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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 14/19

11話「模擬戦前夜」


 アイテムショップからの帰り道。

 一仕事が終わってから空を見上げれば、既に夕方だと言う事実に僕は少し溜め息を吐く。

 時の流れというものは体感によって極端に進み具合が異なる為、自分自身でそれらを把握するには結構難しいものだ。


「ふう……。今回は疲れたな。頭脳戦なんて久し振りだったし……」


 ポケットからスマホを取り出すと、ネットではセントラル協会の話で盛り上がっていた。

 今ではニュースや動画投稿サイトなどからも取り上げられ、セントラル協会の株価は大暴落し、本来表には出ないような違法と成り得る裏の情報が全て露見してしまったからだ。


(それだけなら良かったんだけどな……)


 僕はセントラル協会の持つ重要機密情報、人造人間開発計画の情報を外部に漏らし、セントラル協会を容赦無く潰した。

 その計画による犠牲者は千人を軽く超え、帝都ギルアス内では行方不明者なども多発していたようだ。

 だがそれはあくまで序の口。僕の予想が正しければ実際は人造人間の開発などでは無く、もっと別の何かを開発していたのではないかと思ってしまうからだ。


「まあ面倒な連中が片付いたから良かったんだけどな。これで後は……。いるんだろ?」


 僕は誰もいない茂みに向かって話し掛けた。

 するとその茂みから、見覚えのある白いセーラー服姿の小柄な女子生徒が現れた。

 低い身長に黄色のベリーショート、レモンのような薄黄色の瞳が特徴の少女、支援科シーナの向井小春が僕に気付かれた事で何とも言えない嫌な表情を浮かべた。


「貴方も私と同じ支援科シーナだった筈ですが……」

「で、要件は?」

「挨拶も無しにそれは無いかと……」

「監視してた癖に」


 向井は僕の言葉に対して深く溜め息を吐いた。


「セントラル協会の情報は何処で知ったんですか?」

「人造人間開発計画か。否」


 向井はポケットからサバイバルナイフを取り出し、何も躊躇わずに僕の首筋に狙いを定め、真っ直ぐとそのサバイバルナイフを突き出した。

 それを僕は動体視力のみで無傷のまま回避し、そのまま向井の懐へと潜り込む。

 そして危ないのでそのサバイバルナイフを半ば強引に奪って、雑木林へと投げ捨てた。


「くっ……。まだ」


〝〝強襲〟〟

《能力で素早さを最大値まで上げ、目にも止まらぬ速さで攻撃する。僕はその速さに追い付けず、敗北した》


「愚かな真似は辞めろ。素早さを上げたとしても意味が無いぞ」

「何故私の行動を予測出来るかは知りませんが、それでもこの攻撃は避けられますか?」


 向井はこの場から姿を消した。

 すると僕の視界から、速さによって生まれた向井の残像達が分身体を見ているかのように、その場に十数人現れた。


〝〝後ろ〟〟

《気配が全く感じられず、僕は背後を襲われて敗北した》


 僕は後ろを振り向く。

 すると何故かここだけは向井の残像は無く、気配すらも感じる事はなかった。

 この方角が襲われるのは未来視越しでも分かるように一目瞭然なのだが、僕にはどうやって襲われるのか全く理解出来なかった。


〝ちがうよ、あきひと〟


 不意に呟いたステラの声に僕は背後を振り向く。

 すると突然。目の前から向井が姿を現し、ステラが白い盾を僕の正面に展開した事で、僕は向井の攻撃を受けずに済む。


「へえ……、良くやりましたね。でもさっきのは紛れだったようです」

〝あきひとをきずつけるな〟

「ステラ。ありがとう。お陰で助かった〝『コードソード』 王斬オウザン〟」


 僕は異空間から黄金色の長剣を取り出し、それを右手に持って構える。

 僕は向井との間合いを詰めて、不意打ちを装って横方向へ斬った。

 すると向井は懐に隠し持っていた端末、ソードデバイスの細剣を展開して僕その攻撃を防いだ。


「まさか、そんな奥の手があるとは思いませんでした」

「これでも剣士だからな。向井の細剣それが見れただけでも、僕のこの王斬を見せる価値が合って良かったと思ってる。明日の模擬戦には多少影響が出てしまうだろうが仕方ないな」

「そうですね。私もまさかこのソードデバイスを抜くとは思ってもいませんでした。私も今後の戦闘がバレそうで恐いです」

「なら、準備も整った事だし」

「そうですね。本気で戦いま」


 不意に向井は会話をやめて、何故か上空を見上げた。

 すると突然。ガオウから念話が来た。


『お前。間宮達を助けてくれないか?』

(どうした? 何かあったのか?)

