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 Ⅰ Fragment / 救世の絆 

Ⅰ 16/17

16話「目覚め」


 ここは魔法都市アルカナにある火の神殿の最奥の部屋。

 俺はアキラを救う為にここへ訪れ、ギルドスカーレットアイズの尖兵にして、炎の魔剣士ロトの弟子ギブリこと、亘と戦う羽目になる。

 ギブリは雷鳴の嵐直前に飲んだ小瓶を見せ付けながら、素早く俺から奪った技である桜花一閃で斬り、思わぬ事態に防ぐ事は出来ずに俺はその場から倒れた。

 すると身体に電流が走り、次第に痺れている事に気付かされる。


(くそっ……)


 ギブリは倒れた俺を横目に見つつ、アキラに歩み始める。

 アキラは近付くギブリに魔法で応戦するも、白色の長剣で全て斬られ無効化される。


 あの長剣はテラこと九重明人がギブリの為に作成した魔法使い殺しの魔剣。

どんな魔法も無力化する為、アキラの魔法は全く使えない。


「女。殺される準備は出来たか……??」


(早く止めないと……)


 あのシステム野郎。管理者権限で戻した時間を書き換え、俺が何も仕掛けられない状態で固定しやがったな。

 桜花一閃の麻痺は一定期間が過ぎれば解除されるが、そこまで待ってやる程時間は無い。


「何だ、魔王様。のか?? このゲームは!!」

「駄目です!! それ以上の発言は、彼にも所有権が渡るです!!」


 アキラはこのゲームの真実を隠そうと必死に叫ぶ。

 するとそれにまず反応したのは、亘ことギブリだった。


「……そうか。そう言う事か……。お前が魔王様の案内人だな……」


 ギブリは納得すると低い声でアキラに話し掛けた。


「それが何か……」

「レッドアイズとは大違いだ。レッドアイズならこう言ってたんだろうな」

「待って……!!」


 ギブリはアキラを無視して倒れた俺に振り返ると、白色の長剣に白い炎のようなオーラを纏わせて静かに言った。


「魔王様、この白いオーラはな。コアキルを発動する為の条件だ。で、コアキルってのはプレイヤーを消滅させる技なんだ」


(くそっ。初期装備でこの麻痺状態の中、どうすれば……)


 身動きが取れない状態の中、俺はメニュー画面を脳内操作で呼び起こし、冷静に現在使用可能な技の一覧を表示させる。


━ ━ ━ ━

桜花一閃 剣技 宝具

 焔神楽 

 雷虎流星

 雷鳴の嵐 宝具

 白色氷華 

 ???

 ???

 ???


 ※この『???』は、フリーのレベルに応じて解放される技。

━ ━ ━ ━


(マジかよ……)


 どれもこの麻痺状態から抜け出せる技は無かった。


「このゲームは……。ファントムフリーはロストゲームなんだ。デスゲームの様な生温いものじゃない。人が死ぬんじゃなくて、消えるんだよ」


《ホムラはコアキルを獲得しました。これで貴方も本当のファントムフリーを始められます。ですが今の貴方は滑稽で愉快。その状態から救うなんて出来る訳が無いでしょう》


 嘲笑うシステム野郎の声に、俺は逆に返事を返す。


(そうか……。お前は何も知らないんだな……)


「物は試しに実践だろ。今から見せてやる!!」


 するとギブリはアキラに襲い掛かる。

 そして白いオーラを纏わせた白色の長剣でアキラを……。


「〝コアキルッ!!〟」

「させねぇよ!!!!」


 俺は急いでギブリへ接近して空かさず長剣で応戦し、ギブリの白色の長剣を勢い良く弾いた。

 コアキルは身体の中心に当てなければ、コアキルにはならない。

 それを知るのはごく一部のコアキルプレイヤーと、シャーロットのみ。


「は!?」


《どうして!! 貴方はまだ……》

(ああ。俺はまだ麻痺状態から回復してないな。それがどうした??)

《チート野郎》

(チートねえ。何処ぞのシステム野郎が管理者権限使ってまで、俺を苦しめようとしたのが仇になったな……。もうお前は俺を止められない。今のお前なら解るだろ。さっさと消えろ)


 ここはもうファントムフリーの中。システム野郎が有意義に出来る世界とは違い、俺はシャーロットに教わった技さえ使えば干渉出来てしまう。

 それはシステム野郎も気付いているだろう。

 何だってシャーロットはファントムフリーに携わった開発者なのだから。

 そしてシステム野郎の気配が完全に消えた事を俺はすぐに確認した。


 さてこの後。亘をどうしようか……??

