俺がこの世界に来た経緯を全て話し終わる頃には、亘も俺を見て深く溜め息を吐く。
アキラはと言うと、興味津々に俺の話を聞いてくれた。
やはりSランクは何かが違うようだ。
俺の話が嘘偽りのない話だと分かると、何も否定せずに信じてくれたからだ。
「まず魔王様が空ちゃんの事を空先生って言ってるのが驚きだが、やっぱりあの人。二刀流のソロプレイヤーだったのか……」
「知ってたのか??」
「噂と情報の照らし合わせで、魔王様のその話と合致したってだけだ。空ちゃんも魔王様と同じく一周目クリア者なら、魔王様が黒の束縛とやらの影響で記憶消失になっていた事も知ってたんじゃ無いのか??」
「確かに……。ありがとう亘。後で聞いてみるよ」
「少し質問良いですか??」
亘との会話が終わると、アキラは右手を上げて俺に話し掛けて来た。
「何だ??」
「私はホムラさんの話が本当に起きた事だと分かったのですが、まだ貴方を信じられないです。ホムラさんが一周目のクリア者なら、私の本名は分かるですか……??」
一周目の時のアキラも消滅する最後に、そんな事言っていたっけ。
アキラは案内人の中でも本名を隠し通している。
唯一本名を知る者は家族か、信頼した友人のみ。
案内人は嘘発見器のようなファントムコマンドで全てを見透す事ができるから、怪しい奴等がアキラの本名を知って近付いても直ぐに嘘がバレる。
そもそもアキラが案内人である以上、無意味なんだよな。
だからもし二周目でまた彼女に会えた時に本名を伝えれば良いと、俺は一周目のアキラに教えられていた。
「ああ。それなら覚えてる。秋。アキラの本名は、九条秋だろ」
「お見事……です」
「俺を信じてくれるか??」
「はい。ホムラさんを信じます」
「そりゃ良かった。俺が救いたかった相手に嫌われたら、確実に凹んでいたからな」
「魔王様なら有り得るな!!」
二人共、俺と意気投合して何とも楽しそうに見えた。
それはさっきまで殺し合いをしていたのが嘘みたいな光景だった。
案外一周目も勘違いや騙し合いさえ無ければ、こんな場面が見られたのかも知れない。
「じゃあ俺は行って来る」
「そうだったな、魔王様。俺が今倒されると、デッドに消されるかも知れないんだろ」
「私も付いて行ければ良かったのですが……」
「良いよ。アキラはここにいろ。アキラが消されると、空先生が泣くから」
「分かったです。では始めるですよ」
「ああ」
俺は一周目の事を全て話し終わる途中に、次にやる準備を二人に教えていた。
それはギブリがアキラのコアキルに失敗して神殿でデッドに消される事や、アキラが倒された時に復活場所で彼奴の仲間がいるかも知れないと言う事だ。
それを未然に防ぐには二人をこの場に残し、ギブリが復活するであろう神殿に俺が直接行く事だった。
だがここはバトルロイヤルモードの結界の中。
普通なら誰かを倒されなければならないが、これ程までも強固な結界を利用しない訳が無いだろう。
だから俺は白猫がやった様な結界そのものを斬るのではなく、強引に穴を開ける事さえ出来れば脱出できるのではと俺は思い付いた。
だがそれはアキラが言うには難しいようだ。
結界にラストアタックを撃っても、数秒で開いた穴は閉じてしまうらしい。
スピードが無ければの話だが……。
(俺のブラッドの暴走を使えば、脱出ぐらいなら可能だな。あとはアキラのティターニア・フォース、最大出力に賭けるしか無い)
俺は見た事は無いが、空先生が言うにはアキラの持つラストアタック。ティターニア・フォースの最大出力には、最も詠唱が長いが故に最も強力だと言っていたのを俺は知っていた。
それは相手を失明させる程では収まり切れず、本来はフィールドすらも破壊する技らしい。