機械人形オートマタの軍勢が間宮達を奇襲しに来てよ。俺は間宮達を護衛して拠点で保護したいけど、少し難しくてな』

(分かった。場所は?)

『悪い。俺に土地勘が無くてな。近くに白い建物がある位しか……』

(それだけでも大体分かったよ。じゃあ今から向かう)

『あともう一つ。ティナは心配しなくても良いからな』

(了解)


 プツリと通話音が切れる様に、ガオウとの念話が切れた。


「向井。悪いけど用事が出来てしまったようだ」

「その様ですね。それなら私は別に構いませんよ」

「良いのか?」

「私はこの件については関わってませんから……」

(何か知っているのか……?)


 仮にも向井は佐野慎一郎と同じサポートメンバーだ。

 ひょっとして当の本人が何かを口走っていたりするのか?

 僕はふと疑問に思い、向井に聞いてみる事にした。


「今、何が起きてるのか分かるのか?」

「殆どは知りません。……そうですね。強いて言えば、一昨日の集会で彼が模擬戦前日に盛大なパーティーをすると粋がってましたね。私には理解出来ませんでしたが……」

「へえ、そんな事言ってたのか。でもその情報。僕に教えても良かったのか?」

「私には必要ありません。それに貴方の戦力を削ぎ落としたとしても、貴方は先輩達を倒すだろうと、今の戦闘ではっきり分かりましたから」

「それでも同じギルドメンバーなら、そっちを応援した方が良いと思うぞ」

「ふふっ。苺さんと同じ事言わないで下さい」


 向井は初めて僕の目の前で微笑む。

 その笑顔からは普段の女の子と何も変わらない程可愛いものだった。

 これで少しは打ち解けたのかは分からないが、今日のような敵対関係では無くなったようにも僕には思えた。


「じゃあな。夜道には気を付けろよ」

「お気遣いありがとうございます。九重先輩」


 そう告げた後。僕は向井に別れを告げ、黄金色の長剣を消滅させた。

 結局の所、彼女が何者なのか分からないままだが……。



   ◇ ◇ ◇



 太陽は完全に沈み、僕は暗い夜道を駆け抜けていた。

 近くにある照明のお陰で暗闇の中を走るよりかは少し明るく、まだ道として把握し易かった。

 なので僕はガオウが言っていた、白い建物のある場所へと速やかに向かっていた。

 そもそも土地勘の無いガオウにして見れば、場所の特徴が分かるだけでも上出来だったからだ。


 目の前に白い建物が見え始めると僕は足音を消して瞼を閉じ、周りの物音を聞いてみる。

 機械を動作させた駆動音。ジジジと火花が散る音。それに対して周囲からは魔術を多重に発動させた音が響き渡る。

 という事は……、相手は前者で、ティナさんは後者なのだろうか。

 それにしてもティナさんは魔術科マギカだと言うのに、多少火力のある技を使っている様な音は一切聞こえない。

 これがティナさんの戦い方なのだろうか。

 少し気になるな。


(だったら行って見るしかないか……)


 様子見程度だとティナさんに気配を察知されそうだし、方向的にガオウ達を追うならバレるだろう……。

 ここはもう真っ正面から突っ込んだ方がマシか。

 僕は音の聞こえる方角へと駆け抜ける。

 すると魔術を展開する黒長髪の女子生徒、黒いセーラー服姿のティナさんと、完全武装した機械人形の姿を視認した。


「明人さん!」


 ティナさんは僕に気付き、ブルーベリーの様な青紫色の瞳で見つめながら僕を呼び掛ける。

 だが僕はそれを無視した。

 そう言えばガオウからティナさんは大丈夫だと、念話の際に言われていた事を思い出したからだ。

 僕はその場から立ち去ろうとすると、ティナさんは待てと言わんばかりに追い掛けて来た。

 敵の機械人形も連れて。


(って……、連れて来んな!)


