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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 16/19

ガオウside「漆黒の魔剣使い」


 上から正方形のキューブが落下する。

 そのキューブが地面へ当たると、硝子の様にパリンっと音を立てながら粉々に砕けた。

 するとその瞬間。周りの景色はガラリと変わる。

 今まで真っ白な部屋にいた筈なのに、幾つものビルが建ち並ぶ場所へと俺達は転移されていた。


「まさか、これ程とはな」


 アイツはそう呟いて、全身で白愛の技術を体験して軽く冷や汗をかいている。

 ホログラムにしては、現実世界に似せた世界。

 人の五感を鈍らせ、あたかも実在するかのような建物があり、虫や動物でさえも実際に生きているかのように忠実に再現されていた。

 そして建物は本物のように実際に触れることが出来る為、そのクオリティに感動している暇は無いだろうな。

 それはあの女。白愛が実現させたかった努力の結晶だからだ。

 周囲では天才だと呼ばれているが、実際は……。


「ガオウ。間宮に場所を把握させるから待機」

「分かった。良いぜ」


 アイツの言葉に俺は止まる。

 本当は周囲を確認したかったが、間宮の存在を忘れてたな。

 サポーターの間宮は常にアタッカーの俺達と連絡でき、地形や天候の確認、戦闘開始時の敵味方のバフや敵の位置を把握できるみたいだ。


「間宮。応答しろ」

『はい。何でしょう……』

「現在の位置の情報が欲しい」

『分かりました』


 アイツの目の前に画面が表示された。

 画面には所持アイテム欄と表示しているのが見えた。


『すみません! 間違えました!』


 すぐに所持アイテム欄の画面が消えたが、次は全く関係ない画面に表示されているのがここからでも見える。

 今頃サポーター室で慌てる間宮の姿が手に取るように判ってしまうな。


「間宮。僕とガオウを押して、全部チェックを入れろ!」

『はい! 分かりました!』

「〝マップ展開〟あと、〝バトルステータス展開〟」


 アイツは左側に地図を表示し、右側には現在の戦闘状況が画面に表示され、俺にもその画面が表示された。

 右側の画面にある戦闘状況には、上に対戦相手、下に俺達が表示しているのが見えた。


━━━━━━━━━━

【対戦相手】

【アタッカー】

 «二年戦闘科アルビー» 姫路刹那

 «二年狂戦科ベルセ» アルフォンス・ディグムント


【サポーター】

 «三年魔女科マギ» ジュリア・ローゼン

『自分自身の魔力量、計測可能』『相手の魔力量、計測不可』『魔術と魔法の魔力量短縮』『魔術と魔法の威力を上げる』『対魔術及び、対魔法の発動と効果、分析不可』


 «二年魔術科マギカ» 佐野慎一郎

『手動型機械人形オートマタ10体配置』


 «一年支援科シーナ» 向井小春

『一人、所持アイテムを合計10個持てる』

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【貴方】

【アタッカー】

 «二年支援科シーナ» 九重明人

 «学年学科不明» ガオウ


【サポーター】

 «二年回復科ティオル» 間宮輝夜

『戦闘中一度だけ、一人を全回復する』

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 元々俺達は魔力持ちではなかったから、相手のサポーター能力が台無しになってるな。

 まあ俺達が注意すべき箇所は、手動型機械人形オートマタ10体くらいか。


「間宮。このサポーター能力は何だ?」

『えっと……、そのままの通りです』

「もっと他の奴は無かったのか?」

『ありました。でも望愛さんがアキ君には必要だって話してたので、コレにしました。……駄目ですか?』


(分かっているじゃねぇか。確かにアイツにはこれが必要だ)


「別に……。間宮達が決めたなら、僕は二人を尊重する」

『良かった……』

「間宮は対戦相手の位置だけ見ていてくれ。あとは僕達でやるから」

『そう言えば、さっきからアキさん達が見てるその画面は何ですか?』

「これはアタッカーでもサポーターの機能を一部使える機能だ。これなら間宮が慌てる心配は無いだろ」

『ありがとうございます』

「別に良いよ」


 ふと俺は何かの気配を感じて振り向いた。

 だがそこには誰もいなかった。


(何だ? この感覚。まるでレゾナスレイドで味わった……)


 そんな訳無いだろ。この世界には俺達以外いない筈……。

 それよりもアイツに報告しねえと……!


