ガオウに反省する余地が無かったので、僕はガオウを一人に孤立させようと離れた結果。
ガオウは僕の行動を妨げる様に抱き締めた。
するとそんなやり取りの最中、まさか間宮がベリードラゴから目覚めており、一般科の生徒出入り口まで来てるとは誰が予想しただろうか。
この状況だと誤解されがちだが、どうやって間宮に説明したら良いか全く分からなかった。
「ガオウさん。何でベリードラゴなんて入れたのか教えて下さい」
「うぅ……」
逃げる様に僕を強く抱き締め、ガオウは自身の顔を埋めた。
「間宮。ベリードラゴの説教は終わったから。許してくれないか?」
「アキさんが仰るなら、私は責めません。けど……」
「けど」
「くっつき過ぎですよ」
間宮はガオウを無理矢理剥がそうと僕の身体を掴む。
だがガオウは離そうとはせず、逆に掴まれてる僕の方が痛かった。
「痛いって」
「すみません」
間宮が手を離すと、ガオウはそれに気付いて舌を出す。
「べー、だ。俺の使いに手を出して良いのは俺だけだ」
「狡いです」
(何がだよ?)
これじゃ埒が明かないな。
「ガオウもほら。何もしないから離れろ」
「もう、どこにも行かないよな?」
「ああ。約束する」
「分かった」
僕は溜め息を吐いた。
やっとガオウから解放されて、自由になれたからな。
「間宮。この後、何か用事はあるか?」
「特にはありません。あっ……、でも。ニーナさんに会いたいです」
「ニーナ? 新種の兎か何かか?」
「違います!! ガオウさんはどうして動物に例えるのですか!」
「え……、違うのか? じゃあ新種の人参か?」
「兎から離れて下さい」
この茶番は聞き流すとして、ニーナって良く耳にする名前だけど実際に会った事は無いな。
ニーナって名前なんだし男では無いとして、そんな生徒この無限高にいるのか??
僕はポケットからスマホを取り出して、全校生徒表からニーナを検索した。だが全く見当たらず、画面には何も表示されなかった。
(だとしたらニックネームか……? それなら検索の仕様がないな)
「間宮。僕もそのニーナって子と面識が無いからさ。場所を教えて貰っても良いか?」
「大丈夫ですよ。こっちです」
間宮は一般科の出入り口へと足を踏み入れた。
「校内にあるのか?」
「いえ。こちらの方が近いので」
(どう言う事だ?)
ここから入るとなれば何処に出るのかは大体分かるけど、特に見当が付かない。
ましては近道として使用する時点で、僕には間宮の行き先が全く分からなかった。
「こちらです」
「ちょっと待て!」
僕は間宮の白衣を後ろから軽く摘んだ。
すると間宮は不思議そうにこちらを見つめて来るので、僕は敢えて無視した。
「どうした、お前?」
ガオウもいきなり僕が間宮の行動を急に止めたので、不思議そうに声を掛ける。
ガオウは校内の事をあまり良く知らないから、今何処に出ようとしてるのか判らないので、逆に恐いと言うか何と言うか……。
「間宮。ここから先、禁止区域じゃ無かったか?」
「フェンスから出なければ大丈夫ですよ」
間宮に詰め寄れば、一方的に目線を逸らされた。
何か怪しい。付け加えて見るか。
「監視カメラがあったよな」
「その監視カメラは、午後5時から翌朝の午前5時までの間は機能停止するらしいです」
「誰に聞いたんだ?」
「ニーナさんです。この道もニーナさんが紹介して頂きました」
(また、ニーナかよ)
この場所の情報は僕よりもニーナって子の方が詳しいようだ。
道理で間宮にしては道なりがおかしいと思った。
「では行きましょう。アキさん」
「分かった」
僕達は扉を開けて、禁止区域指定された場所へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
禁止区域。それは無限高に少なからず存在し、生徒は勿論。教師でさえも通行する事は許されず、一部の管理者のみにだけ許可された場所。
その為。付近には監視カメラが設置されており、発見され次第即呼び出される。
そして風紀委員長に尋問され、退学した生徒は極めて少数だが何名かいるようだ。
そんな監視カメラにも機能停止時間なんて物があったとはな。
今度他の禁止区域にでも計測して見るのも悪くない……。
〝〝極微量の電磁波、通信障害発生、周囲の機械は使用不可〟〟
《極微量の電磁波による妨害。周囲の機械が使用不可なのは、それが原因》
……はい? 今なんて。
(今、物凄く重要なネタバレしたよな……。ステラ。今の翻訳とか出来るか?)
僕はステラに頼む事にした。
急に予知が反応されても、僕が直ぐに理解出来ない場合だってある。
そんな時は唯一その予知を理解したであろうステラに、頼むのが一般的だと僕は思う。
〝わからなかった?〟
ステラは幼い少女の声で僕に囁いた。
(これでも凡人の頭だからな)
〝あきひとは、ちがうとおもう〟
(……。頼めるか?)
