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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 15/19

12話「模擬戦当日」


 模擬戦当日の朝。

 あの後。ティナさんの連絡によって回復科ティオルの生徒達が宮守さんを救護し、回復科ティオル附属病院へと搬送された。

 この騒動の第一発見者としてティナさんは僕達を気遣って、教師科アルティナへと赴むいた。

 そして僕達は模擬戦会場がある白い建造物、ホワイトクランの近辺へと来ていた。


 このホワイトクランは支援科シーナとその上位職支援科ユイカの創立者。椎名しいな白愛はくあが管理する場所であり、最新鋭の設備では無いものの、大規模戦線アルティナ専用に特化されている。

 なので基本戦闘による模擬戦は勿論のこと。

 各学科の生徒達の間では人気な場所であり、本気でやり過ぎると内壁が破壊されるらしいが、建造物そのものが破壊される事は今の所は無いようだ。


「本当にここで良かったよ」


 少なからず僕は手加減出来たとして、果たしてガオウは……と考えてみると不安で仕方がなかった。

 もしかしたら、あの人も気付いたんだろうな……。


「噂をすれば……」


 ホワイトクランの入口前にある木製のベンチに座る、支援科シーナの白いセーラー服姿の少女が見えた。

 白い長髪に小柄な見た目の少女。椎名さんは水晶のような白く透き通った瞳で、僕を覗くように見つめて来たので話し掛けた。


「椎名さん。ありがとうございます」

「……ん。それは良かった」


 椎名さんは満足そうに微笑んでいると、僕の隣りで見ていた間宮が軽く驚いた。


「椎名さんって、……あの椎名さん!?」

「どうしたんだよ間宮? 白愛って、そこまで有名人か?」


 ガオウは椎名さんの偉業を知ってはいるが、そこまで興味がなかった。

 その為。間宮の驚愕した表情が不思議過ぎて、ガオウは少し首を傾げた。

 するとガオウのその発言に、間宮は慌てながら言い返した。


「この方は教師科アルティナの先生達よりも偉い方でして」


 怯える間宮を見て、椎名さんは間宮に話し掛けた。


回復科ティオルの間宮輝夜、今日の所は見逃してあげて。貴方が知らないだけで、その子も私と同じ様な立場」

「え? ガオウさんがですか?」

「ふふ。そう言う事……」


 椎名さんは自信満々にガオウを褒めながら呟いた。

 すると僕と椎名さんはある気配に気付いて、間宮の横に視線を向ける。


「……ん。来たね」

「僕も今、殺気で分かりましたよ」


 間宮の横から銀髪ショートヘアの黒制服姿の少年、三年魔術科マギカ楠見くすみさとしが僕達に手を振り、こちらへ向かう姿が見えた。


「君も来てたのかい? 椎名さん」

「……ん。ただの監視。楠見も元気そうで何より」

「君が間宮輝夜さんか。今日は九重達のサポート宜しくね」

「は、はい!」


 楠見はニッコリと微笑みながら、真横にいた間宮に話し掛ける。

 するとようやく間宮は目の前にいた楠見に気付き、驚き過ぎて声が裏返る。