「お前!」

「間宮、回線切るぞ!」

『え……?』


 俺はアイツに向けて叫ぶ。

 するとアイツは間宮との連絡を一度切断した。


「ガオウ! 本気はまだ出すな!」

「何で!?」

「ただの様子見だ。一旦退けるなら良いけど、今は無理そうだ」


(アイツ、まさか気付いてないのか?)


「〝『コードソード』 王斬オウザン〟」


 アイツは異空間から黄金色の長剣を取り出して両手で構えた。

 するとアイツの目の前に赤いセーラー服姿の刀女。青髪ポニーテール、ソーダライトのような青い瞳の女子生徒、二年戦闘科アルビーの姫路刹那が一瞬の隙もなく現れた。

 刀女は鞘から紫色の刀型ソードデバイス、妖刀村正を引き抜き、一を描くように横へと斬り裂いた。

 アイツは黄金色の長剣で刹那の妖刀村正を防御して受け止めた。


「ほう……。これを防ぐか。だが後ろがガラ空きだぞ!」

「〝ヴォルディノーツ〟〝突進ラッシュ武装アームズッ!〟」


 すると背後から赤い制服姿の魔剣野郎。黒髪ショートヘア、アゲートのような赤い目の男子生徒、二年狂戦科ベルセのアルフォンス・ディグムントの声が聞こえた。

 俺は念話を使用して一方的にアイツに話し掛けた。


(お前ハメられたな。どっちと戦えば良い?)

『アルフォンス。アイツを止めてくれ』

(分かった。お前もソイツを倒したら合流しよう)


 すぐに念話を切断して俺はクロスレゾナを使用した。


「〝クロスレゾナ〟」


 俺の真紅に満ちた紅い術式とアイツの無色透明の術式が混ざり合う。

 すると術式は姿形を変えて、契約紋へと変化する。

 俺とアイツの手の甲にその契約紋が付いた。

 嫌な予感はするが、先に魔剣野郎を倒してからだ。


「〝強化オーガ〟〝王斬空オウザンクウ〟」


 俺は身体を強化し、虚空から黒い刀を生み出してそれを両手で構える。

 そして俺は魔剣野郎へと振り向いた。

 魔剣野郎は自身が持つ黒色の魔剣ヴォルディノーツを魔槍へと形状変化させ、自らの黒い闇の魔力をその魔槍に纏わせていた。

 だがその程度だ。レゾナスレイドとは違う。

 今はノーヴァを温存しよう。

 そう心に決めても俺のガーネットのネックレスは少し紅く輝き始めた。

 それを横目にまだ完全制御が出来ない俺自身に苦笑した。


 俺は前進するように足を前へと踏み込む。

 するとまた何か、否。それは俺の違和感などでは無く、はっきりとそれは見えた。

 魔剣野郎の背後の影が生き物のように蠢き、影の中から一本の黒い矢が目にも留まらぬ速さで射出された。

 その黒い矢は魔剣野郎の視界から上手く外れていたが、俺にはその黒い矢がどの方角を指し、誰に狙いを定めていたのか気付いた。


「〝王斬オウザン〟」


 俺は異空間から黄金色の長剣を取り出し、すぐに黒い矢に向けて投擲した。

 すると黄金色の長剣は黒い矢に接触すると溶けるように消滅した。


(良かった……!)


「余所見してる場合か!」


 魔剣野郎は魔槍で俺に突っ込み、俺は黒い刀でその魔槍を受け止めた。


「この前見たいな勢いはどうした!」

「雑魚は黙ってろ!」


 俺は黒い刀に少し力を加えて、目の前の魔槍を力任せに斬って魔剣野郎を弾き飛ばした。

 全壊は出来なかったが、それでも黒色の魔剣本体には致命傷を負わせる事は出来た。


「そこだ!」


 俺は魔剣野郎から流れる魔力源を見つけて、また斬り裂いてやった。

 何故かコイツからは簡単な構図をした魔力源があり、俺がその魔力源を遮断させる事で魔剣との拒絶反応を起こし、コイツは何も抵抗出来ずに失神していた。

 これが最近魔剣野郎を黙らせた俺のやり方だった。


(ッ……! 魔力の流れが変わった……!)