だが空先生曰く、チーム戦では使えるがPVPでは使えないみたいだ。
だからアキラは詠唱を短縮させて、威力を落としていたようだ。
「少し時間が掛かるですが良いですか??」
「ああ。頼む」
俺は一度リベレイトアウトし、ブラッドを解除させた。
数分後。アキラの詠唱が終わり、出口のある結界へと白色の長杖を向けた。
「準備は良いですか!!」
「いつでも」
「〝ラストアタック〟〝ティターニア・フォースッ!!〟」
白色の長杖から眩い閃光を放つとその場を白く染め、全てが閃光に飲み込まれていく。
すると硝子が割れた様な音が遠くから聞こえたので、俺は駆け抜けて閃光へと飛び込んだ。
「〝ファントムリベレイト〟〝ブラッドッ!!〟」
俺は強靭な黒き鎧を全身に纏い、禍々しい二本角の兜が装着され、赤い血色の魔力が全身を駆け巡る線によって赤く光り輝き、そして満たされる。
「〝暴走〟」
俺は全身を獣化させてステータスが2倍に跳ね上がり、修復中の結界から外へと脱出した。
《エラーが発生しました》
その表示を確認し、俺はギブリが教えてくれた魔鋼都市ギアコロニーへと獣化した状態で駆け抜けた。
◇ ◇ ◇
━ ━ ━ ━
魔鋼都市 ギアコロニー
伝説の大魔法師クロノスが生み出した魔法の歯車を主軸に、魔鋼結晶の強い魔力によって常に形が変化する機械都市。
魔鋼結晶とは強い魔力を入れる為の器であり、精製する為にはモンスターの体内にある魔石を大量に取り除き、結晶化する事で初めて魔法師の手によって精製されると伝えられている。
ギアコロニーには沢山の鉱石が取れる採掘場があり、鍛冶屋を営むドワーフが多く移住している。
その為。中級冒険者になると新たな武器や防具を求め、ここへ訪れるのは至極当然なのである。
━ ━ ━ ━
着く直前に暴走の効果が切れ、獣化から元のブラッドの姿へ戻る。
俺はリベレイトアウトでブラッドを解除し、元の戦士の姿へと戻した。
リベレイトの節約した方が無難だからな。
ギブリの言っていた神殿の入口へ入ると、赤いフードを被る怪しい奴が見えた。
「誰だ!!」
俺が叫ぶと赤いフードの奴はこちらを覗いた。
「ギブリはどうした……??」
「アンタこそ、こんな所で待ち伏せか??」
「お前に話す義理は無い。今回は帰らせて貰う」
「嫌だと言ったら……!!」
「それが可能ならな……」
「どう言う事だ!!」
「待って!!」
すると俺の背後から赤い目の少女が現れる。
俺はいきなり現れた少女に気を取られ、気付く頃には赤いフードの奴の姿を見失った。
(クソッ!! 逃げやがった!!)
奴は何者だったんだ??
デッドは薄茶色のフードを愛用し、背の低い男性だった。
だがあの赤いフードの奴は身長が高い時点で、俺が知るデッドでは無かった。
一周目の記憶を辿っても、あんな赤いフードの奴なんか俺は見覚えがない。
(一周目とは違うのか……?? いったい何が起きようとしているんだ……)
これは空先生と話し合った方が良さそうだ。
いずれにしろ。今はこの目付きの悪い少女をどうにかする方が先だった。
◇ ◇ ◇
それから2時間後。
「〝ファントムアウト〟」
俺は現実世界へと帰還し、高校の屋上へと来ていた。
長くあの世界に滞在していたので既に太陽は無く、夜空には辺り一面星空が広がっていた。
俺は階段を降りて屋上を後にした。
教室へ来てみると、誰もいないのか照明は薄暗い。
だが教卓には一人。見覚えのある少女が眠っているのが俺の目に映る。
音を立てずに教室の中へと侵入し、その銀髪の髪を優しく撫でると俺は銀髪の少女の耳元に向けて小声で話し掛けた。
「ただいま」
すると銀髪の少女は目の前の俺に気付いて瞼をゆっくり開けると、上目遣いで俺の返事に対して小声で返した。
「おかえり」
空先生は満面の笑みで微笑んだ。