 それを見て楠見はクスッと微笑み、僕に一言呟いた。


「今後の成長が楽しみだね。九重」

「そうですね。対戦相手は?」


 僕は態とその会話を反らすと、楠見は残念そうに苦笑いで誤魔化して路線を変更した。


「もう来てる。向こうはサポート人数が多いからね。セッティングに時間が掛かっているみたいだ。君達は三人で間違いないかい?」

「宮守はどうなる?」


 ガオウは楠見に話し掛けた。

 すると楠見はガオウに振り向き、少し残念そうな表情を浮かべた。


技術科ディルギアの宮守望愛の件は残念だと思ったよ。事情聴取で犯人を今割り出している所だ。間違っても九重達はこの件について手を出さないでくれ」

「悪いが手は出すぞ。俺達は誰がやったか分かるからな」


 楠見は僕の方へ振り向き、フッと怪しく笑う。


「そうかい。じゃあ後は頼んだよ、九重。間違っても彼女に殺されないようにね」

「それは僕にも分かりませんよ」


 僕は苦笑しつつ言葉を濁した。

 もしガオウが佐野慎一郎を殺してしまった場合、僕達の奴隷落ちは確定だろう。

 そして僕は提案した楠見に何をされるのか分からない。

 最悪死刑は免れても、楠見に存在その物を消されるかも知れない。

 そうならない為にも、今は出来る限りの事をしよう。

 最悪のケースも想定して……。


 そして僕はガオウ達を連れて、ホワイトクランへと歩き出した。



   ◇ ◇ ◇



 僕達はホワイトクランの真っ白な廊下を渡り、奥にある白い自動両扉が静かに開く。

 するとその先に今回の対戦相手である、赤い制服の高身長な男女の姿があった。

 腰回りの鞘に二本の魔剣を左右に収めた黒髪ショートヘアの男子生徒、二年狂戦科ベルセのアルフォンス・ディグムントがアゲートのような赤い目で僕達の登場に歓喜した。

 そして腰の鞘に刀のようなソードデバイスを収める青髪ポニーテールの女子生徒、二年戦闘科アルビーの姫路刹那が直立不動の姿勢で静かに待っていた。

 だが僕達が現れると、刹那はソーダライトのような青い瞳で僕達を鋭く見つめた。


「やっと来たな。俺達は準備万端だ。さっさとサポーターを連れて、今すぐやろうぜ!」


 アルフォンスのその発言に刹那は耳を傾けていないように見えるが、彼女の青い瞳からは「アルが済まない」と話しているような気がした。

 間宮はそっと何も言わずに奥のサポーター室へ行く。

 楠見と椎名さんは中央の部屋へと向かった。


「明人。ルールは判るな?」

「アルティナとは違い、サポーターは代表者三名までを決め、各学科事によって決められたバフをアタッカーに与える。但しそのバフは各代表者に加わるサポーターの人数によって変化する」


 バフとは能力やアイテムによって、自分自身に付加能力を上げる効果のことだ。

 刹那がルールについて質問したので、僕はそのルールを説明した。

 すると刹那は僕達に今回の模擬戦の内容を伝えた。


「今回の模擬戦は、チーム戦によるバトルロイヤル。チームで生き残った者のみが勝利する決まりだ。制限時間は特に決めてはいないが、もし戦いが長引いた場合は休憩時間を設けて作戦会議が可能だ。それが可能ならな……、明人」