「残念だったな。二度目は効かないんだよ!」


 すると魔剣野郎は鞘からもう一本の漆黒の魔剣を引き抜いた。


「〝バルムンク〟究極アルティメット武装アームズッ!」

『承認不可』

「何、だと……?」


 魔剣野郎はその反応に思わず落胆した。

 すると魔剣野郎はまるで操り人形のようにその場から不自然に倒れた。


(何だ? 今の状況が分からない)


 魔剣野郎が持つ黒色の魔剣ヴォルディノーツはその身に魔力を宿しており、主人が魔力供給しなくても動作する程高性能な魔剣だ。

 その為。この状況をいち早く把握する為には、その黒色の魔剣に直接話した方が早かった。


「ヴォルディノーツ。どう言う事か説明してくれ」


 俺は黒色の魔剣ヴォルディノーツ自身に話し掛けた。

 するとヴォルディノーツは俺に向けて急に叫んだ。


『逃げて!』

(ッ……!)


 ヴォルディノーツが危険を察知し、警告したのも束の間。

 さっき倒れていた筈の魔剣野郎が急に俺の懐から現れた。

 すると魔剣野郎は黒色の魔剣を縦に振り、俺は咄嗟に黒い刀で防御する。

 だが魔剣野郎にはもう一本の漆黒の魔剣があり、俺は何も抵抗出来ずに漆黒の魔剣で斬られた。

 俺はその場から一度離れた。

 魔剣使い。それも二刀流と来た。

 これ程の敵。果たしてこの世界に居ただろうか?


「お仲間が危ないぞ。


 その声を聞かされ、俺は一瞬頭がポカンと思考停止した。


(今なんて言った?)


 ノーヴァ。何で魔剣野郎が俺の事を……!

