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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 12/19

10話「苺卿」


 ここは旧校舎。三階、居間。

 ガオウは間宮をソファーに下ろすと、いつの間にか気持ち良さそうに寝ていた間宮に対して、僕は何故かガオウに口止めされた。


「起こすなよ」


 起こすかよ。って……、普通だったら寝てる相手に変な事すんなよとかじゃ無いのか……。

 しないと分かっているのか、ガオウはその後特に何も言わなかった。


「俺、ちょっとティナのとこ行って来る」

「ああ良いよ。ついでに特許申請書もお願いしても良いか?」

「分かった。それも視野に入れる」

「おい……、最初から入れて無かったのかよ?」

「じゃあな。明日は朝居ないと思うから、アス、間違えた。この世界ではゼクシードだったな。それだけは絶対になるなよ」


 ガオウは僕の返事を無視して居間を出た。

 ゼクシードは確率がシビアだから、そんなの分かるかよ。

 さて僕は対戦相手のサポーターの情報でも漁るか。

 僕は居間に置いてあるデスクトップパソコンの電源を起動した。無限高のアプリケーションを開くとログイン画面が表示され、予め存在する僕のログインパスを使用する。

 手始めに今回の相手サポーターから調べる事にした。

 と言ってもこの無限高が集めた情報は、ある程度の情報しか載る事は無いから、あとは相応の対策次第だろう。

 まずはジュリア・ローゼンさんからだな。


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 三年魔女科マギ ジュリア・ローゼン(女)


 元アタッカーでサポーターとしてはまだ浅いが、優秀な生徒として有名。

 但し大規模戦線アルティナは、予選敗退。

 彼女は自分自身や相手の魔力量の計測が可能で、それに応じた魔術や魔法のどちらかが発動した時、即座にどのような効果なのかを分析し、対処までに時間が掛かる事はほとんど無い。

 その為。アタッカー当時は相手の遠距離攻撃や設置型などの魔術や魔法の解除が容易い事から、彼女は二年生の時に魔術科マギカから魔女科マギに学科移動を果たした。

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(要注意人物かな。今回彼女がサポーターで助かった。もし、アタッカーだったら最初に倒していただろう)


 次は佐野慎一郎だな。


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 二年魔術科マギカ 佐野慎一郎(男)


 数多くの機械人形オートマタを開発する製作者。

 彼には魔力が無く、魔術を使用する場合は必ず魔石が必要な為、どちらかと言えばサポーター向きである。だが彼はサポーターとしての能力すらも特に無い為、機械人形を使用する。

 大規模戦線アルティナにサポーターとして呼ばれるも、断った記録有り。

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(知らなかったな。アイツが魔力を持たない奴だったなんて……。だから機械人形オートマタを、か)


 最後は支援科シーナの後輩、向井小春。

 彼女の情報を見て、僕は驚かされた。


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 一年支援科シーナ 向井小春(女)


 入学初日にブレイドコレクターへスカウトされ、現在は立場上ブレイドコレクターのアタッカーとサポーターの両方を担う。

 それ以外の彼女の情報は、特に明かされていない。

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(何者なんだ……。彼女は……)


「へえー。勉強熱心だね。アキ君」


 ディスプレイ画面にネフライトの様な黄緑色の瞳が反射して映り込む。

 この変なイントネーションで話すのは彼女しかいないと思って振り向けば、やはり宮守さんだった。

 相変わらず技術科ディルギアの緑の迷彩柄のセーラー服を着ているけど、これは真面目と言う訳では無く、宮守さん曰く動き易いからだそうだ。

 これがこの世界の普通だそうで、無限高の生徒達も殆どがそういう理由で、私服を持つ者は割りと少ないみたいだ。


「何やってんだよ。宮守さん」

「今来た所だったけどお邪魔だった?」

「いいや。少し調べてただけだし。で、どうしたんだ?」

「電話の続きを話そうと思ってね。駄目かな?」

「別に構わない。それとさっきはごめんな。勝手に切って」

「良いよ良いよ。アキ君の事だから、また何かに巻き込まれたんでしょ」


 宮守さんもあの会話の中だけで気付いてたのか、察しが良いと言うより、最初から分かっていた様にも思える。

 本当にこの人はある意味鋭いな。


「西崎の評判がかなり悪いって話だったよな」

「そうだね。で、その続きなんだけど。確か不良品を良品に仕上げてくれる職人、もしくは良品だけを区別して仕入れてくれる人を募集中なんだって」

「そんな奴、普通いると思うか?」


 前者は支援科シーナ技術科ディルギアに職人では無いけど何名か居そうだが、後者は商人科ラリアか信用出来る商人だろうけど、どう考えても費用が色々な所で掛かりそうな募集だ。