 その前に……。

 俺が急に前から現れて驚く彼女アキラを見れば、顔が赤くなっているのが分かる。

 熱なんてこのゲームにあったか??


「アキラ。下がってろ」

「……!! はい!? 分かったです!?」


 俺の声に驚き、おどおどと後ろへと後退する。

 その姿は何とも今までに見せたアキラの姿とは違い、何処か可愛く見えてしまった。


「…………何で……。何で、魔王様が動けるんだ」


 今も尚。麻痺状態の俺を見て、ギブリは幻を見るかの様に俺を見る。


「知るかよ。ファントムフリーはまだαテストなんだろ。偶々バグで動ける様にでもなったんだろ」


 本当は違うんだけどな。

 これはZランクの恩恵だ。

 Zランクを突破すれば、戦闘中低確率で想いの力を具現化する事が出来る様になる。

 俺はアキラを救いたい。

 その想いが力となり、状態異常で有ろうが無かろうがシステム上では無力化されてないが、俺自身は無力化させる事に成功したようだ。


「そうか。確かにそれなら頷ける。だがそんな奇跡が起きようとも、今の魔王様の力で果たして俺を倒す事は出来るか??」

「そうか……。なら殺って見るか……??」


 俺はギブリに余裕な表情を見せる。


「俺は本気なんだぞ。魔王様!!」

「それがどうした……。まさか俺相手に手を抜いたりしないよな」

「もうどうなっても知らねぇぞ。魔王様!! 〝リベレイトアウト〟〝ファントムリベレイト、ナイトランサーッ!!〟」


 ギブリはリベレイトを解除し、白色の長剣を鞘へとしまう。

 新たにリベレイトで白き騎士の甲冑鎧を装備し、手元に長い槍を出現させて、それを構えた。


━ ━ ━ ━

 ナイトランサー 固有


 中級者向けである騎士の槍術に特化した能力が付与される。

 主に薙ぎ払い時の追加ダメージ、神速、投擲時の装填時間短縮など。

━ ━ ━ ━


(ナイトランサー……。また厄介なリベレイトが来たもんだな。だったら……!!)


 俺は長剣の刃先と大地を密着させ、素早く技を放つ。


「〝魔王剣技 桜花一閃ッ!!〟」

 すると刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。

 俺はその瞬間を逃さず、刃先と大地を密着させた事によって起きた小さな摩擦の中、軽く火花が散る。


「雷よ。我が宝具に応えよ」


 やがてその小さな線香花火のような火花から小さな電流が迸る。


「穏やかな桜の風よ!! 今こそ我の元へ来い。〝魔王宝具 雷鳴の嵐〟」


 旋風が俺を包み込み、身体の電流が放出されて麻痺状態を回復させた。


《ホムラは麻痺を解除した》

《一定ダメージ遮断》

《10秒間無敵》


「たかが10秒で何が出来る!!」


 ギブリの声に耳を傾けず、俺は目を閉じる。


(ロゼッタ……。救いたい友の為、俺に力を貸してくれ!!)

〝いいよ。ホムラ〟


「〝親愛なる彼女の微笑みは、俺の心を浄化させ〟」

〝親愛なる彼に導かれ、私の心は満たされ〟

「〝世界がどれ程、悲しみ、憎しみ、怒りに満たされようとも〟」

〝世界がどれ程、幸せ、慈しみ、許されても〟

「〝俺は世界を蹂躙し、世界を滅ぼす存在となる〟」

〝私は世界を繋ぎ、世界を救う存在となる〟

「〝魔王である〟」

救世主メシアである〟

「〝ファントムリベレイト、ブラッド〟」


 俺は分厚くも硬い強靭な黒き鎧を全身に纏い、頭には悪魔の化身と化したかの様な禍々しい二本角の兜が装着された。

 するとブラッド自身が俺を主人だと認め、黒き鎧から赤い血色の魔力が全身を駆け巡る線によって赤く光り輝き、そして満たす。


 ブラッド自身に武器は無い。

 有るのは拳と収縮可能な細長い爪。

 俺の戦闘にこの細長い爪は殆ど向いていない。

 一定期間ステータスが2倍になる初期技。暴走ビーストに使えはしたが、相手に間合いを取られると弱点に繋がる事がある為、ここはシロッコから貰った長剣に頼るしかない。

 だが長剣の耐久値は残り僅かしかなく、今にも壊れそうだった。

 盾や鍔迫り合いに使えない時点で、俺の戦闘に制限が掛かっているのは目に見えていた。


(こんな時にダインスレイヴさえあれば……)


