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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 06/19

5話「彼女を知る彼」


 ガオウ達が拠点へ行ってから、30分後。

 僕は様子見に盗聴紛いのやり方で念話を使って、ガオウ達の会話を盗み聞きしていた。


『まあ殆どは家と大差のない暮らしをしているな』


 ガオウ達は無事拠点として使用している旧校舎まで行けたようだ。

 少し時間が掛かっている所を見ると、どうせ防犯装置の解除忘れだろうと僕は思った。


『そりゃあ、あの生徒会長が俺達を無限高に推薦した位だし……』


(はあ!? 話がスベり過ぎてないか……?)


『知らねえのか? 無限高の一部の奴等は、生徒会長が連れて来たりするって』


 これに関しては間宮に話しても分かる訳がないだろう。

 生徒会長の裏権力で口止めされる程、赤の他人を独断で入学や編入させるなんて行為は基本禁止されているからだ。


「ガオウ。それ極秘情報」

『何だ。お前、念話か?』


 今まで気付いてなかったのか。

 この念話には二つの欠点、否。欠陥がある。

 一つ目は簡易の念話過ぎて相手に気付かれてしまうこと。

 二つ目は意識した状態で念話した場合、自分が思った事まで相手に丸聞こえになってしまうこと。

 要するにこの念話は互いに自身の本音を聞いてしまう事がある為、場合によっては即修羅場になる事もあるからだ。


「それとガオウ」


(なっ……!?)


 いきなり僕の意識が何処かへ飛ばされていく。

 今までやってきた物事が記憶から消え去ろうとしているのが分かる。

 僕はこの病気のせいで、ガオウには心配かけたくなかった。

 意識が失いかける前に、僕は普段通りを装って返事を返す。


「いや何でもない。まあそれは口外禁止だから、上手く丸めてくれると助かる」


『ああ。わかった』


 僕はガオウとの念話を切断した。

 そこから僕は時間だけが過ぎていった。

 何をすれば良いか分からない。否、分かろうとしない。

 意識そのものが僕の前から消え去ろうとしているのだから、いつかは我を失い兼ねない。

 僕は病気が治まるまで何もせず、ただ待つのみという選択しか出来なかった。

 すると後ろから扉の音が聞こえたような気がした所で、誰かが僕の背中を強く抱き寄せた。


「お前、次は消失か?」


 聞き覚えのある少女の声に僕は消失の中でも、それが誰の声なのか判断できた。


「ガオウ? 何で……」


 『来た』と僕は言いたかったが、消失のせいで考えていた言葉すらも消えてしまう。


「心配掛けさせるんじゃねえ。二人で抑えるって決めてただろ」

「ごめん……」

「お前は謝るな。……全部、神様が悪い。こんな病気を一人に背負わせるなんて間違ってる」

「ありがとう。ガオウ……」


 そう。僕は生まれながらにして身体は弱く、この未知の病ゼクシードのせいで僕の人生はずっと狂っていた。

 ガオウとは五年前に偶然知り合った仲間であり、最高の相棒だ。

 それにいつも一緒にいたせいか、ガオウは病気になった僕よりも対応力が凄まじく早く、誰も到達しなかった対処法ですら熟知している。

 僕は手を伸ばしてガオウの髪を優しく撫でた。

 ガオウはこうやらないと落ち着かない。

 僕がやらなければ意味がない。

 他人や周りがやれば危害を加えかねない。

 だってガオウは……、人が嫌いだから。



   ◇ ◇ ◇



「さてと、どこまでやった?」


 ガオウは抱き締めるのをやめて立ち上がると、周りを見渡しながら僕に尋ねる。


「分からない」

「じゃあ最初から始めるか。大体はいつも通りなんだろ?」

「まあ」

「調合は明日な」

「鑑定は?」

「お前がしろ。今の状態じゃ記憶消えるからな。隣で聞きながら俺がメモるから良いだろ?」

「わかった。ありがとう、ガオウ」

「その言葉は終わってからにしろ。まあ時間掛かると間宮にバレるし、一時間経ったら終わってなくても拠点に戻るぞ。良いな?」

「了解」


 そう言うとガオウは意識を切り替えて、すぐ作業に取り掛かった。

 ガオウは手前にあった大きな壺をひょいっと片手で持ち上げて、僕の目の前にその大きな壺を置いた。


「ほらよ」

「重くないのか? それ」

「身体能力向上と強化オーガの能力で、だいぶ軽くなってると思うぞ」


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【身体能力向上】


 基本能力。

 身体能力を2倍にする。


強化オーガ


 ガオウの固有能力。

 一部の能力を3.5倍に上乗せし、素早さは半減にする。

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 と言う事は今のガオウは身体能力向上に強化して5.5倍。素早さは2.75倍になる。