 それにもしそんな優良人物がいたとしても、アイテムショップを頼らずとも、他の店やギルドが我先に引き抜くだろうから、雇うならそれに上乗せする程の費用がまた掛かるのも事実だ。

 僕がそんな事を考えているにも関わらず、宮守さんは笑顔で僕を見つめていた。


「いるじゃん! 目の前に」

「はあ!? 僕が!」


 自分自身に指を当てて慌てる僕に、笑顔で見つめ返す宮守さん。

 その状況の中、何故その判断になるのか不思議と首を傾げたが、宮守さんは淡々と僕に話を続けた。


「…………だって、アキ君なら出来るでしょ。それに今も輝夜っちの不良品を良品に変えて、購入者も見つかってボロ儲けしようとしてるんでしょ」

(確かにそうだけど……。何故その情報を宮守さんが知ってるんだ?)

「何でそれを……」

「ニーナんが今日の昼に言ってたよ。商人にとってコレはチャンスなのに、ギルドが介入して来て全部奪い去ったって。アキ君って商人科ラリアでも無いのに、何で個々の商品価値を知ってんの。それよりも同じ商品を割高に設定してる筈なのに、それを購入する人達の神経が気味が悪い。アキ君聞いてる?」

「ははは」


 これには僕も笑うしか無かった。

 何故か僕が物を市場に出すといつも誰かが競い合うのだが、宮守さんはその現象を知ってるから誰がやったのか気付いたのだろう。

 今回出品したのは、間宮の家にあったあの二十個の大きな壺だ。

 各付与事に大きな壺四個分、計八百個あり、合計すれば相当な数になる。

 なんでもそのアイテムは西崎のアイテムショップだと知ってて購入したらしく、間宮にとってはガラクタ同然の品だ。

 それを僕は1エメラルダ。十万円で買い取り、独自の技術で仕上げたのだった。

 すると結果はこうなってしまった。


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【オールブースト・タブレット】


 使用すると確実に成功する、甘い飴玉。

 効果は『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法耐性』『速さ』が凄く上がる。

 但し一時間経つと効果は消える。

『ランクA』 最高品質

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 この性能の物が四百個完成し、他の同じ商品より割高で売り飛ばしたら、1000エメラルダで実質ボロ儲けしてしまったからだ。


「分かったよ。じゃあ明日、西崎の所行くからその時な」

「お願いね、アキ君」

「じゃあ明日早朝は居ないから間宮の事宜しくな。模擬戦の会場はあそこらしいから、一緒に行ってやってくれ」

「了解!」


 宮守さんは僕が募集を引き受けたから、嬉しそうに笑っていた。



   ◇ ◇ ◇



 次の日。

 僕は早朝からアイテムショップ無限高本店に来ていた。

 ガオウはと言うとあれから帰って来なかったので、僕は苺オ・レの特許申請書を持っていない。

 それを西崎に伝えようと店内に入ると、中は慌ただしい状況だった。

 近くを通り掛かる大柄な男性店員ジュドを見つけたので、僕は訪ねてみる事にした。


「おはよう。何があったんだ?」

「おはようございます。明人様。本日は諸事情により閉店となっております。なんでも昨日の件である方々が訪問するらしく……。私達は現在、店内の清掃活動をしています」


 昨日の件って、やっぱり苺オ・レだよな……。

 嫌な予感がする。ガオウがいないと言う事はティナさん辺りが来るのか?