 俺はアイツに振り向いて戦況を確認すると、刀女が優勢に見えた。

 俺は黒い刀に力を込め、すぐに刀女に向けて投擲した。

 刀女は俺の黒い刀に気付いて後退し、黒い刀はアイツの背後をギリギリの間隔で通過して、そのまま大地へと刺さって消滅した。


「何で助けた?」

「九重明人が今倒されると困るからな」

「どう言う事だ!」

「……そうか。悪い悪い。ノーヴァの波長を感じたからノーヴァかと思ったが、次の後継者に変わってたなんてな。残念だ……」

「だからお前は!」

「佐野慎一郎には感謝している。こうして俺を呼んでくれた事。九重明人の弱点を見つけ出し、無力化してくれた事」


 するとその瞬間。周囲全域からキーンとした高周波ノイズが一斉に聞こえた。

 咄嗟に俺はアイツに気付いて視線を向けた。

 するとアイツはその高周波ノイズに耐え切れず、その場から倒れる姿が見えた。

 そしてその隣にいた刀女は何故か魔力が溢れんばかりに膨れ上がり、まるで魔獣のように暴走している姿がここからでも確認する事が出来た。


「そして、この場を支配した事を俺は感謝している!」



   ◇ ◇ ◇



「イカれた野郎が……」

「何だと……。まだこの状況が読めていないようだな……」


 魔剣野郎は咄嗟に後退した。

 するとその地面からはさみのような形状の刃が現れた。

 魔剣野郎は黒色の魔剣に黒い闇の魔力を込めて真上へと放つ。

 パリンッと何かが割れる音が聞こえ、そのまま本来捉える事も出来ない天井に黒色の魔剣が刺さる音が微かに聞こえたような気がした。


「へえ。良く出来たね。君は狂戦科ベルセのアルフォンスとは違うようだ……」

「何でお前が……」


 俺の目の前に黒の制服を着た銀髪ショートヘアの男子生徒、楠見のような人物が現れる。

 男子生徒はイーグルアイのような灰色の目で魔剣野郎を静かに見つめた。


「隠れて見ていたよ。まさかバルムンクなんて登録されてもない魔剣を使用した時は、流石に僕も驚いたけどね」


 魔剣野郎は急に現れた男子生徒に漆黒の魔剣を向けた。


「貴様、何者だ!」

「僕は三年魔術科マギカ楠見悟。この無限高の副生徒会長をしている者だ」

「律儀にどうも」


 まさかの楠見悟本人だと知り、俺は素直に驚かされた。

 だが今まで見て来た楠見とは少し外見が異なる為、俺は今も本物なのか、実際のところ真偽までは良く判らなかった。

 アイツなら何か知ってる筈かも……。


「危ねえ!」

「もう遅い! 〝赤き戦場〟」


 世界は赤く染まる。

 この赤き世界の中では耐性が無ければ相手は大地に立つ事すらも出来ず、跪く事しか方法がない。

 だが楠見は平然とその場に立っていた。


「へえ。面白い物が見れたよ。強さに比例して動けなくなるなんてね」


 するとその瞬間。魔剣野郎の真上から巨大な氷塊が降って来る。

 それを察知した魔剣野郎は漆黒の魔剣で真っ二つにその氷塊を斬ると、衝撃で辺り一面の地面は凍り着き、漆黒の魔剣すらも凍り漬けにされた。

 すると魔剣野郎は何食わぬ顔で、漆黒の魔剣に黒い闇の魔力を付与させて溶かし始めた。

 そうしている間に、さっきまで俺の近くにいた筈の楠見が魔剣野郎の目の前へと近付いていた。


「面白いね。君は」

「調子に乗るな!」


 魔剣野郎から広範囲による闇の波動を放出し、楠見は諸に受け止めようともせずに全身に受けた。


「君も治ったかい?」

「何で! 今あそこに居ただろ!」


 隣りで微笑む楠見に声を掛けられて、俺はまた驚かされた。


「あれは囮だよ。彼を怒らせる為のね」

「刹那! アイツを殺れ!」

「おっと済まない。用事が出来てしまったな。九重の事を頼んだよ」

「お前は?」

「今から時間を稼ぐさ。あー、あと。システムが壊れてしまっているから人に見られる心配ないけど、程良くやるんだよ、苺君」

「何でお前がそっちの名前知ってんだよ?」

「椎名さんが推してるからね」


 楠見はその場から去ると同時に、刀女もその場から姿を消した。


「これで邪魔者は消えたな。現代のノーヴァよ。レゾナスレイドとは違うが悪く思うなよ」

「ああ、そうだな。久し振りに腕がなるぜ」


 とは言ったものの、コイツは一体何者なんだ。

 波長だけで俺がノーヴァだと何故分かった。

 レゾナスレイドを知ってるなら、コイツも俺達と同じようにゲートから来た奴で間違いない。


「〝逆牙ギャクガッ!〟〝王斬空オウザンクウッ!〟」


 異空間から自身の身長とは見合わない程大きな紅い大鎌と、虚空から黒い刀を出現させた。

 俺は背中に黒い刀を装備して、紅い大鎌を両手で構えた。