 だが無いものは仕方ない。

 だから俺はブラッドのラストアタックに掛けるしか方法は無かった。

 生憎。ブラッドはゴツイ黒き鎧を全身に纏っているが、スピードの早さには自信があった。


「行くぞ、ギブリ。否、亘!! 本気で来ないと殺られるのはお前だ、亘!!」


 まだ目覚めて間も無いが、俺はブラッドになった時点で不思議と感覚が懐かしかった。

 まるでロゼッタが俺を護っているかの様に。


暴走ビースト!!」


 俺の全身は獣化し、元々スピードの早いブラッドのステータスが2倍になると、一瞬にして亘の懐に入る事に成功する。

 亘自身もそれに気付く。コンマ1秒反応に遅れたが、まだ間に合うと思ったのか長い槍で俺を薙ぎ払う。

 すると俺は舌打ちして、その長い槍を避けて後退した。

 だが亘は後退する俺を見て、長い槍をこちらに向けて投擲して来た。


「驚いたぜ、魔王様!!」


 俺はそれを回避すると、亘が神速で俺の目の前へと現れる。

 長い槍は相手を撹乱させる為の、唯のフェイク。

 こちらが本命。もしくはまだ亘の中で俺を試しているのだろうか……??

 俺は長剣を亘に向けると、鞘から白色の長剣を取り出して亘は俺の長剣を真っ二つに斬った。


「それを俺は待ってたんだよ、魔王様!!」


 武器破壊。武器にも判定基準によって一部弱点がある。

 反射神経が早い奴や戦闘慣れしてる奴なら、この手の技は相手の剣を見れば判るものだ。

 だが俺の場合は長剣に刃こぼれがあった。

 だからこそ亘はそこに意識を集中したようだ。

 俺の長剣は耐久値関係無しに破壊され、ポリゴン体となって数秒で弾ける様に消滅した。

 確かに武器が無ければ細長い爪で戦う羽目になるが、それでも武器が無ければ俺の戦闘力は格段に落ちるだろう。


暴走ビーストの効果を切りました》

(だがな。亘。俺の勝ちだ)


 優越感に浸る亘に俺は掌を向けて、静かに言い放った。


「〝ラストアタック〟」


 それを聞いた瞬間。亘は驚きを隠せずに目を見開いたが、無詠唱のラストアタックなんて聞いた事が無いのか、早急に撤回。

 逆に亘は俺を見て、哀れに思ったに違いない。


「〝ヴァニティー・ブラッド!!〟」


 すると亘の身に何も感じる事は無かった。

 それは何かダメージが及ぶ痛みがある訳も無く、状態異常などのデバフが掛かっている訳でもない。


 ※デバフとは、キャラクターやアイテムの能力を下げる効果のこと。


 それもその筈。この技は……。


「ほらな。何も無かった。魔王様、唯の脅しが通用する程、この世界は甘く無いぜ。じゃあな、魔王様!!」


 亘は白色の長剣を手にして俺を斬る。

 だが全く斬れず、ダメージすらも入らない。


「どう言う事だ。〝魔王剣技 焔神楽ッ!!〟」


 何も起こらなかった。炎段すらも発動しないし、来る事も無かった。


「まだ気付かないのか?? 亘。お前の負けだ……」

「そんな事あるか!! 〝コアキル!!〟」


 使えない。白いオーラは出るものの、そこからの反応は無かった。


「クソ!! 運営は何してやがる!! バグにも程があるぞ!!」

「だからお前の負けだ、亘。往生際が悪いぞ」

「どう言う事ですか……??」


 アキラは亘の反応を見て何故か安全だと判断したのか、俺に話し掛けて来た。

 そうしてる間にも亘は状態異常回復薬を飲もうとしても何も効果はなく、状態異常回復薬を投げ捨てては何本も割っているのを見て、ここまで酷いとは思わなかった。


「このヴァニティー・ブラッドを受けた相手は何も出来なくなるんだ」

「え?? っと……。何を言ってるか分からないです」

「最初は皆、そう言うんだよ」

(一周目の時も、確か戦った奴ら全員にそう言われたっけ……??)


