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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 04/19

4話「貧乏となった原因」


 午後9時。

 夜の無限高内で僕は一人、スマホ片手に軽く情報収集していた。

 特徴が不明な指輪を捜すのは流石に骨が折れるので、有力な情報が見つけ易いネットに絞る事にした。

 まあ早めに拠点へ帰ってみるのも良かったが、ガオウに見つかると閉め出されるのは確実。

 なのでこうやって時間潰しに情報収集に試みるのも、捜す手間を考慮してか案外簡単に有力な情報が手に入るので良かったりもする。


 家紋の入った指輪は持ち主にしか分からず、普通の指輪と大差ないので一般人には分かり辛い。

 指輪は本人にしか反応せず、各宝石から家紋が浮かび上がる。


「って事は間宮が指輪を紛失した時点で、もう終わっているんじゃないのか……」


(でも去年一時期、無限高って指輪ブームになっていた時があったよな……)


「まさかな……」

『お前、応答できるか?』


 するとガオウが念話してきた。

 この念話はクロスレゾナの契約した時に付いていた特典だ。

 無限高に来てから気付いた事だが、ガオウには身分証と呼ばれる物は一切なく、携帯すら持たせる事は出来なかった。

 だからこうして携帯代わりに念話を使用している。


「ああ。今なら大丈夫だ。何かあったのか?」

『間宮の部屋に来れるか?』

「女子寮は男子禁制じゃなかったか……」

『いや。確か学生寮の近くにボロアパートがあったろ。間宮の家は、そこだ』

「はい?」


 余りにも貧乏過ぎて、学生寮を追い出されたか……。

 するとガオウは僕の予想と同じ事を言い出した。


『貧乏だからって言う訳じゃなくてな。お前じゃないと分からないから、ちょっと来い』

「少し寄り道するから時間掛かるけど、良いか?」

『それでも良いぞ。じゃあな、待ってる』


 プツンッと念話が切れた。

 何だ? 僕じゃないと分からないって。

 今の会話って指輪と関係ある話だっただろうか……。


「まあ待たせるのは悪いし、先に用事済ませるか……」


 僕は何処か別の場所へ寄り道して、ある物を取りに用事を済ました。



   ◇ ◇ ◇



 東門の近くにはリゾートホテルのような学生寮があるのが見える。あれが噂の月二万円の学生寮だ。

 男女別にある二棟の学生寮を抜けると、奥にひっそりと佇む二階建てのボロアパートが四棟程あった。

 あのボロアパートも学生寮だが、月二千円以下で個室が二階を含め六つ。

 台所やトイレなどは共同で、確か風呂は無し。

 借家条件は一般科コーマ以外の生徒のみだったような気がする。


(こんな所に間宮が住んでいたとはな……)


 僕は新聞受けから間宮の名札を探してみると、どうも一階の手前二つの借家持ちだと言う事に驚いた。


(何か貧乏にしては贅沢だな)


 インターホンが見当たらないので、僕は手前にある個室のドアを叩いた。

 すると中にいたガオウがドアを開けてくれた。


「遅かったな……」

「寄り道するって言わなかったか?」

「ああ、そう言えば言ってたな。ついでに俺の大好きな苺オ・レでも買って来たか?」

「いや買ったけどさ」

「やっぱ俺の使いだな!」


 僕は袋からキンキンに冷えた苺オ・レの紙パックをガオウに渡す。

 ガオウは笑顔でグッチョブされたが、僕はそれを無視して家の中へと入る。


「で、何があったんだ?」

「見たら分かる」


 僕は玄関で靴を抜いで廊下へ渡ると、そこには部屋一杯に敷き詰められた壺があった。

 その壺の中を覗くと、橙色の丸薬のような物が大量に詰められていた。


「タブレット? それも攻撃力が一時的に上がるタイプだな……」


 僕は丸薬を一つ手に取り、手持ちの鞄から鑑定能力付きの虫眼鏡を取り出して鑑定してみた。


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【デミブースト・タブレット】


『ランクD《粗悪品》』

 何回かに一度だけ成功し、一定期間攻撃力が上がる。

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 粗悪品なんて唯のゴミでしかない。

 何でこんな物が間宮の部屋にあるのか不思議でしかない。


(待てよ……。いっその事、壺本体に鑑定してみれば、良品がいくつか入っているんじゃないか?)


