備し、シロッコに頭を下げた。


「良いのよ。あとは頑張って」

「ああ。次会ったら」

「それ死亡フラグに入るから、やめましょ」

「ああ。ありがとう」


「〝転移魔法。魔法都市アルカナ、火の神殿ッ!!〟」


 クシーの叫び声と同時に、俺は虹色の光と共にこの場から消え去った。



   ◇ ◇ ◇



 薄っすらと霧のようなもやに光を灯され、全体の風景が徐々に見え始めた。その頃にはそこが魔法都市アルカナの火の神殿だと俺は気付いた。

 夜だと言うのに周りには火が灯され、案外アルカディアよりも明るい事に驚かされたが今はどうでも良い話だ。


(この中にアキラがいる)


 あとはランダムメールの通り、助けるのみ。

 ただ心配なのはあの噂と同じ様に、PVPが繰り広げて無ければ良いが……。

 俺は深呼吸してから、火の神殿の門を開いて抜けた。

 すると俺はすぐにある異変に気付いた。


(モンスターの気配が無い……!!)


 灼熱地獄の世界で火山が噴火し、頂上の溶岩がドロドロと下へ下へと流れており、少なからず気温も暑いと思うが、それ以外は何も無かった。

 当然モンスターの気配が全く感じないので襲われる事も無く、俺は奥の漆黒の両扉へとすぐに来れた。

 するといきなり目の前にウィンドウが表示された。


━━《今現在、PVP展開中》━━


《ここから先は乱入となり、バトルロイヤルモードに変更されます。宜しいですか??》


 俺は心の準備をし、今使用できる魔王の技に一度目を通した。


━ ━ ━ ━

 桜花一閃 剣技 宝具

 焔神楽  剣技

 雷虎流星 剣技

 雷鳴の嵐 剣技 宝具

 白色氷華 

 ???

 ???

 ???


 ※この『???』は、フリーのレベルに応じて解放される技。

━ ━ ━ ━


 フリーの時にもう少しレベルを上げるべきだったな。

 俺は《YES》を押して、漆黒の両扉を開けた。



   ◇ ◇ ◇



「逃げるですッ!!」


 アキラの叫び声が聞こえたと思えば、白い甲冑を着た兵士が槍の矛先を突き付けて俺に突進して来た。

 俺は奴の槍に逃れつつ回避し、透かさず鞘から長剣を抜いた。

 すると奴は反撃すると思ったのか、俺の反応を見てすぐに後ろへと後退した。


「お前。何者だ」


 奴は槍を構えながら俺にそう告げた。


「アンタこそ何者なんだ。先に名乗ったらどうだ?? それともバトルロイヤルモードなんだし、こちらで確認するが……」


 すると奴は自身が構えていた槍を俺に向けて投擲した。

 俺は避けようと身体を動かした直後に目にも止まらぬ速さで俺の目の前に現れ、拳のみで俺を吹き飛ばした。


「俺の名はギブリ。ギルド、スカーレットアイズの尖兵にして、炎の魔剣士ロトの弟子。お前も名乗ったらどうだ。ひよっこ付勢が……」


(くそっ!! 今のでダメージが半分持っていかれた……)