 刹那は微笑んだ。

 甘く見られた物だな。

 その態度。姉が見てたら怒られるぞ、それ。


「そんなの瞬殺すれば良い話だろ」


 ガオウの突拍子のない発言にアルフォンスが笑う。

 今回の戦いは僕達が不利だと言う事に、ガオウは気付いていない。


「お前らはサポーターが一人。俺達なんか最高のコンディションなんだぞ。負ける筈が無いだろ?」

「それは私も否定出来ない。今回ばかりは、な。だが同時に油断出来ない相手だと、私は思うがな……」


 少しは僕達にフォローしているのか、刹那は真っ直ぐと僕を見つめた。


『さて、それぞれの会話は終わったかい? 現時刻より、模擬戦を始めるけど大丈夫かい?』


 天井の拡声器から楠見の声が聞こえた。

 ブレイドコレクターの二人は頷き、僕達もそれに頷いた。


『そうか……。では、僕は君達の健闘を祈るよ』


 上から正方形のキューブが落下する。

 そのキューブが地面へ当たると、硝子の様にパリンっと音を立てながら粉々に砕けた。

 するとその瞬間。周りの景色はガラリと変わる。

 今まで真っ白な部屋にいた筈なのに、幾つものビルが建ち並ぶ場所へと僕達は転移されていた。



   ◇ ◇ ◇



「まさか、これ程とはな……」


 僕は全身で椎名さんの技術を体験して軽く冷や汗をかく。

 これがただのホログラム。否、違う。ここは現実世界に似せた世界だ。

 人の五感を鈍らせ、あたかも実在するかのような建物があり、虫や動物でさえも実際に生きているかのように忠実に再現されていた。

 そして建物は本物のように実際に触れることが出来る為、そのクオリティに僕は言葉が出ない。

 それは彼女。椎名さんが天才であるが故か……。


「ガオウ。間宮に場所を把握させるから待機」

「分かった。良いぜ」


 僕は探索を始めようとしたガオウを静止させた。

 アタッカーはサポーターと常に連絡でき、サポーターは地形や天候の確認、戦闘開始時の敵味方のバフや敵の位置を把握できる。

 但しそれは戦いを有利に進める事はできない。

 何故ならそれでは情報が足りないからだ。

 相手の下調べは勿論のこと。全ての情報を把握したとしても、人間の行動パターンなんて誰も読めやしない。

 だが現地にいるアタッカーなら、それが初見の相手でも可能性は充分にある。


「間宮。応答しろ」

『はい。何でしょう……』

「現在の位置の情報が欲しい」

『分かりました』


 僕の目の前に画面が表示する。

 画面には所持アイテム欄と表示されていた。

 今回は何も所持してないので何も表示していない。


『すみません! 間違えました!』


 間宮は自分のミスに困惑して所持アイテム欄を消したが、次は全く関係ない情報が画面に表示された。

 今頃サポーター室では、間宮一人で慌てている姿が手に取る様に判ってしまう。


「間宮。僕とガオウを押して、全部チェックを入れろ!」

『はい! 分かりました!』

「〝マップ展開〟あと、〝バトルステータス展開〟」


 僕は左側に地図を右側には現在の戦闘状況が画面に表示された。

 それを任意でガオウにも共有し、画面に表示させた。

 流石に敵の位置までは地図に表示していなかったが、それでも僕達の位置だけでも判ればマシか……。

 右側の画面には現在の戦闘状況が表示され、上に対戦相手、下に俺達が表示しているのが見えた。


━━━━━━━━━━

【対戦相手】

【アタッカー】

 «二年戦闘科アルビー» 姫路刹那

 «二年狂戦科ベルセ» アルフォンス・ディグムント


【サポーター】

 «三年魔女科マギ» ジュリア・ローゼン

『自分自身の魔力量、計測可能』『相手の魔力量、計測不可』『魔術と魔法の魔力量短縮』『魔術と魔法の威力を上げる』『対魔術及び、対魔法の発動と効果、分析不可』


 «二年魔術科マギカ» 佐野慎一郎

『手動型機械人形オートマタ10体配置』


 «一年支援科シーナ» 向井小春

『一人、所持アイテムを合計10個持てる』

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【貴方】

【アタッカー】

 «二年支援科シーナ» 九重明人

 «学年学科不明» ガオウ


【サポーター】

 «二年回復科ティオル» 間宮輝夜

『戦闘中一度だけ、一人を全回復する』

━━━━━━━━━━


 元々僕達は魔力持ちではない為、ジュリアさんのサポーター能力が台無しになっている。

 それでも『対魔術及び、対魔法発動と効果、分析不可』と表示しているので、刹那達は僕が対魔剣使い封じのロストデーモンを所持してない事は気付いている筈だ。

 僕達が注意すべき箇所は、手動型機械人形オートマタ10体と所持アイテム10個くらいか。

 それと……。


「間宮。このサポーター能力は何だ?」

『えっと……、そのままの通りです』

「もっと他の奴はなかったのか?」

『ありました。でも望愛さんがアキ君には必要だって話してたので、コレにしました。……駄目ですか?』


か……)


「別に……。間宮達が決めたなら、僕は二人を尊重する」

『良かった……』

「間宮は対戦相手の位置だけ見ていてくれ。あとは僕達でやるから」

『そう言えば、さっきからアキさん達が見てるその画面は何ですか?』

「これはアタッカーでもサポーターの機能を一部使える機能だ。これなら間宮が慌てる心配は無いだろ」

『ありがとうございます』

「別に良いよ」


 どうせ向こうもやってるだろうな。

 アルティナ経験者、姫路刹那。

 彼女だけは要注意人物だ。

 今何を始めようとしてるのか、未だに不明だし。

 アルフォンスを身代わりにする事は可能だが、仲間を切り捨てるなんて刹那は出来ないだろうな。

 どちらかと言えば彼女は協力派だから、それは無いか。


『アキさん』

「何だ……?」

『対戦相手が真っ直ぐと近付いてます!』

「お前!」

「間宮、回線切るぞ!」

『え……?』


 ガオウが僕に向けて叫ぶ。

 すると僕は間宮との連絡を一度切断した。


(何で気づかれた……? その前に……!)