 始めから強化オーガで自身を身体強化してあるので、俺は体力の減りを気にする必要はなかった。

 俺は大地を蹴って一直線上に走り抜け、魔剣野郎との距離を積極的に縮めた。


「〝真紅の瞳スカーレットアイズ〟〝真紅の剣スカーレットソード〟」


 俺は橙色の瞳からガーネットのような紅い瞳へと変わり、異空間から真紅の片手剣を出現させて、そのまま俺は上空へと放つ。

 音は聞こえないが、魔剣野郎の間合いに入ると同時に俺は言い放った。


「〝紅き世界〟〝紅き戦場〟」


 世界は紅く染まる。

 だが元々から世界は赤く、余り判別の仕様がなかった。

 手順は違えど、これは魔剣野郎がやった通りだ。

 紅き戦場はトリガーとなる力を込めた何かを捧げなければ発動出来ないし、かと言ってそれが破壊もしくは無効化されたら解除される。

 だから魔剣野郎も確実に天井がある上空へと魔剣を投げた。

 誰も手の届かない場所に。

 それにこの状態でも紅き戦場の効果は続いている為、俺はこれで相手の赤き戦場を相殺していた。

 あとは……。


「懐かしい技だな。前回のレゾナスレイドでも見たな。まるでブラッドの片鱗を見ているようだ」

「へえ、茜を知ってんだな。それなら本気で行かねえとな。〝フリーノーヴァッ!〟」


 俺は紅い大鎌を振り下ろすと、魔剣野郎は回避しながら後退した。

 すると魔剣野郎は俺が紅い大鎌を振り上げる瞬間を狙って俺の右へと周り込み、魔剣野郎は俺の腕を斬り落とす為に漆黒の魔剣で真っ直ぐ縦に振り下ろした。

 俺は紅い大鎌を左手に持ち替え、背中に装備してある黒い刀を右手で掴み、漆黒の魔剣の攻撃を未然に防いだ。


「〝真紅の剣スカーレットソードクロス10テン〟」


 異空間から真紅の片手剣を10本同時に出現させ、魔剣野郎の背後に全て向けて俺は放つ。

 すると真紅の片手剣が触れる前に、魔剣野郎の背後から黒い闇が出現して全て飲み込まれた。


「成る程……。現代のノーヴァは極めて未熟らしい。フリーの戦いを甘く見過ぎて要るようだ」

「どう言う事だ!」

「今の剣。この戦いにおいて必要無いから全て返すよ」


 俺の背後に10本の黒い片手剣が出現し、全て俺に向けられて放たれた。


(え……)


 すると背後にある全ての黒い片手剣は俺に向けられているものの、俺の身体に触れる寸前で静止した。


「これでチェックメイトかと思ったが、俺はノーヴァの戦い方を忘れていたようだ……。佐野慎一郎、後は頼んだ……」


 魔剣野郎はその場から倒れ、背後で静止した黒い片手剣が全て消え去る。


(魔力切れか……?)


 俺の真紅の片手剣を吸収に成功したが、それを再利用する為には莫大な魔力を消費したが別にそれは構わなかった。

 だが魔剣野郎はその黒い片手剣が元々の持ち主には刃を向けない事を忘れていた。

 そして魔剣野郎は自身が持つ魔力量に底が着いた為、その場から倒れて敗北した。


(危ねえ! あと少しで殺されてた。もし本体だったら……)


〝「□□をフリーの戦争に巻き込みたくない。これは僕の戦いだから」〟


 ふと俺は過去に話した明人の言葉を思い出した。

 初代ノーヴァは平和に暮らしたが、力が暴走して街を愛する夫すらも焼き払い、二代目ノーヴァは力に溺れ、世界を支配したがレゾナスレイドで討伐され、三代目ノーヴァは暴走する力を制御し、世界の平和を今も望んでいるって……。

 俺は……、四代目ノーヴァは……。全て明人のお陰だ。


「間宮。通話出来るか?」

『やっと繋がりました。システムが一部破損してしまって、中の映像が見れなくて』

「アイツの。明人の状態は大丈夫か?」

『はい? 少なくても時間を掛ければ目覚めるかと……』

「だったら、間宮のサポーター能力を使用してくれ!」

『良いんですか……? まだガオウさん用に残しても……』

「宮守だったら、すぐに使ってるぞ。まだ目覚めてないなら尚更だ」

『どう言う事ですか!』


 すると間宮との通話が一方的に遮断された。


『話ハ終ワッタカ?』

「何者だ!」


 声の聞こえた場所を振り向くが、そこには誰もいなかった。


『展開カラ分カルト思ッタガ』


(佐野慎一郎!)


『マアソンナ恐イ顔スルナヨ。ナア』


 プスっと何か吸い針の様な物が俺の身体に刺さる。


「何だ。これは?」


 身体にビリビリと痺れる感覚が走る。


『麻痺サ。オマエヲ倒ス為ノサ』


 すると一瞬。光が見えた。

 俺はその場所に真紅の片手剣を出現させて放つ。

 すると機械が破裂した音が周囲に聞こえた。


機械人形オートマタ!)