 一度僕は軽く状況を見て考察した。

 すると遠くにいた西崎と目が合い、バタバタと慌ただしくこちらに向かって走って来た。

 西崎は怒りを露わにしていたが、ジュドが先に前へ飛び出して西崎を止めてくれた。


「九重! アンタやっぱりティナに報告したのね!」

「知るかよ。って言うか、特許申請の時にそんな事、普通にバレるだろ」

「あのね。ティナはまだ良いのよ! 何で他の奴等も招集されてるのよ!」

「他の奴等って誰だよ……」


 すると店の入口から三名の女子生徒が入店してるのが見えた。


「何だか慌ただしいわ。こんな所に違反者が現れるなんてね……」

「ははは。笑えないジョークだね。僕達が築き上げて来た夢なんて、大した事無いじゃないか……」

「……」


 一人はお嬢様のような高貴な声、一人は少年のような少女の声、もう一人は無口で特に何も聞こえないが、全員それぞれが特徴のある話し声が聞こえる。

 そこへ店員が気付いて駆け付けた。


「すみません。今日は諸事情により閉店となっております」

「どうでも良いわ。そんな事」

「はい?」


 一方的に断われて困惑する店員に、彼女の連れの一人が苦笑した。


「ごめんね。今日僕達はお客さんとして来たんじゃないんだ。唯の視察だよ。ねえ、ティナ」

「ティナ。待ち切れなかった……」

「小癪な。苺さんも何かって、あれ。苺さんは……?」


 誰かを探す彼女の姿に、無口の少女が彼女の服を軽く引っ張っる。


「苺……、足遅い……。ティナが置いて行った……」

「そうそう。僕も苺にティナを止めるよう言われてたんだけど。まさか先に着いちゃうなんてね。ティナらしいよ」

「褒めてませんわ」

「正解! 良く分かったね」

「何ですか……。この屈辱……」


 彼女は自分をお子様扱いし頭を撫でた少女に、何故か苛立つ。

 その一部始終の間に僕達は彼女達がいる店の入口へと足を運ぶ。

 するとそこにもう一人、桃色髪の少女が現れた。


「ティナ。本題に入ろう」

「そうですわ。こんないつもの茶番なんて、どうでも良いですわ。確か商人科ラリアの西崎那由でしたっけ」

「そう。その西崎那由は、あの人だと思う」


 桃色の髪の少女はジュドの背後に隠れようとする西崎を指差す。


「バレてる……。何で! 初対面なのに……」


 真っ先に本人を見つけられた西崎は逃げようにも逃げられない状態になり、今にでも逃げ出したい表情を僕に向けた。

 向けるな。元はと言えば、西崎が原因なのだから。


「まずは御機嫌様。私は二年魔術科マギカ、ティナ・ラスティーで御座います」


 お嬢様のような気品さを持つ黒色のロングヘアの彼女は、ブルーベリーの様な青紫色の瞳、身長は割りと普通で、間宮に負けない程の胸がある。

 ティナさんは魔術科マギカの黒いセーラー服姿で上品に一礼した。


「僕は同じく二年魔法科マギナルイス・デュランリドール。こっちの無口な子は一つ下の妹、アイシャ。学科は何だっけ?」


 少年のように話し掛ける橙色のショートヘアの彼女は、マスカットの様な黄緑色の瞳、身長はティナさんと変わらず、スラーと痩せていて少し胸がある。

 ルイスは魔法科マギナの水色のセーラー服姿で妹の頭を優しく撫でた。


「……支援科シーナ


 余り喋ろうとしない白のロングヘア彼女は、キウイの様な緑色の瞳、胸はなく、身長は小さい子供とあまり変わらず、一年に似合わない幼さを感じた。


「私は紅月苺。今は多忙の為、無限高に属してない。ここだと部外者ではあるけど、私はこれでも彼女達の指導者だから、私の事は苺卿と言って貰っても構わない」


 何処か聞き覚えのある声の桃色ショートヘアの彼女は、苺の様な赤色の瞳。身長は他の二名より少し低く、痩せ型。

 白いフリルのある紅いゴシックロリータ姿で、周りと比べて一際目立っていた。


「はあ? 苺卿!? 笑えるっ……!」

 西崎は笑いを堪え切れず爆笑すると、ティナ達から白い目を向けられる。


 そんな彼女達の反応に苺卿が慌て始める姿に、どうやら西崎は彼女達の怒りを買ったようだ。


「苺さんを侮辱しましたわ」

「違反者じゃなくて、今から殺っちゃわない?」

「む……!」

「ティナ。ここでは無益な争いは禁止。ここでの被害は最小限に抑えたいから」

「はあ……。分かりましたわ。苺さんが仰るなら……」


〝〝風魔法を唱える彼女、その攻撃に成す術無し〟〟

《突如暴風を引き起こし、不幸にもこの建物を壊した》


 僕がそれに気付いた頃には、ルイスが風魔法を唱え終わった後だった。

 ルイスが何故未来視と同時に魔法が発動出来たかと言えば、怒りに任せた高速詠唱と必要に応じた言葉以外を口にしなかった時短が原因だろう。

 そしてこの風魔法は誰も止められない。


(くそ! 間に合わない……)


「何やってるの。


 ふとルイスの隣りから苺卿が現れた。

 ルイスに向けてニコッと笑う苺卿にルイスの顔色がいきなり真っ青になり、風魔法の発動を渋々キャンセルした。


「ごめん。悪気は無かったんだ」


 苺卿に謝るルイス。すると僕に誰かの念和が来た。


『あとで撫でてくれ』

(分かったよ)