 僕は試しに壺本体に鑑定してみたが、予想通り全て粗悪品だった。

 大きな壺。それが六畳の部屋に二十個、無造作に置いてあるのを見て、全部粗悪品なのだろうなと僕は思ってしまう。


「アキさん。もう来てたんですね。お茶淹れますね」

「それよりも間宮。先に聞きたいんだが、これは何だ?」


 僕は丸薬が入った大きな壺を指差して間宮に伝える。

 すると間宮は苦笑いしながら呟いた。


「それはアイテムショップの店長さんが困ってたので、私が買い取りましたけど?」

「全部、粗悪品だぞ」

「え……」


 そう言った瞬間。間宮の顔色が段々蒼白になっていくのが分かる。


(知らずに買っていたのかよ。これは馬鹿というより、少し教育した方が良さそうだな)


「二つ目の部屋も、アイテムショップで買ったガラクタがあるのか」

「すみません……」


 怒られると思ったのか、間宮は顔を伏せて目を閉じる。

 僕はその反応に溜め息を吐きつつ、次の行動に移した。


「じゃあ僕が処分してやるから、先に買い取らせてくれ」

「はい?」


 理解が追いついてないのか、間宮は不思議そうに首を傾げた。


「だから僕が処分してやるから、先に買い取らせてくれ」

「良いんですか? こんな私にアキさんは怒らないんですか?」

「怒る必要ないだろ。知らずに買ってしまったんだし……。で、どうする?」

「はい! お願いします!」

「わかったよ。じゃあ僕がこれを買い取る。それで何と言うか、何か見返りがないと困るから、もう少し本格的に取引しようと思うけど良いか?」

「大丈夫です。ではお茶を用意しますね」

「わかった。ガオウ、そこで楽しんでないで来てくれ」


 僕は苺オ・レを堪能しているガオウを呼んだ。

 部屋の隅にはまだ新しそうな机と椅子があったので、そこに僕は座る。

 そしてガオウもあとから隣に座り込んだ。

 間宮はお茶を二人分用意し、ガオウにはコップ一杯に入れた苺オ・レを置くとさっそく飲み始めた。


「コレ。雪見亭の苺オ・レじゃねえか。高くは無いけど入手方法が難しくなかったか?」

「ははは」


 間宮は苦笑いで誤魔化す。

 間宮の表情が笑っていない所を見ると、こんな所で貴重な飲み物を相手に出すなど知る由もなかったのだと思う。

 間宮が僕と向かい合わせに座った所で、僕は取引の続きを始めた。


「まず僕と取引する場合は、前提として最初に提示したいルールがあってな。それはメリットとデメリットがどの位あるのか。まあそれが知りたいんだよ」

「メリットとデメリットですか?」

「それは俺もコイツと同じ考えだな」


 ガオウは、うんうんと頷いた。

 と言うか……。


「ガオウはそれ以外にもあるだろ」

「まあな」

「で、今回の場合。間宮が提示するのはこの粗悪品の処分だ。これは間宮にはメリットがあるけど、僕はタダ働きになるからデメリットでしかないんだよ。だから僕が提示するのは、今から三日後にあるアルティナの模擬戦に出て貰う事だ」

「えーとアキさん……。私はアルティナの学生証は持ってはいますが、非戦闘員ですよ。戦った事なんて一度もありません」

回復科ティオルだからな。それは承知済みだ。今回間宮にして貰うのは、サポーター。戦闘は僕とガオウで充分だ」

「……それでも、私は出来ません。私をサポーターに選んだとしても、技術や連携は皆無です。もう少し私を動かそうとするなら、相応に提示して貰わないと困ります。確かに私は粗悪品これの破棄については嬉しいのですが、もしアルティナの模擬戦で私が足を引っ張って失敗でもしたら……」


(何だ。そんな事か……)


「技術サポートはしても良いと思っている。と言うか僕の拠点に行けば済むしな。連携は難しいかも知れないけど、僕達と一緒にいれば少しは連携出来るだろ。まあそんな条件でも、間宮にはデメリットでしかないんだろ」

「はい」

「仕方ないな。じゃあ奥の手を使う。僕は間宮にこれを返却する。これならやって貰えるだろ」


 僕は鞄から、桜の花弁を模したインカローズの指輪を取り出して間宮に見せた。


「これは! 何処で? 何でアキさんが持っているんですか! でも、偽物の可能性が……」

「じゃあはめて見てから、確かめれば良いだろ」


 僕は間宮に指輪を渡すと、間宮は右手の人差し指に指輪をはめた。


「〝ステータス・オープン〟」


 すると指輪は桃色の光で紋章が浮かび上がる。

 間宮の目の前では、指輪の所有者の名前や現在の保有能力、未達成の依頼やメールの通知などがスクロール上で全て展開された。


「本物……。良かった。良かったよ……」


 間宮は指輪を見ながら感動の余り泣き始めた。


(泣かした訳じゃないからな)


 泣き止まない間宮を見ながら、光り続ける指輪の紋章に僕は何処か見覚えがあった。


(あれって、まさかな……)


 その紋章は上に王冠、中央に三本の剣が刺さっており、周りには民衆を思わせているような絵が描かれいた。

 やっと泣き止む間宮に僕は話し掛けた。


「間宮って、王族か?」

「え……? 何で」

「最初は指輪があるから、何処かの貴族かと思ってたんだけどな。その紋章さ。首都オーディアを治める王国、オーディアの紋章だろ」

「どうしてそんな事が分かるんーー」

「ニ代目。アトラス・オーディアの碑文に記された紋章の絵に似ているんだよ」

「アキさんは失われた碑文もお持ちだったんですか……」


 間宮は顔を俯いたが何かを決断したのか、正面を向き直して僕の目を直視して話し始めた。


「わかりました。その条件での取引であれば、私もその模擬戦に参加します」


(良し!)