「待って下さい!」

「ティナさん一人でも大丈夫だって、ガオウに言われたんだよ!」

「それでも! 会ったなら少しは共闘ぐらいお願いしますわ!」

「共闘なんて出来る訳……」


〝〝背後〟〟

《背後から砲弾を放たれる。僕達の会話途中に割り込まれ、瀕死状態まで追い込まれる》


「ティナさん避けて!」

「何ですの?」


 何も気付かずに僕の背後を追い掛けるティナさんを先に前へと行かせて、僕は背後を振り向く。

 すると遠くから、発射された敵の砲弾が見えた。

 砲弾は全部で十発。直径二十センチ程の弾丸だが音は全く聞こえないので、弾丸自体を魔力でコーティングしているようにも見えた。

 この作りの砲弾だと確か発砲音は静かだが、人が至近距離でも追える程速度は遅かった筈だ。

 ただこの手の物は大抵が脆い。だから斬ったら直ぐに爆発するだろうな。

 だったら……。


「明人さん! それには魔力を封じる魔術が使用されてますわ!」

「忠告どうも。でも魔力は使わないし」

〝あきひと? たすける?〟

「そうだな。不可視の杖、出して」

〝わかった〟


 僕はステラに頼み、異空間から不可視の杖を出して貰う。

 周りからは見えない透明なこの杖は、これでもフリーステラの杖だ。

 今はまだ隠した方が良さそうだからな。


「〝フリーステラ!〟」


 僕は不可視の杖を地面に差して叫ぶ。

 すると地面から眩い白き閃光が放たれ、1メートル程の術式が構築される。

 砲弾は僕に近付くにつれて徐々に速さが鈍くなり、やがて砲弾自体が宙を浮いたまま静止すると、ゴンッと地面に落ちた。

 砲弾は起爆もせず、次々と地面に落ちていく光景に見惚れる間に僕は次の行動へ移行する。

 不可視の杖を地面から抜いて剣を持つかのように下段に構え、体内にあるコードとしての力を身体強化に使い、僕は素早さのみを人間の限界値まで底上げさせた。


「ティナさん。共闘なんて出来そうにないと思う」

「どう言う事ですの。明人さん、貴方はいったい……」


 すると機械人形は僕の行動を察知し、機関銃をデタラメに発砲しながら真っ直ぐと僕に近付いた。

 普通だったらあの機械人形も、相手の行動パターンを読みながら動くんだろうな。

 だけど相手が僕みたいに得体の知れない者だと判断すれば、攻撃特化の殲滅行動に入らなければ、全ての行動を覆された時、対処に遅れてしまう。

 だからこそ本能で実感させる為に高性能な機械人形にはAIを組み込んでいるって、宮守さんが話していたっけ……。


〝〝流れ弾〟〟

《避ければ、全て命中し僕は死に至る》


(〝ゼクシード〟お前の出番だ……)


『〝真っ直ぐ〟』『〝進め〟』『〝何も恐くない〟』『〝全て視えてる〟』『〝中央の胸〟』『〝光る赤い魔石〟』『〝魔法無効化は効かない〟』『〝衝撃で壊れる〟』『〝動かなくなる〟』『〝そして君を〟』