〝うん。わかった。けっきょくは、こういうことだよ〟
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ここでは極微量の電磁波により、機械が正常に使用できない。
これは意図的に妨害されており、詳細は不明。
妨害された時間帯は、人気が少ない午後5時から翌朝の午前5時に設定済み。
原因の元となった電磁波を発生させた機械を破壊すれば、元の正常な状態に戻る。
但しこの場合でも電源は入っている為、手動での記録の持ち出しは可能。
━━━━━━━━━━
(ありがとう。ステラ)
〝どういたしまして。……あきはこれをしって、どうするの?〟
(今は様子見かな)
〝そう。わかった〟
ステラの声はここで途切れた。
「アキさん。こちらです!」
すると遠くから間宮が僕に向けて叫んだ。
ステラとの会話で大分距離を離されてしまい、僕は急いで駆け抜けた。
左右にはフェンスが設けられ、しっかりと金属製の施錠をされてはいるが、中央だけフェンスが無く一本道になっている。
それにしても不自然過ぎる光景だ。
駆け抜けていても分かるが、本来禁止区域だと言うならこんな一本道にはしない筈だ。
この道を紹介したニーナは何処か危ない空気を僕は感じた。
間宮は気付いてないだろうけど……。
そうしている内、僕は目的地へ着いた。
◇ ◇ ◇
「ここです。アキさん」
「こんな所に建物が有るとはな……」
二階建ての黒い建物を見て、僕の予想を遥かに超えていた。
間宮の事だから友達の家などを想像していたが、ここは店舗を構えてる様な凄く大きな建物だった。
(いや。これは明らかに店で間違い無いだろう)
周辺には他に建造物は全く見当たらないので、怪しいのは未だに変わらない。
唯一分かるのは遠くにあの巨大な体育館が見えるので、この場所は北門の近くなのは確かだという事。
「ここはアイテムショップ。無限高に本店を構えている、ニーナさんのお店です」
間宮は黒い扉を開けるとカランコロンと音が鳴り、店の中へ何も躊躇せずに入るので、僕達も一度アイテムショップに入店した。
「いらっしゃいませ」
店員がそう話すと初入店者の僕達を見て、各店員の目付きは一変した。
早速僕を標的にされた。
「お客様。今日はどのような予定でここまで来ましたか?」
「友達が誘ってたので」
「学科と主要武器の種類は分かりますでしょうか?」
「支援科で、片手剣を使っている」
「支援科!?」
店員は驚愕な表情を浮かべ、苦笑いしている。
そんな反応だと思ったよ。
「嘘は止めて下さい。支援科が戦う訳が無いでしょ。あの方達はアイテムなどの運搬を生業にしてて」
「知ってる。それが原因で後方支援に向いてるから支援科って名付けられたんだろ。別にそう言う奴等が多いだけで、僕が支援科でも関係は無い筈だ」
「ですし」
「そこの新入り変われ。お前の理論などいつも当てにならんだろ」
すると筋肉質がある大柄な男性店員が僕達の会話に割り込み、僕と話していた店員を余儀無く交代させた。
どうやらあの店員は新人らしく、支援科が運搬以外でやっている姿を見た事が無いらしい。
その代わりこの大柄な男性店員は経験豊富らしく、客の評価も高いようだ。
「すみません。うちの新入りが……」
「ああ。それなら大丈夫」
「気遣いありがとうございます。それではお客様には我が一番人気の片手剣をご紹介させて頂きます。それがこちらになります」
片手剣がある商品棚に行き、大柄な男性店員は僕に飾られた片手剣を紹介した。
それは白く輝く刃で美しい細剣。
その透き通った白き刃からは何処か気高さを感じた。
僕は細剣に触れて鑑定しようとすると、大柄な男性店員は何故かそれを拒んだ。
「すみませんお客様。このアイテムショップ無限高本店では、触れる事は出来ても鑑定する事は出来ません。鑑定結果によって品質に影響が出た場合を考慮しての対処ですので、お客様ご自身の目で判断して下さい」
「良く鑑定するって分かったな」
「いえいえ。私は見慣れてますので」
僕はもう一度細剣に触れる。
共に飾られた付属の鞘は白色で傷一つ無いので、これは新品だろう。
改めて細剣をじっくりと見れば、透き通った白き刃には魔法文字が刻まれおり、性能はかなり高そうだ。
柄は鉄で加工しており、持ち手にはフルテアと書かれているので、フルテアはこの細剣の作成者だろうか。
フルテアって、あのフルテアだろうか?