『俺、凄いだろ』


 苺卿ことガオウは念和で話し掛け終わると、僕にだけ一瞬笑った表情を見せた。

 するとその一連の行動にティナさんが気付く。


「明人さんだけ狡いですわ」


 その言葉に僕と苺卿は苦笑いした。



   ◇ ◇ ◇



 西崎は苺卿一行に今回対象にされた商品、苺のミルクティーを振る舞う。

 まずは苺卿が試飲したが難しい表情を浮かべる。

 吐いている訳では無いので味は美味しい筈なんだろうけど、何でそこまで難しい表情をするのか全く分からない。


「どうしましたか?」

「ティナも飲んで下さい」

「はい。苺さんが仰るなら」


 そう言って次はティナさんが試飲する。

 ティナさんは味わいつつも全て飲み干し、率直な感想を述べた。


「美味しいですわ。でも……、おかしいですわね……」

「でしょう。ルイスは分かりますか……?」

「苺。僕を馬鹿にしないでよ。これでも僕も得意分野だよ」


 ルイスも続いて一口試飲して、飲むのを止めた。

 そしてルイスは西崎に視線を向けると、さっきの風魔法で完全に動揺したのか西崎は軽く驚いた。

 何かに勘違いしてルイスは鋭く睨み付けたが、苺卿が何処から持って来たか分からないハリセンで、ルイスの頭をバシンッと叩いた。


「こらっ……。やめる!」

「痛っ! ごめんって……」


 ルイスは二度も苺卿に止められたので、溜め息を吐きながら今回は観念したようだ。


「じゃあ、苺。この場は僕に任せてくれないか?」

「分かりました」


 ルイスは先頭に立ち、周囲を見渡す。

 この場には僕と西崎、ジュドや何名かの店員、苺卿一行がいた。

 あとは誰も居ない事を確認し終わると、ルイスは僕達に話し掛けた。


「大事な話があるんだけど、誰か空き部屋を貸して貰えないだろうか?」


 するとルイスのその願いにジュドは手を上げる。


「それなら、ここの倉庫を借りて話すのは如何でしょうか……」

「ありがとう。じゃあ大柄な君と西崎那由、護衛に明人。僕達は僕と苺で。ティナはアイシャと一緒にお留守番だね」

「分かりましたわ」

「……分かった」

「では行きましょう」


 ジュドがそう告げると倉庫を案内した。

 ルイスに呼ばれた者達は案内された倉庫に着くと、全員がこの場から離れないように壁にそれぞれの背中を預けた。

 そして誰も居ない事を確認し、ジュドが倉庫を扉を閉めて施錠した。


「ありがとう」

「どう致しまして」


 ジュドはルイスに軽く頭を下げた。


「まず初めに伝えるけど。この苺のミルクティーに対して、僕達は特許申請は出せない。何故ならこの苺のミルクティーの提案者は、西崎那由では無いからだ」


 ジュドは西崎に驚くと同時に、昨日の怒りが蒸し返す様に蘇る。

 だがそんなジュドにルイスは止めた。


「でも盗作では無いんだ」

「どう言う事ですか……」

「大丈夫。まだ商品化もして無かったし、この苺のミルクティーは僕達の知る味の改良品。アレンジしてるんだ。だから西崎那由の罪は勿論軽い」


 そこで西崎は深く溜め息を吐く。

 だがルイスは西崎に向けて、追い打ちを掛ける。


「でも溜め息するのはまだ早いよ。だって君にはこのレシピの許可は出されていない筈……だから。おいで小春ちゃん!」

「バレてましたか……」


 するとルイスに向けて礼儀良く話し掛けて、金髪のベリーショートの少女は姿を現した。

 レモンのような薄黄色の瞳で、身長はルイスよりも低く、少し胸はあり、白いセーラー服姿の支援科シーナの向井小春だった。


魔術科マギカは騙せても、魔法科マギナはバレるよ」

「本当の様ですね」


 ルイスの言葉に向井はクスッと笑い、ルイスに対して彼女は微笑んだ。


「那由ちゃん。私は独学でこの味に辿り着いたのに、アレンジで改良しても味は薄れるし、特に感が鋭い苺さんには無理だとあれ程言ったのにまさかやってたんだね……」

「違っ、……わない。……幻滅しちゃった?」

「いやそんな事は無いよ。友達だもん。だけど、ごめんね」

「……? 何で謝るのよ……」

「皆さん聞きましたか。彼女はこうして他人の技術を流用しながら生きていました。もう良いのではありませんか?」

『分かった。君の貢献は我々にとって重要で良い証拠だった。心から感謝し、今後我々はアイテムショップから手を引く事にする』


 すると渋い男性の音声が聞こえ、僕は咄嗟に西崎を見ると全身が震え始めたので、おおよそアイテムショップの関係者なのだろうと気付いた。


「……明人様」

「何だ。ジュド」

「この声の主は私達に商品を提供、もしくは活動に支援して頂いていた、大黒柱のような方でございます」

「って事は……」

「はい。残念ですが私達は、現時点でその方との契約は抹消されました。これではアイテムショップは本日を持って事実上閉店。ここにある全ての商品はあの方の管理下ですので、私達は店を開く事さえも出来ません。幸い私達の各店舗は、あの方の管理下では無いので衣食住には困りません」