「ステラ。止めてくれ!」

〝わかった。がんばってみる〟


 僕は真っ直ぐと駆け抜けて機械人形の胸の中央を狙い、剣で斬るかのように不可視の杖を大きく薙ぎ払う。

 すると胸の中央に嵌められていた赤い魔石にひびが入り、薙ぎ払った衝撃でその赤い魔石は硝子の様に砕け散り、そして粉々に破壊した。

 その瞬間。機械人形は力の動力源を失い、その場に大きな衝撃音を鳴らして倒れた。

 元々前向きに倒れる様に作られていなかったのか、手や足、身体を支える歯車などが他の鉄鋼部品と重なり合って火花が散る。

 すると部品同士が重なり合ってパキンッと割れ、その一部が破損していく光景が次々と良く見えた。

 そして少し時間が経てば、それはもう機械の残骸にしか見えなくなっていた。


〝とめた〟

「ありがとう。ステラ」


 僕の返事にステラは必要無しと判断したのか、その場にあった不可視の杖を消滅させた。

 僕は振り向きティナさんの方へと近付くと、ティナさんはキョトンとした表情を浮かべて僕を見つめた。


「まさかとは思っていましたが……。ガオウさんの彼氏で間違いないですわね」

「ティナさん。さっきの質問の答えだけど、僕はガオウのクロスレゾナで、二年支援科シーナの九重明人。それ以外は特に何も無い、普通の男子高校生だよ」

「本当は異能力者だったりしませんか?」

「そんな訳あるか。さっさと行こう。ガオウ達が待ってる」

「分かりましたわ。本当、連れない男ですわね」


 呆れた表情を浮かべるティナさんに僕は軽く笑いつつ、ガオウ達が向かった方向へ急いだ。



   ◇ ◇ ◇



 僕達は南の森へと到着した。

 ここは旧校舎より反対側なのか照明設備が全く見当たらず、単純に真っ暗で薄気味悪い場所だ。

 地面には誰かが駆け抜けた靴底の跡が残っており、微かな魔力のような波長も感じるのでガオウ達がここへ来たのは間違いなかった。


「暗いと埒が飽きませんわね」

「かと言ってティナさんに照明魔法を使ったとして、敵に勘付かれるかも知れないしな。ティナさんは暗闇の中でも平気なんだな」

「当たり前ですわ。一年の戦闘訓練で慣れましたからね。明人さんも恐がったりしないのですわね」

「レゾナスレイドで慣れてるからな」


 その言葉にティナさんは首を傾げた。

 忘れてた。そう言えばティナさんはあの世界の住人では無かったな。


「今のは忘れてくれ」

「……忘れませんわ。ガオウさんも何回か言ってましたわね。元の世界で明人さん達はそこで戦っていた……、レゾナスレイド。私達からすれば、大規模戦線アルティナに似た戦場で間違いなかったですわよね?」

「大体当たってるよ。そうか。ガオウも言ってたか……」

「似た者同士……、ですわね」

「ガオウと? 馬鹿だな。僕はガオウ程じゃない」

「謙遜無さらずとも似てますわ。案外気付かないとは思いますが……」


 そんな他愛もない会話をしつつ、僕達は真っ暗闇の中、道無き道を突き進んで行く。

 すると突然。それは何の前触れも無く起きた。

 空は紅く染まり、幻想的な風景へと変貌していた。

 その森の奥でティナさんがその場に倒れた桃色ロングヘアの女子生徒を発見した。

 顔を向けると、回復科ティオルの間宮輝夜で間違い無さそうだ。


「呼吸はしてますわ。良かったですわ。無事で……」


 間宮は無事……と言うより、気絶して気を失っているようだ。

 あとは他の二人。宮守さんとガオウの姿が全く見当たらない。

 紅く染まりきったこの空を見る限り、ガオウは今も尚戦っているのだろうか……。

 だとしたら宮守さんは何処に?


『お前。宮守を助けてやってくれ……』


 周囲を見渡していると、ガオウが念話で僕に話し掛けて来た。

 突然の念話で驚きつつも僕は冷静に応える。


(ガオウは、今何処に……)

『そんな事どうでも良いから、早くやれ!』

(ガオウ……。分かったよ。そっちの敵は任せたぞ)


 ブチッと切断される様にガオウとの念和が切れる。


「ティナさんは間宮を連れて、旧校舎に向かってくれないか?」

「明人さんは?」

「僕は用事を頼まれたから行って来るよ」

「お気を付けて」

「驚かないんだな……」

「ガオウさんで慣れてますから」


 ティナさんはニコッと笑顔で微笑んだ。

 似た者同士。ティナさんから言われたその言葉を、ふと僕は思い出す。

 確かに性格は違えど、何処かガオウと少し似ている所があるかもな。

 僕はティナさんに間宮を預けて、すぐにその場から離れた。



   ◇ ◇ ◇



 幻想的な紅き空を眺めつつ、僕は一度深呼吸を吐いて自分自身を落ち着かせた。

 これはゼクシードにならない為でもあるが、少しでも冷静さを保たなければ、最悪な状況に陥った時、何も出来なければ意味が無い。

 まあ闇雲に行動した所で体力の消耗が激しくなる一方だしな。


「ステラ。宮守さん、宮守望愛を捜してくれ。GPSは多分使えないだろうし、敵は僕が助けられないように気配遮断を仕掛けていると思うから」

〝わかった。すこしまっててね。……いた〟

「何処だ」


〝〝背後、危険〟〟

《背後から即死クラスの攻撃を受け、成す術なく、僕は死に至る》


〝ふりーすてら!〟


 ステラは異空間から透明な不可視の杖を出現させ、僕はその杖を右手で掴み取ると背後を振り向き、得体の知れない何かを僕は薙ぎ払う。

 だが当たった感触は無く、素振りをしたかのような軽い感覚に僕は驚かされた。


(今の攻撃が外れた……!)