フルテアとは、オーダーメイドのみを扱う個人の鍛冶師集団だ。
量産品は作らないと豪語していたのをフルテアの内部情報で見た覚えがある。じゃあこの細剣はオーダーメイド品で間違い無いだろう。
って事は複製品なんじゃ……。
「電話は使えるか?」
「出来ますね」
「じゃあお言葉に甘えて」
僕はスマホを取り出し、技術科の宮守さんに電話を掛けた。
『何か用? アキ君』
「単刀直入に言うけど、宮守さんって剣に詳しかったりするか?」
『普通の剣やソードデバイスならともかく。魔法剣や魔剣、その他の剣は分からないわ。魔法文字は一応読めるけどね。って言うか、今どこ?』
「アイテムショップ無限高本店だっけ。今そこでフルテアの細剣を見ててな」
『ニーナん所ね。その細剣は確か……、本物だったよ。ニーナんはアイテムショップを通じて有名な技師を集めててね。フルテアもその一つ。でもニーナんの所は紛い物もあった筈だから、何も知らない人が不良品を買う事もあってね。ニーナんの評判はかなり悪いよ。確か……』
「また後でな」
『ちょっ!』
僕は一方的に電話を切る。あとで謝罪するか。
やけに騒がしいな。持病では無く、単純にうるさい。
「今回はやめるよ。別に今は必要じゃないし」
「分かりました。では次回もこの様な商品を提供しますので、お見知り置きを」
大柄な男性店員は僕に一礼した。
「あの。話変わるけど良いか。向こうがやけに騒がしいんだが……」
「ああ。お連れの金髪のお客様が、ニーナ様と口喧嘩中でして……。止められますか? 私共ではニーナ様を止められませんので……」
「分かった。協力するよ」
「ありがとうございます」
僕は騒がしい場所へと急いで向かった。
すると慌てる間宮が見えたが口をパクパクしてるだけで、全く役に立って無い事が分かる。
中央を見れば、ガオウと背の低い少女が争っていた。
黄色のセーラー服を着ているから少女は生徒なのだろうけど、背が低過ぎて一年にしか見えない。
あれがニーナで間違い無いようだ。
水色の短い髪に左右均等に分けたツインテール、デュモルチライトの様な青い瞳に、身長が割と低いので子供の様な幼さと何処か茶目っ気さを彼女から感じた。
猫が好きなのか、猫耳の帽子を被っている。
「ガオウ。何してんだよ?」
「おお。お前も言ってやれ! 苺オ・レの特許申請を出してない野蛮人に」
「ちょっと誰が野蛮人よ! 私達が作成した商品にケチ付けんな!」
(はあ……。何だよそれ)
苺オ・レに特許申請あるとか初耳だぞ。ガオウがそう言っているので信じるしか無いけど、どうやって吹っ掛けるんだ。
もうなる様になれ。
僕は一度溜め息を吐いてニーナに話し掛けた。
「特許申請は出したのか?」
「知らないわ。そんなの」
ニーナはプイっと顔を横に向ける。
「じゃあ罰金な」
「はあ!? ちょっと、どう言う事よ! って言うか、貴方誰よ?」
「普通は逆だろ。まあ良いか。僕は支援科の九重明人。お前は?」
「ニーナよ」
「本名は? 話さないと、ティナ・ラスティーさんに言い付けるぞ」
「脅し? 男として情けな「じゃあティナに報告するか」」
ニーナの会話にガオウが割り込む。
「はあ!? 貴方達まさかグルだったの? それなら私は営業妨害で訴えてやる!」
「それは我々には不利かと思われます」
さらりと大柄な男性店員がニーナに口出して来た。
(いや、今いたか……? 絶対気配消してたよな)
「何よ。ジュド! コイツ等を庇うき」
「那由……。またお前が原因で職を失ったらどうするんだ!」
「えっと……。ごめんにゃ。……。ごめんなさい」
大柄な男性店員ジュドの怒声の一喝に、ニーナはすぐに謝る。
するとニーナは恐くなったのか、ジュドに綺麗な土下座を見せた。
て言うか、さっき私共では止められませんって言わなかったか。
僕の反応に気付いて、ジュドはグッドラックしてるので悪気は無さそうだ。
「明人様、申し遅れました。私はジュドと申します。家名はありません。ニーナの奴隷でして他の店員もニーナの奴隷で御座います」
「奴隷だったのか……」
「はい。私は特に礼儀作法が正しい方かと思います。以後お見知り置きを」
ジュドは再び僕に一礼する。
「商人科の西崎那由よ。今回は見逃して……、下さい」
西崎は僕達に頭を下げる。反省はしているようだ。
「ああ。知らなかったんだし良いだろ」
「おい。お前」
「ガオウの言い分もあるだろうが、今回は頼む」
「お前がそう言うなら……、分かった」
ガオウも一応納得してくれた。
後で何か言うだろうけど、まあ慣れてるしな。
「じゃあ西崎。特許申請書を明日渡すから記入してくれ」
「分かったわ」
これでひとまずは、一件落着か……。
特に何の役にも立たなかった間宮を連れて、僕達は旧校舎へと帰った。
歩いていて気になった事をいくつかガオウに聞いてみたが、苺オ・レやそれに似た物を商品化する場合は、商品の特許申請とは別に、苺オ・レの特許申請書が必要らしい。
違反した場合は1エメラルダこと十万の罰金、もしくは苺オ・レの創設者を愛する管理者代表ティナ・ラスティーが、違反者に身も心も職も無き者にするらしい。
何か恐いなと思っていたが、その反応にガオウが笑っていたのは言うまでもなく、ガオウもやり過ぎだろと付け加えたのだが、僕は沈黙するしか方法が見当たらなかった。