 それも戦闘に使用するならまだしも、生活に使用してる時点で……。


(チート……)


 僕は鑑定能力付きの虫眼鏡を使って鑑定し、ガオウは左手にペンを持って結果を分かり易く紙に記入する。

 消失の僕でも分かるように配慮してるのが見るだけでも分かる。

 あとはその繰り返しで、しばらくすると午後11時に二部屋分全てが片付いた。

 予定の時間よりも30分早かったので、ガオウは僕の手を掴み強引に立たせた。


「どうしたんだ?」

「治ったか?」

「だいぶマシだが、まだ完治まではいってない」


 この病気は特効薬がなく時間さえ経てば大体は治るが、完治までにはいかない事が多い。


「そうか……。じゃあ後は行使すれば良さそうだな。〝クロスレゾナ〟」


 ガオウはクロスレゾナを使用した。

 ガオウの真紅に満ちた紅い術式と僕の無色透明の術式が混ざり合う。

 すると術式は姿形を変えて、契約紋へと変わる。

 ガオウと僕の手の甲にその契約紋が付いた。


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 0【クロスレゾナ 《cross resona》】


 とある異世界で契約者と人間が主従契約もしくは約束を結ぶもの。

 契約者は本来の能力が使え、人間は使いとなってコードという能力で武器を作成でき、契約者の一部の能力も使用出来る。

 契約者はそれぞれ【全能】【魔皇】【神聖】の三種族に分かれており、様々な能力を駆使して戦う。

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「ガオウ。程々にな……」

「わかってる。〝共鳴レゾナンス〟」


 少し病気が和らぐ。

 それもその筈。ガオウがその病気の半分を共鳴を使って肩代わりしているからだ。

 それでもガオウは苦しんだりしない。

 一般人だったら混乱するというのに。いや、そもそも肩代わりすらもしないか。


「ゼクシード……。この程度かよ。笑わせるぜ」


 ガオウは強気にそう話し、体内の中にあるゼクシードを消滅させた。

 だがこれは一時的に過ぎない。

 ゼクシードは時間と共に再構築し回復するから、完全に消滅する事はできない。

 それはガオウも知っている。

 だけどガオウは僕に何気ない返事を返した。


「お疲れ」

「悪い……」

「お前は悪くねぇよ。いつも言ってるだろ」

「ああ、ごめん。いつも迷……、いや。ありがとう。助けてくれて」


 感謝の言葉を伝えると、ガオウの頬が少し赤くなっていくのが分かる。

 内心照れつつもガオウは誤魔化すように言葉を濁した。


「ほら、もうそろそろ行かないと間宮にもバレるだろ。行くぞ、お前」

「わかったよ、ガオウ。じゃあ少しだけで良いから時間をくれないか?」

「ああ、良いぜ。好きにしろ」


 ガオウにそう言われると僕は少し休憩をした。



   ◇ ◇ ◇



 僕達が旧校舎へ着く頃には、間宮はぐっすりと熟睡していた。

 起こすのは流石に悪いので、僕はガオウに連れられて外へと出る。


「何で、外?」

「良いだろ? 暇潰しに……」


 と言いつつガオウは準備運動を始めた。

 その光景に僕はふと気が付く。


「対戦か?」

「ああ。お前だって身体が怠けてると思うから本気で来いよ。今のお前と俺がどこまで戦えるのか知りたいだけだからな」

「わかったよ」


 僕は結界を作動させた。

 同時に周辺から女性のアナウンスが鳴り響く。


«【バトルフィールド用結界】構築開始»

«【威力吸収結界】及び【魔力防御結界】構築完了»

«【周囲監視センサー】起動»

«【結界レベル】対クロスレゾナ戦専用»

«【情報漏洩】及び【隠蔽】共に完了»

«【バトルフィールド用結界】構築完了»