「と言っても、無駄死にする前にここから去れ!!」

「何、だと……」


 俺はギブリを睨み付けると、そこにアキラが目の前に現れて俺を庇った。


「もうやめるです。ホムラさんでは無理です」

「そんなのやって見ないと分からないだろう」

「何で、そこまで……」

「ただ助けたいだけだ。アキラを」


 俺は身体を起こし立ち上がると、アキラよりも前に出て長剣を構い直した。


「ハハハ。面白い。だったら予定変更だ。二人係で来い!! 俺はその女さえ殺れば、それで良いからな」


 ギブリは高笑いしながら、鞘から白色の長剣を抜いて軽く構えに入る。

 そんなギブリを見て、アキラは質問を問い掛けた。


「本当に良かったのですか??」

「こうでもしないとレッドアイズに後々怒られちまう。どうせバトルロイヤルモードに切り替わっちまったし、もう後戻りは出来ない」

「貴方は優しい方ですね」

「今から殺されるってのに何言ってんだ??」

「それもそうですね。〝ファントムリベレイト マジシャン〟」


 アキラは黒い魔女へと姿を変える。


「ただ先攻は貰うぞ!!」


 するとギブリは目にも止まらぬ速さで、俺を白色の長剣で攻撃して来た。

 ギブリの姿さえ見えれば回避や防御は簡単だろうが、俺の反応速度とギブリの速さが比較出来ない程追い付いていないのが分かる。

 これでは直感頼りに次の攻撃を予測するしか方法が無い。


「くそっ!! 卑怯だぞ!!」

「卑怯?? それが何か??」


 俺の懐にギブリの刃が入る。

 身体を動かして俺は紙一重で避けたが、微量のダメージが入る。

 そして俺は火傷を負ってしまった。


「ホムラさん!! 〝シャインチェーンッ!!〟」

「よっと……」


 ギブリは光の鎖に気付き、俺から離れ距離を取る。

 アキラは俺に近付き、状態異常回復の小瓶を渡した。

 俺は小瓶の蓋を開けて中にある液体を飲み干すと、すぐに火傷が直った。


「ありがとう」

「いいえ。気付いたまでです。アレはロトのパッシブスキルで、不用意に長剣へ近付けば火傷になるです。ただ彼の場合は……。〝シャインチェーンッ!!〟」


 アキラは自身を光の鎖で覆う。

 するとカンッと甲高い金属音が鳴り、何かが落ちる。

 落ちた物を確認すれば、それは何枚もの金属の破片だった。


「やるじゃねえか。女ッ!!」


 次はアキラに狙いを定め、ギブリは目にも止まらぬ速さで襲い掛かる。

 アキラは光の鎖を展開させて防御力を高めた。

 だが俺はギブリが嘲笑っている様に見えた。


「アキラッ!! 避けろ!!」

「え??」

「遅え!!」


 ギブリは白色の長剣を何の躊躇いも無くアキラを、光の鎖ごと斬った。

 アキラは自分自身が斬られた事に驚くと一度倒れそうになったが、何とか杖で自身を支えてその場をやり過ごした。


「まさか……、それは」

「その通り。この長剣はテラ様が俺の為に作って下さった魔法使い殺しの魔剣。どんな魔法もこの長剣に対しては無力。今まで槍で殺り合ってたから、気づかなかったのは無理も無いだろうな!!」


 テラ。またその名を聞いたような気がする。

 どうもテラって言う奴は、武器商人か何かで間違い無さそうだ。

 そして今ので分かったが、あの長剣のお陰でアキラはギブリにすら近付けない事。

 それなら勝機は無いに等しい。俺がギブリの速さに追い付いていないから……、否、有る。


「〝魔王剣技 雷虎流星〟」


 これは相手の速さを封じる技だ。但し確率は狙った場所に左右される。

 俺はギブリの足元に狙いを定めた。

 成功。ギブリのあの速さを封印させた。


《ギブリは神速を封印されました》


「へえ。やるじゃねえか。俺の神速を封じやがった。まあそれ位しか方法が無いだろうからな」


 ギブリは俺に対して何故か納得の表情を見せる。

 いや、まさかな……。


「これで正々堂々戦える!!」


 俺は走り、ギブリに刃を向けて突進する。


「〝魔王剣技 桜花一閃〟」


 刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。

 透かさず俺はギブリを斬ったが、ギブリはそれを避ける。

 ギブリは反撃も防御せずに後退した。


「まだだ」


 俺はギブリから距離を取ると長剣の刃先と大地を密着させて勢い良く走り、ジリジリと音を鳴らしながら技を放つ。


「〝魔王剣技 桜花一閃ッ!!〟」


 刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。

 すると次の瞬間。刃先と大地を密着させた事によって起きた摩擦が、少しずつ火花を散り始める。


「雷よ。我が剣技に応えよ」


 やがて火花から電気が迸り、長剣に雷が纏う。


「荒れ狂う桜の風よ!! 今こそ我の前へと姿を現せ!!」


 俺はギブリに向けて長剣を振るう。


「〝魔王剣技 雷鳴の嵐〟」


 突如放たれた旋風は嵐となって荒れ狂い、そして衝撃波となってそのままギブリに直撃した。

 するとギブリは何か小瓶を手に取り、何も防御をせずにその攻撃を受けた。

 その間に俺は詠唱を始める。


「桜舞い散る、春の丘。風の音色に耳を傾け、我は問う。この世全てが永遠ならば、我は全ての平和を望み。この世全てが戦場ならば、我は全てを無へと返す。桜の魔王、ここに有り。〝術式解放 桜花〟」


 俺は無事詠唱を完了させると魔法が発動し、足元から周囲へと電流が一瞬迸る。


《ラストアタック〝魔王剣技 鬼牙一閃〟の準備が完了しました》


(次はミシロの時のようなミスはしない。確実にギブリに当ててやる)


 風が穏やかになり、ギブリが姿を現す。

 ダメージは2割りと余り削られていないが、ギブリは桜花一閃の効果で麻痺になり、身体が痺れて動けずにいた。

 さっき持っていた筈の小瓶が無い事に気付いたが、今は無視しよう。

 どうせ回復薬か何かだろう。

 雷鳴の嵐を直撃しといて、ダメージが2割りな訳が無いと俺は思ったからだ。


「〝魔王剣技 焔神楽〟」


 俺はギブリを長剣で横に斬った。

 するとギブリの背後に魔王クラスの炎弾が当たり、追加効果で火傷を負った。

 これでダメージは3割り削られ、ギブリのHPは半分しか無く、火傷で微量のダメージが加算される。


(もうひと押しだ)