〝〝上、危険〟〟

《上空から即死クラスの攻撃を受け、僕は死に至る》


〝よけて!〟

「分かった!」


 上空から槍のような物を高速で放たれ、僕はその場からすぐに離れた。

 そしてその槍を近くで視認して、ようやく僕はその槍が何なのか理解した。

 あの槍は宮守さんのソードデバイス、鈍色の長剣だった。

 それに良く見てみれば両刃は血塗れであり、魔力に反応すると本来緑色に光る所が全く光を放っていない。

 と言う事は……。


 放たれたソードデバイスがその場にあった木に貫通し、大きな音を立てながら反対方向に木は倒れる。

 それを横目に見つつ、僕は背後から迫り来る気配を感じ取る。

 僕は後ろを振り返って、もう一度不可視の杖でその周囲を薙ぎ払う。

 だがまたしても当たった感触は無く、素振りをしたかのような軽い感覚。


「だと思った。ならーー」


〝〝右に移動〟〟

《相手の攻撃を瞬時に避け、右へと避難する》


「そこだ!」


 僕は未来視越しの映像を直感的で理解し、右に移動した何かに向けて、もう一度不可視の杖で薙ぎ払った。

 するとようやく鈍い当たった感触があり、全体から甲高い金属音が鳴り響いたと同時に、鳥人間のような青い機械人形が姿を現した。


『ナゼ? ワカッタ?』


 人間の言語を理解して喋る青い機械人形を見て、僕は何も言わずに奴の足、腕、翼をバキッと激しく音を立てながら破壊した。

 そして……。


『ヤメテクレ。モウシヌ……』

「だからどうした? 宮守さんを殺し掛けた奴が言う台詞セリフか? お前はまだ死なないだろ? 動力源の魔石がある限り……」

『オマエハ』

「黙れ!」


 すると紅く染まりきった世界が普段の夜空へと元に戻っている事に気付いた所で、僕はガオウの気配を感じ取る。

 物陰から金髪ショートヘアの少女ガオウが何かの残骸を引き釣りながら現れ、それを青い機械人形の前に激しい衝撃音を立てながら落とした。


『ナン、ダト……』


 それは胸に魔石のみを残した、歪な姿の赤い機械人形だった。


「お前を侮辱したからな。開発した奴は逃したが、まあ明日もあるからな」

『バケモノ!』

「何とでも言え。俺は元から化け物だから。お前は違うけどな。お前は俺の宝物だからな」

「それ、プロポーズ?」

「違え。そんなんじゃねーよ」

「でも無事で良かった……」

「……。宮守はまだ息はあったが、明日の模擬戦は無理そうだったぞ」

「あとで確認する。ありがとう」

「止めは刺すか?」

「まだ良いと思う。開発者、佐野慎一郎について知ってる事を全部吐いて貰うぞ」


 僕は抵抗出来ない青い機械人形に近付き、静かに尋問を試みる。

 すると遠くから聞き覚えのある叫び声が聞こえた。


「待ってアキ君! その機械人形は何も知らないの……!」


 その声に僕は振り向く。

 そこには必死に藻掻き苦しむ黒髪ショートヘアの女子生徒、技術科ディルギアの宮守さんの横たわる姿が見えた。


「どう言う事だ」

「話は後……。彼等は悪くない。早く壊してあげて……」


 宮守さんのネフライトのような黄緑色の瞳は真っ直ぐと僕を見つめており、その必死そうな瞳からは嘘では無い事を逆に裏付けていた。


「ガオウ。だそうだ」

「分かった」


 僕は青い機械人形を、ガオウは赤い機械人形を、魔石ごと粉々に破壊した。

 すると安心したかのように宮守さんは瞼を閉じた。

 体力の限界が来ていたのだろう。

 宮守さんに近付くと正常に呼吸はしているので、僕は素直に安心した。


「理由が聞けなくなったな」

「明日、本人と戦えばそれで良いさ」

「まあお前がそれで良いなら、俺は良いけど……」


 僕は宮守さんを抱き抱え、ガオウと一緒に旧校舎へ向かい、ティナさんと合流を果たした。




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