「じゃあ行くぜ〝逆牙〟」


 ガオウは異空間から自身の身長とは見合わない程大きな紅い大鎌を出現させ、それを左手で構えた。


「逆牙か……。〝『コードソード』 王斬オウザン〟」


 異空間から黄金色の長剣を取り出し、僕は右手でその長剣を構える。

 この長剣は宝剣のような見た目だが模造品に過ぎない。

 まあ耐久性は多少あるので、こうやって愛用して使っている。


「ステラ、サポートは無しだ」

〝うん〟

「じゃあ俺もノーヴァは使わねえ」


 それだと唯の訓練試合になるんじゃ……。

 そんな事を脳裏に浮かべてる間に、ガオウは僕との距離を詰めて来た。

 間合いに入るとガオウは正面に大鎌を振り下ろした。


〝〝右〟〟

《大鎌は左へと振り落とされる。そこで僕は一撃を喰らい、敗北した》


 僕は長剣を盾にしつつ右へ避けると、ガオウの大鎌に当たらずに済む。

 もしあの大鎌に当たれば、すぐに勝敗が決まってしまうからな。


「まだだ!」


〝〝危険〟〟

《非常に強い攻撃に不意をつかれ、僕は敗北した》


「おっと……」


 僕はその場から離れる。

 すると超高速で放たれた黒い刀が、元いた場所に土煙をあげながらそのまま地面に刺さる。

 放つ威力が強過ぎたのか跡形もなく刀は破壊し、周囲には刀の破片が飛び散った。

 あの場から退避しなければ、あの刀の餌食だったかもな。


(だから『危険』か……)


 だが一息吐くのはまだ早い。

 ガオウの攻撃はまだ終わっていないからだ。


〝〝後ろ〟〟

《見えない何かがそっと僕に近付く。気付いた時には敗北していた》


 時間が間に合わないので、無詠唱で長剣を白と黒の長剣へ変える。

 僕は後ろを振り向き何もない虚空を斬った。


「くそっ!」


 その虚空から徐々にガオウが姿を現すと手から大鎌が離れ、ガオウはその場に倒れた。

 ガオウは咄嗟に防御してなかったのか、斬れた傷口から血が滲んでいる。


(早く治療してやらないとな。あの長剣だし……)


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【白と黒の狭間の剣】

 明人の専用武器。

『ランクS』 長剣

『攻撃力』 □


【能力】

・一度だけ相手をオーバーキルする。

・但し相手から一度でも防御された場合、この究極能力は一度も使用できない。

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「ステラ。治療して貰っても良いか?」

〝うん〟


 倒れたガオウの下に術式が現れ、ステラが治療を施した。

 ガオウの傷口もすぐに塞がり、表情も痛みから和らいだ。


「ガオウ。ステラは使わないが、『未来視』は使わないとは言ってないぞ」


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【未来視】『神の眼』『継承』

 明人の固有能力。

 予知能力の一種だが、明人の場合は継承されたものなので拡張性を増している。

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「この……、チート野郎……」

「誰がチート野郎だって……。ガオウもチート使ってただろ」


 ガオウが黒い刀を放った時、僕はあの場から離れた。

 そうした事によって、僕とガオウの位置は遠かった筈だ。

 なのにガオウが真後ろに周り込めたのは、黒い刀を破壊した時点でガオウは瞬間移動を使用していたからだ。

 ガオウは『強化オーガ』に身体能力向上を使用し、素早さを3.5倍にしたが、それでは僕に気付かれてしまう。

 だから咄嗟の判断でノーヴァ無しの『真紅の瞳スカーレットアイズ』を使用し、瞬間移動で僕の真後ろを取れたが、『未来視』にその行動を気付かれた。


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真紅の瞳スカーレットアイズ

 使用者の瞳が紅く染まる。


【能力】

・□□

・□□

・自身の素早さが3.5倍以上の時、『瞬間移動』が使える。


【究極能力】

『□□』《ノーヴァ使用時》

『□□』《□□》

『□□』《□□》

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 瞬間移動は未来視持ち以外の相手には有効的な技だ。

 それに加え『ノーヴァ』も使えば、『未来視』があっても勝てたかも知れない。

 そこまで行けば、後はガオウの技量次第だが……。


「お前、次も付き合え」

「わかったよ、ガオウ」


 僕はガオウに向けて手を差し伸ばす。

 するとガオウは僕の手を引っ張って起き上がる。


「次は負けねえからな」

「はいはい」


 二回戦目は本気の戦闘が始まり、終わったのが午前1時を過ぎていた。

 一回戦よりかはかなりの長期戦が続いたが、ガオウの就寝時間が過ぎたからを理由に、本当マジ本気ガチを兼ね備えたガオウの無茶苦茶な戦闘方法で幕を閉じた。




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