「ですが、仲間となる以上隠し事は良くないです。なのでまず最初は、私とアキさん達の今までの経歴と無限高に志望した理由を共有しても宜しいですか?」


(経歴と理由か。難しい事を聞くな……。何かに気付いたのか……)


「間宮、質問良いか? 今までの経歴って無限高に入ってからか、それともそれよりも前の事か?」

「分からないなら、実際に私からします。宜しいですね」

「ああ」

「では正式に。私は、無限高二年回復科ティオルの間宮・オーディア・輝夜です。私の叔父はオーディアの王であり、私はその直系にあたる為、王国では姫として、ここではこのような形まで墜ちてしまいました。あと指輪を盗まれてしまい、王国には帰る事が出来ませんでした」


(だから金欠だったんだな。それにしても姫にもなるとやっぱり金持ちだから、金銭感覚が分からなかったんじゃないのだろうか……)


「無限高に入った理由ですが、私はこれでも次期女王候補として任命されまして、勉学や教育、何よりも平和な生活を送りたかったので、母に私の我儘を通して貰いました」


(王族だと何かしらのし絡みがあるからか……)


「以上です。次はアキさん、お願いします」

「わかった。僕は無限高二年支援科シーナの九重明人」


 僕はガオウに目で合図を送ると、一度了承して貰う。


「僕はこの世界の住人ではなく、ゲートから来た者だ。王族ならゲートの事ぐらいは調査済みだろ」

「はい。ですが出現してから数日後閉じていましたので、検証は出来ませんでした」

「僕とガオウが通った時にでも閉まったんだろ。あのゲートには人数制限があったしな」

「そうだったんですね。王国に報告しますが宜しいですか?」

「ああ、良いよ。で、僕とガオウは元の世界ではクロスレゾナ。例えるなら契りを交わした者だ」


 それを理解しなければ、次には進めないからな。


「無限高を志望した理由は、主に情報収集の為だ。まあ僕は入学出来たから良かったんだけど、ガオウは身分証明書が作れなくてな。今もこの通り無限高では部外者扱いだが、生徒会長から許諾を得ている」

「私達の生徒会長は割と物好きですけど、面会には規制がありましたよね」

「ああ確かに……。だけどそれは取り引きで解決したよ。割と内容は簡単だったから良かったけどな……」

「凄い。あの生徒会長と取り引きするなんて……」

「そうしないと風紀委員にやられていた。以上だ。今の間宮にはこれだけ話せば充分だろ」

「はい! ありがとうございました!」

「じゃあ僕は作業に取り掛かるから。ガオウ。間宮を拠点に連れて行ってくれ」


「ああ、わかった。今飲み終わったし行くか。間宮、行くぞ……」

「はい。分かりました。アキさん、後はお願いしますね」


 ガオウは最後のみ声のトーンを落とし、間宮はガオウを直視出来ずに恐がり、何故か目を逸らした。


(あれ? ガオウ、いつの間にか怒ってないか? それに間宮も恐がってるし……。まあ良いか……)


 ガオウは間宮を連れて家を出る。

 二人が完全に居なくなる事を確認し、僕は必要な作業道具一式を鞄から取り出した。

 タブレット端末、調合キット上級、魔術科《マギカ》の合成魔術術式上級と分解魔術術式上級、メモ用紙にペン。

 解析良し。調合良し。合成、分解共に良し。

 間宮の事はガオウに任せてるし、僕はその間にこちらを二日で全て片付けないといけない。


(間宮も頑張ってるんだから、僕も頑張らないと……)


「さて、始めるとするか……」


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【下級】

 粗悪品でもなく、良品でもない。

 ほぼ使い捨てで初心者にも手頃な価格。


【中級】

 そこそこ良品で使い勝手が良い。

 下級よりも耐久性に優れていて、長く使用する熟練者もいる程の人気商品。

 基本定価格なので、下級に比べれば少し高い。


【上級】

 最高品質。耐久性は凄くて3年保証付き。

 使い勝手の幅を通り越した玄人仕様。

 価格は上下する為不明。

 他にも【絶級】や【天災級】などもあるが、どれも変態仕様なのでご想像に任せる。

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