「ガオウ! 本気はまだ出すな!」

「何で!?」

「ただの様子見だ。一旦退けるなら良いけど、今は無理そうだ」


〝〝正面〟〟

《気配が全く感じられない程の縮地で僕に近付き、目の前の剣戟で敗北した》


「〝『コードソード』 王斬オウザン〟」


 僕は異空間から黄金色の長剣を取り出して両手で構える。

 すると僕の目の前に刹那が一瞬の隙も見せずに現れる。

 刹那は鞘から紫色の刀型ソードデバイス、妖刀村正を引き抜き、一を描くように横へと斬り裂いた。

 僕は黄金色の長剣で刹那の妖刀村正を弾こうと狙いを定めるが、ソードデバイスにしては予想以上に重量があり、受け取めるだけで精一杯だった。


「ほう……。これを防ぐか。だが後ろがガラ空きだぞ!」


(まさか背後を取られた!)


 すると背後からアルフォンスの声が聞こえた。


「〝ヴォルディノーツ〟〝突進ラッシュ武装アームズッ!〟」


(ここで終わる訳にはいかない)


「まだ諦めないか……」


 焦る僕を見て、刹那は独り言のように呟いた。

 するとガオウから一方的に念話で話し掛けられる。


『お前ハメられたな。どっちと戦えば良い?』

(アルフォンス。アイツを止めてくれ)

『分かった。お前もソイツを倒したら合流しよう』


 すぐに念話を切断され、ガオウはクロスレゾナを使用した。


「〝クロスレゾナ〟」


 ガオウの真紅に満ちた紅い術式と僕の無色透明の術式が混ざり合う。

 すると術式は姿形を変えて、契約紋へと変化する。

 ガオウと僕の手の甲にその契約紋が付いた。


「少し本気を出す事にするよ。〝『コードソード・コア』 王斬〟」


 僕は両手に持つ黄金色の長剣を右手に持ち変え、異空間から現れた水色水晶の棒を左手に持つ。


「何だ。それは」

「何だろうな。〝蜘蛛狩り〟」


 僕の声に反応し、水色水晶の棒が刀へと形状変化する。

 その刀の持ち手は木で出来ており、刃は鉄と普通に見掛けるような刀で、茎尻なかごじりには白の細長い布切れが付いてある。

 この刀を見た瞬間。危険を感知したのか、刹那は僕の黄金色の剣を弾き返して後ろへと後退する。

 僕は全能の力を足に使用し素早さを上げて、後退する刹那を追い掛ける。

 刹那は僕から距離を取ろうと縮地を使用した瞬間。何かに捕まる。

 それは僕が持つ刀に付いていた、細長く伸びた白の布切れだった。


「何だ。これは!?」

「捕まった!」


 この布切れは全能の力によって手動で長さが調節でき、攻撃力が全く無い代わりに相手を捕まえる事しか出来ない。

 それにこの刀の持ち主曰く、どんな攻撃も籠められた全能の力次第で防げるらしい。


(本当……。チート性能だよ、愛奈あいなの刀は)


 布切れを収縮させて強引に刹那の身体を引っ張り、僕は刹那との距離を大幅に縮めた。


「これで!」


〝〝後ろ〟〟

《背後の存在に気付かず、僕は深い傷跡を残し、戦闘に不利が生じる》


(何だ!?)