「私達は終わったのよ」


 西崎はそう落胆しながら呟いた。

 そんな西崎を見てると、僕はある視線に気付いた。

 苺卿とルイスだ。

 彼女達は僕に真剣な眼差しで見つめていた。

 何故僕なんだと思っていたが、そもそも部外者の僕がこの場に居るのかもおかしな話だった。

 僕はこの場では無関係に等しく、護衛としてルイスに言われたのも……、


(いや、まさか……)


 ふともう一度僕は二人を見ると、やっとその意味に気付いたのか、苺卿は微笑み、ルイスはジト目で見つめた。

 僕は深く溜め息を吐くと西崎にある提案を思い付いたので、捨て犬を見る様に話掛けた。


「なあ僕の元で働いてみる気は無いか?」


 突然の話に西崎はデュモルチライトの様な青い瞳を瞬きした。


「え? アンタ店持ってたの?」

「持つ訳無いだろ。これでも支援科シーナなんだから」

『貴様、名前は?』


 まだ通話が切れてなかったのか。さっきの渋い男性の声が聞こえた。


「先に自分から名乗れ」

『ほう……。私はセントラル協会の会長、ゼクト・セントラルだ』

「紹介説明どうも。そうか……。残念だ」


 僕はポケットからスマホを取り出してある操作をした。


『貴様、何をした!?』

「何だ。もう気付いたのか? ただ僕はセントラル協会の重要機密情報を流しただけだ。コレでもうセントラル協会は崩壊する。そう言えば僕の名を忘れてたな。僕は二年支援科シーナの九重明人。ある業界じゃ、アキと呼ばれている」


 すると僕の名を聞いた瞬間。ツーツーと通話音が流れたので、向こうが一方的に通話を切ったのが分かる。

 周囲を見れば西崎がキョトンと驚いているのは分かるが、何故か向井も僕の行動に驚いていた。

 向井は我に返ると、僕に嫌な表情を浮かべた。


「この恨みは明日返します」

「そりゃどうも」


 向井は懐から短剣を取り出す。

 するとその場から離れる為に、コンクリートの壁を破壊して逃走した。

 明日模擬戦が終わったら壁を弁償させるか。


「アンタ。さっきのは本気?」

「本気も何も、今さっきセントラル協会は崩壊した。ここに置いてある商品全部片付けて新しい商売を始めよう」


 僕は西崎に手を向ける。

 だが気持ちの整理が出来てないのか、西崎は僕の手を握ろうとはしなかった。


「でもここの商品を片付けたら、次はどうするのよ。質の良い商品の確保なんて二年のアンタでも知ってる筈よ……」

「じゃあ、ここに100エメラルダを投資する。それで僕の始めた商売が赤字になってたら、西崎には20エメラルダ、ジュドには10エメラルダを支払う事を誓う」

「本当に宜しいのですか?」


 最初にまともな意見を言ったのは意外にもジュドだった。

 西崎みたいに出来ないの一点張りではなく、本当にそれが可能なのかという率直な意見だった。

 それに僕は頷くと、ジュドは座り込み頭を垂れた。


「ジュド! アンタはそれで良いの!」

「良く那由には散々な目に会っていました。これを機に足を洗ってみても良さそうだと私は思いました。那由が明人様の手を握らないのでしたら、私は明人様の奴隷として生きたいと思います」

「ジュドがそこまで言うなら握ってあげる」


 そう言って西崎は僕の手を握る。


「これから宜しくね」

「ああ」


 西崎は照れつつも、ボソッと小声で呟いた。


「助けてくれてありがとね」


 僕達が倉庫から出る頃には、既に夕焼けが広がっていた。

 ティナさんが「遅すぎますわ」と告げて来たので、苺卿がティナさんを頭を撫でて慰める。

 苺卿はティナさんに話が纏まったからと伝えると、苺卿一行はすぐに帰宅した。

 なので僕も西崎達に別れを伝えて、旧校舎に帰る事にした。




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