「〝魔王剣技 桜花一閃〟」


 刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。

 透かさず俺は追い打ちを掛ける様にギブリを斬り、何もさせない為に麻痺を継続させた。

 これでギブリの残りHPは4割り。麻痺で身体は動かず、微かに火傷でダメージが入っている。

 この状況だと仲間がいなければ、助けられないだろうな。


「〝ラストアタック〟〝魔王乱舞 鬼牙オーガ一閃〟」


 何もない空間から突如出現した、いくつもの赤い斬撃がギブリの周囲を囲うように襲いかかる。

 無抵抗のギブリは当然防ぐ事も出来ずに、そのままその赤い斬撃を受け続けた。

 するとその傷跡からさっき術式解放した桜花の術式が刻まれた。


 ギブリはニタァと口元を歪ませ、俺を嘲笑っているのが見えたが何が面白いのか分からず、そんなギブリを俺は見届けた。

 その桜花の術式の中から赤い玉が現れると、蝋燭の火をふっと消すように消え失せるとギブリのHPはゼロになり、ギブリの甲冑が壊れて顔が露出した。


「お前は……!!」

「気付くのが遅えよ。!!」


 その顔の正体はブリキ。否、亘だった。

 何でここに亘がいるんだよ。

 俺の驚愕した表情にギブリは笑い、拳で俺を殴り付けた。


「……!!」


 当たり判定が入り、俺にダメージが入る。

 どう言う事だ?? 確かに俺はラストアタックでギブリを……??


「俺のHPを良く見たらどうだ?? 魔王様」


 ギブリのHPを今見れば、1だけが残っているのが見える。

 するとギブリは魔法を自身に掛けた。


「〝アルティメットヒール〟」

「なっ!!」

 ギブリのHPは全回復した。


「〝シャインチェーン〟」


 ギブリに光の鎖が襲いかかる。

 だがギブリは白色の長剣で光の鎖を薙ぎ払う様に斬った。


「聞かねぇって言ったろ。女!!」


 するとギブリは金属の破片をアキラに投擲する。

 それをアキラは瞬間移動で回避したのを見て、俺はほっとする。


「ちっ……!! 小賢しい魔法使いめ」

「お前に何があったんだ!! 亘」


 俺は必死にギブリに問い掛けた。

 だがギブリは俺を見て目を伏せた。


「魔王様は見逃してやる。〝魔王剣技 桜花一閃〟」


 ギブリが持つ白色の長剣の刃先が一瞬輝きに満ちて光が閃いた。


「なっ!! 何で俺の魔王剣技を……」

「魔王剣技は魔王様にしか使えない技だ。だがこの受けた技を複製する魔法瓶を飲めば、一定期間に受けた技の回数分だけ同じ技が使用可能。但しリベレイトの技は抜きなんだけどな」


 そう言ってギブリは、雷鳴の嵐直前に飲んだ小瓶を見せ付けながら俺を素早く斬った。

 思わぬ事態に防げなかった俺はその場から倒れた。

 すると身体に電流が走り、次第に痺れている事に気付かされた。


(くそっ……)


 ギブリは倒れた俺を横目に見つつ、アキラに歩み始める。

 アキラは近付くギブリに魔法で応戦するも、長剣で全て斬られて無効化される。


「女。殺される準備は出来たか……??」


(殺される?? 何の話だ……)


 このゲームはデスゲームではない筈……。

 それはアキラが最初に説明していた。

 なのにギブリは何で殺すと宣言しているんだ。

 プレイヤーキル。にしてもアキラの様子がおかしい。

 どう言う事だ??


「何だ魔王様。のか?? このゲームは!!」

「駄目です!! それ以上の発言は彼にも所有権が渡るです!!」


 アキラは何かを隠そうと必死に叫ぶ。

 するとそれにまず反応したのは、亘ことギブリだった。


「……そうか。そう言う事か……。お前が魔王様の案内人だな……」


 ギブリは納得すると、低い声でアキラに話し掛けた。


「それが何か……」

「レッドアイズとは大違いだ。レッドアイズならこう言ってたんだろうな」

「待って……!!」


 ギブリはアキラを無視して倒れた俺に振り返ると、白色の長剣に白い炎のようなオーラを纏わせて静かに言った。。


「魔王様、この白いオーラはな。コアキルを発動する為の条件だ。で、コアキルってのはプレイヤーを消滅させる技なんだ」


(プレイヤーを消滅?? そんな事出来る訳無いだろ)

「何を言ってるんだ……、亘……」


「このゲームは……。ファントムフリーはロストゲームなんだ。デスゲームの様な生温いものじゃない。人が死ぬんじゃなくて、消えるんだよ」

「だから、何を言って……」


《ホムラはコアキルを獲得しました。これで貴方も本当のファントムフリーを始められます》


(え?? 本当のファントムフリー??)


「物は試しに実践だろ。今から見せてやる!!」

「さっきから何を言ってるんだ。亘!!」


 するとギブリはアキラに襲い掛かる。

 そして白いオーラを纏わせた白色の長剣でアキラを……。


「〝コアキルッ!!〟」

「いやああッッッッ!!!!」


 アキラの叫んだ断末魔と共に、俺から何かが抜け落ちたような気がした。



   ◇ ◇ ◇



……。

…………。

………………。


「目覚めろ!!」


 そして誰かが俺に問い掛ける。


「目覚めろ!! 黒井焔!!」


(アンタは、いったい誰だ……??)




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