 対策するならヴァニティ・ーブラッドの射程内、俺の掌が相手の中央にあるコアに向けなければ良いだけだ。

 そう。俺は相手に近付かなければ、ヴァニティー・ブラッドは使えない。

 それでも超接近戦で戦ってこの技が使えなかったのは、空先生と九重明人だけだった。

 九重明人アイツと戦うと何故か攻撃が予測されている様で上手く攻撃が当たらないし、行動すらも読まれているみたいで気持ち悪かった。


「亘。終わったか??」

「なら、〝神速〟」


 能力すらも発動しない。俺は知っていたが……。


「だったら自害してやる!!」

「おい。そこまでにしろって」


 自害しようとしても亘はどう言う訳か上手く出来ず、自分自身に刃を向ける事すら出来なかった。


「だったら!! 女ッ!! 俺を殺してくれ、頼む!!」


 ひっ!! っと引き気味のアキラを見て、俺はアキラよりも前に出た。


「亘。お前は俺にしか殺せないんだ……」

「だったら」


 期待の眼差しで俺を見て命乞いして来る亘が、さっきまでの緊迫感が全く感じられなかった。


(今なら話せるか……??)

「なあ亘。何でお前はアキラをコアキルしようとしたんだ??」

「それとこれには、今関係……!!」


 チラッと亘の目の前にアキラの姿が映る。

 すると亘は一度深く溜め息を吐き、戦っても無駄だと分かったのか、自身のリベレイトを解除して徐ろに俺を見て喋り出した。


「俺はロトさんの仇討ちの為に来たんだ。そしたらデッドさんがその相手は色々と面倒事を起こしているらしくて、コアキルを使ってくれと命じられた」


(デッド……!! 今、デッドって……!!)


 俺は一周目の記憶を朧気に呼び起こす。

 デッドはアキラをコアキルしろと命じた張本人だ。

 俺がデッドをコアキルで仇討ちした後も、デッドの策略によりファントムフリーは散々な目にあった。

 家族愛……、友情。そんな物すらもデッドは手を出していた。

 俺達はデッドが踏み躙った後と最悪な出来事しか覚えがなく、殺戮、洗脳、暴徒、戦略によって色々な物が崩壊していったのを今も尚、俺の胸の中に刻まれている……。


「何でコアキルなんですか?? おかしくないですか??」

(アキラ……!!)


 アキラは亘の話を聞いてると、素直に首を傾げた。


「そもそもロトさんは私をコアキルしようとしましたが、私はプレイヤーキルしたまでです。その情報だとロトさんは……」

「ああ。コアキルされた。で、ギルドに所属していれば、その行方不明者の最後の戦闘記録が残るんだが、それにその女の名前が載っていたんだ。だから」

「コアキルしようとした」

「違う。俺はそもそも確認する為に。あ……!! 羽目られた……。そうか。そう言う事か」

「どうした??」


 何かがおかしい。

 一体、亘の身に何が……。


「魔王様に聞きたい事がある」

「何だ??」

「魔王様。お前は一体、何者だ?? 初めてにしては強過ぎる。まるでこのファントムフリーを前から知っていた奴みたいだ。女も薄々思っているなら、そんな囁いな事も聞いた方が良いぜ」


 アキラを見るとただ呆然と俺を見つめているので、アキラも俺の行動が何処か不思議だと気付いていたのか。


「で、どうなんだ?? 魔王様」

「何か言えない事情でも」

「女は黙れ!! 俺は魔王様に聞いている。ホムラの友達として。部外者は引っ込んでろ!!」


 友達として、か……。

 あの頃から亘は高校の中でも忙しくて話せない状況が続いていたが、やっぱり俺の事をまだ友達として思っていたのか。

 俺は全てを話すべきなのだろうか……??


(救いたい仲間がいる)


 俺はその為に生きて来た。

 なら、話すべきだろう。

 生憎。バトルロイヤルモードは中の様子は見れても、声まではユーザーには聞こえない。

 盗聴機能もないから安心出来るしな。

 俺は彼等に全てを話した。


 クリアした経緯を。

 一周目に何があったのか。

 そして何故またここに戻って来たのか、全て。




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