 俺はその場所へと近付いた。

 するとそこには手の甲サイズの小型の機械人形が一体破壊していた。

 機体を見る限り、何かアンテナのような物が装備されていた。

 さっきのモスキートはコレか……。


「お前。ノコノコ現れて、今が紅き戦場の発動中って事、分かってんのか? 〝真紅の剣スカーレットソードクロスナイン〟」


 俺は紅き戦場で残りの九体の機械人形を捉え、異空間から九本の真紅の片手剣を出現させて放つ。

 全て狙い通り命中させた。


「弱っ!」


 もう少し張り合いがあっても良かったんじゃ……。

 チラッと何かに気付く。

 アイツの目の前に刀女が突然現れていた。


(クソッ。次から次へと……)


 俺は瞬間移動を使用し、紅い大鎌で刀女の攻撃を防いだ。

 一度の攻撃で衝撃波が走り、大地が抉られた。

 だが何とか持ち堪えられそうだ。

 すると俺はある事を忘れていた。

 俺の身体から流れる麻痺が最高潮に達し、一瞬だけ完全に力が入らなくなった。

 その一瞬の出来事に過ぎなかった現象に、俺は不幸にも刀女に見抜かれて斬り裂かれた。

 俺はそれに驚きを隠せず、勢い良く赤い血が綺麗に噴出した。

 自らの血を見て、俺の体内で何かが弾け飛んだ気がした。



   ◇ ◇ ◇



 ガオウは血塗れのままその場から倒れる事はなく、紅いオーラの様な物が身体を循環していた。

 すると刹那の目の前で突然紅い光線が放たれる。

 刹那は魔力を大幅に消費させて、その紅い光線を全力で避けた。

 あれは危ないだろうと生物的に捉えたのだろう。

 だがその考えも束の間。刹那の背後にガオウが現れた。

 瞬間移動にしては感覚が早過ぎる行動に、刹那は透明な硝子のようなバリアを張り、魔力を込めてバリアの防御力を格段に上昇させた。


「ノーヴァ……」


 上空から数千本の真紅の片手剣が召喚され、ガオウは刹那から距離を取りつつ、その片手剣を一斉に放出させた。

 そのコンマ一秒の間にガオウは明人を回収し、刹那のいる場所から姿を消した。

 だが能力の使い過ぎたお陰で、近くの廃墟までしか瞬間移動する事しか出来なかった。


「明人が無事なら、俺はそれで構わない」


 麻痺の効力が完全に消え去ったものの、今のガオウには刹那を倒す術は無かった。

 さっきまではノーヴァが暴走したお陰で、一時的にガオウは明人の救出に成功した。

 だがそれは予めガオウがノーヴァを制御したお陰であり、明人を逃がす際に自らの意思でノーヴァの暴走状態から正気を取り戻す事に成功し、尚且つここまで何もなく連れて来れたのは、ガオウにとってそれは強運でしか無かった。


 ガオウは明人を背後にして、彼の目覚めを待つ。

 今は残りの気力のみでその場に立ち尽くしているものの、既にガオウには戦う気力は殆ど残されていなかった。

 だからそれでも刹那のサンドバッグにでもなれば良いとガオウは考えたが、それも体力的に難しいようだ。

 クロスレゾナは契約者がいなければ、力の受け渡しが出来ない。

 だからこそ明人が気絶している中、ガオウに残された選択肢は敗北の二文字しか存在しなかった。

 だがそこに一つの奇跡が訪れた。


「ガオウ……」


 その言葉が背後から薄っすらと聞こえた。

 ガオウは嬉しさの余り、今にでも倒れそうな身体をもう少しだけ堪えて見せた。


か、お前……。魔剣野郎は倒した。あとは任せた……」


 そしてその一言だけを残し、ガオウは明人の目の前で倒れる。

 きっと明人が、この戦いを終わらせてくれると信じて。




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