〝〝正面〟〟

《相手に奥義を使われ、僕は深い傷跡を残して瀕死状態に陥る》


 刹那は妖刀村正に魔力を籠めている姿が見えた。

 だが魔力は籠め切れてないのか、刹那にしては少し冷静さが欠けていて何処か焦っているようにも見えた。


(だったら、一か八か)


 僕は正面の刹那に狙いを絞り、黄金色の長剣の刃を向ける。

 すると刹那は妖刀村正の魔力籠めを中断し、妖刀村正で僕の攻撃を未然に防いだ。


「チッ……。気付かれたか……」


 刹那は妖刀村正を使って、今まで動きを封じていた布切れを意図も簡単に切断させた。


「マジか……」

「はあぁぁぁ!」


 刹那は素早い手際で十字斬りを繰り出し、僕は刀と黄金色の長剣でその十字斬りを防御した。

 すると命中率が的確だったのか、二本共耐久値がなくなって破壊された。

 その隙に刹那は一度後退し、縮地で僕の背後を取られた。


「終わりだ。明人!」


 すると刹那は何かを感知して僕から距離を離れた。

 その瞬間。ガオウの黒い刀が僕の背後を通り抜けるように射出され、黒い刀は大地に刺さって消滅した。


「危なっ!」


(さっきの予知。これかよ!)


 あと少しで僕は味方の攻撃で死に掛けていたのだ。

 それを改めて考えてみると、何か、うん。


「味方に助けられたな」

「絶対に違うと思う」


 刹那が冷静にフォローするが、直ぐに僕は否定する。

 すると刹那は急に妖刀村正を鞘に収めた。


「何の真似だ?」

「明人。話がある」

「急にどうした?」


 すると刹那は改めて僕に向き直り、衝撃的な一言を話した。


「今回の件。佐野を助けてやってくれないか?」

「どう言う事だ? 何で刹那がそんな事まで肩入れしている?」

「アイツは焦っているんだ。かつて技術科ディルギアとして呼ばれていた筈なのに……」

「それで助けてやってくれか……? 悪い。交渉決裂だ」


 もう既に被害者が出てる。

 今になって交渉しても、問題の修正どころか解決策すら見つからない。


「ああ。だと思った。済まない。こんな話をして」

「刹那が悪い訳じゃないだろ」

「どう足掻いても私は佐野のチームだからな。これで私も本気が出せる。明人、お前は生きてくれ」

(え……? どう言う事だ?)


 するとその瞬間。高周波ノイズがキーンと聞こえ、僕はそれに耐え切れずにその場から倒れた。


(何だよ。これは……)


 段々意識が途切れる中、それがゼクシードの後遺症だと気付くのに時間は掛からなかった。

 そして僕はいつの間にか気を失っていた。



   ◇ ◇ ◇



 ……。

 …………。


 何だ……。

 …………。

 何が起こって……。

 ふと目の前を見上げると、ガオウの後ろ姿が見える。

 だけど何故か血塗れで、今にも倒れそうな後ろ姿だった。

「ガオウ……」

か、お前……。魔剣野郎は倒した。あとは任せた……」


 そしてその一言のみを残して、ガオウはその場から倒れた。

 呼吸はしているので命に別状は無いにしろ、ガオウの身に何が起きたのか、僕には分からなかった。

 否、違う。ガオウの身に何が起きたのでは無くて、で何かが起きたんだ。

 周囲を見渡せば、それは一目瞭然だった。

 佐野慎一郎の機械人形オートマタが昆虫のような小さな機械人形オートマタで、何の昆虫か判断出来ないくらいまで粉々に破壊されており、この目で10体全ての破壊を確認して、僕はほっと軽く息を吐いた。


(そうか。だから僕達の位置が分かったのか……)


「間宮、応答してくれ。何があった?」

『ご無事で何よりです。ガオウさんは?』

「息はしているけど無事じゃない。間宮のサポーター能力を使えないか?」

『それは……、ガオウさんがアキさんの為に使いました』


(え……? 今何て……)


『それとお気を付けて下さ』

「間宮!」


 間宮との連絡は一方的に切断された。

 すると今度は別の誰かから連絡が来た。


『緊急事態……』


(椎名さん……!?)


『刹那が暴走した……。助けてあげて』

「それは、どう言う?」

『あれは事故。いや、違うような気がする。それにソードデバイスが暴走する訳……』


 するとまた一方的に椎名さんとの連絡が切断された。

 否、違う。誰かが強制的にこの連絡を遮断したのだと僕は気付いた。


(ここで一体、何が起きたんだ?)




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