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 Ⅰ 貧乏姫 

Ⅰ 17/19

13話「怪物」


 暗い天気に荒れた大地。

 見渡す限り全ての建物が跡形もなく破壊され、今も尚それが爪痕として、この場所には瓦礫の残骸が取り残されていた。

 その酷く荒らされた光景に僕は、魔獣相当の討伐規模と今回の戦闘規模が比較出来ない程似ており、外部との連絡が切断された時点で高校生の力量を遥かに超過していた。

 一体誰がこんな事を……。


「ステラ。今の状況は分かるか?」

〝あきひと。ふりーがいる〟


 ステラの言葉に僕は軽く驚かされる。

 まさか僕達以外にもあのゲートを通過した者がいたのか?

 だけどそれは有り得ない。それは僕達二人以外の姿を誰も見ていないからだ。

 僕は不審に思い、もう一度ステラに尋ねた。


「……本当か?」

〝じゃないと、がおうはたおせない〟

「だろうな。だったら。僕に力を貸してくれないか?」

〝あいてによる〟


 テラのその発言は遠回しに了承した事を意味する。

 但しそれはテラでも解決できない場合も、僕が考慮しなければならないが……。


「分かったよ。じゃあ始めよう」

〝すてらとは、もうよばないの?〟

「呼んで欲しいか?」

〝ううん。もう大丈夫〟

「言葉。やっと覚えたんだな」

〝がおうのお陰〟


 まだ完全に覚えられていなくても、これで少しはまともにテラと話せそうだな。

 この少女の真名はテラ。正式名称だと、フリーテラ。

 実は秩序と創造を司る神様などではなく、神殺しと創造を司る怪物だ。

 今度実体化してたら、頭でも撫でてやろうかな。


「さてと、テラ。フリーが何処にいるか分かるか?」

〝天井にある黒色の魔剣ヴォルディノーツ。あれを破壊すれば向こうは復活出来ないよ〟


 テラのその言葉に僕は引っ掛かる。


「ちょっと待て……」

〝ん?〟

「テラって飛べたっけ?」

〝飛べないけど……。がおうみたいに投げたり〟

「届く訳無いだろ」

〝がおうは届いたよ〟

「おい……。無茶苦茶にも程が有るだろ」


 ガオウが持つフリーノーヴァは力を無限に増幅する事が可能だが、同時にノーヴァに支配され易く、暴走の確率も高くなる。

 だが使い慣れていれば話は別。

 二代目フリーノーヴァがそうだったように、天井にある的を当てるだけなら意図も簡単に放つ事が出来る。

 だが僕の持つフリーテラは白色の長杖による超越した能力、もしくはテラ自身による優れた解析能力が強みであり、僕自身に戦闘能力があったとしても、どのフリーよりもテラの能力は劣る為、相手の力量次第で押し負けてしまう。

 それは第四レゾナスレイドで痛感したから経験済みだ。


〝出来ないの?〟

「不可能だ。そんな事よりも」


〝〝背後〟〟

《突然。僕は背後から現れた怪物に襲われる》


 咄嗟に背後を振り返ると、刹那がこちらへと向かう姿が僕の目に入る。


〝ふりーてら〟


 刹那に襲われる瞬間。僕を守護するかのように目の前には数字の4の形をした白色の長杖が異空間から出現し、刹那の襲撃を未然に阻止した。

 すると刹那は紫色の刀型ソードデバイス妖刀村正で白色の長杖を音を立てて弾き返すが、まるで魔獣のように刹那は何度も白色の長杖を襲い掛かった。


「オノレオノレ、オノレェ!」


(冷静さを失ってるな……)


 いつもなら相手との駆け引きを楽しむ彼女にしては、我を忘れて力任せに振るう一撃に僕は彼女に情けを感じた。

 それでは相手が防御を固めて一度でも反撃された場合、果たして彼女はどう対処するだろうか……。

 これだけ凄まじい攻撃だと、魔力の消費も激しいに決まっている。

 その為の暴走だとしたら、彼女は最悪生命力にも手を出しているのかも知れない。


(もしその予想が当たっているなら、刹那が危ない……)


「テラ。暴走の原因は何だと思う?」

〝多分……、あの刀〟


 テラは刹那の持つ紫色の刀型ソードデバイス妖刀村正を指した。

 ソードデバイスとは、エメラルダ鉱石を精製させた宝玉をコアに既存の武器を融合させたハイブリッド型魔剣だ。

 何故魔剣なのかは宮守さん曰く稀に人の言語を話すコアが存在し、人の言語を話す魔剣と同等な扱いを受ける為、ハイブリッド型魔剣と名付けられたらしい。

 そしてソードデバイスには本来リミッターと呼ばれる安全装置が付けられている。

 一時的にそのリミッターを解除する事は設計上可能だが、その持続時間が続けば続く程、所有者にも負担が掛かる仕様だ。

 だから椎名さんが刹那を見て暴走だと捉えられても、それは不思議ではなかった。


 止める方法なら二種類ある。

 それは武装解除させるか、ソードデバイス本体を破壊することだ。

 但しその際にコアを破損させれば、一生そのソードデバイスを修復する事は不可能となる。


(考える時間はないか……)


「〝『コードソード・コア』 王斬〟〝キングス・セプター〟」


 異空間から水色水晶の棒が現れて右手に持つ。

 すると僕の声に反応して、水色水晶の棒が黄金色の王笏おうしゃくへと形状変化する。

 これは愛奈の師匠ファラオと呼ばれた爺さんが愛用する王笏だ。

 攻撃にも防御にも使える万能な武器だが、今回は攻撃に使用しようと僕は判断した。

 すると黄金色の王笏は巨大な黄金色の大剣へと変形した。


 その光景を見ても動じず白色の長杖に同じ攻撃を仕掛ける刹那を見届け、僕は両手でその黄金色の大剣を掴み、一度上へ持ち上げて真下へと振り下ろした。

 その瞬間。大地は真っ二つに引き裂き、虹色の光線が真っ直ぐ刹那の方向へと放たれた。

 刹那は透明なバリアを張り巡らし、魔力でそのバリアを一段階上へと強化させて防御に徹した。

 だが数秒で虹色の光線がそのバリアを貫通して、刹那の身体に命中した。

 刹那は悲鳴を上げながら、その場に妖刀村正を落とした。


 すると刹那は僕に怒り狂った表情を見せ、態と全身の魔力を溢れさせ、活性化させた。

 その刹那の行動に、僕は身体が先に動いてしまう。

 それは危ないのだと直感したからだ。

 僕は黄金色の大剣をその場に捨てて刹那に急接近した。


「〝『コードソード』 王斬〟」


 異空間から黄金色の長剣を取り出して僕は両手で構える。


「〝『シュレディンガー』 白き猫〟〝『ラストオーダー』 黒き猫〟」


 異空間から左に白猫、右に黒猫がそれぞれ現れると、二匹の猫達は霊体化して黄金色の長剣の中へと入っていく。

 すると黄金色の刃が白と黒の二色の刃へと変化し、持ち手も黄金色から白色へと様変わりを果たす。


「〝白と黒の狭間の剣〟」


 僕はその白黒の長剣で刹那の身体を激しく横に斬り裂いた。

 すると刹那の体内から溢れ出た魔力は行く宛も無く大気中に分散し、刹那は意識を失ってその場から前へと自然に倒れ、身体から赤い血液が流れた。


「テラ。応急処置を頼む」

〝分かった〟


 僕は刹那の応急処置をテラに任せて、血で穢れた白黒の長剣をこの場から消滅させた。

 さっき刹那がやったのは極めて簡単な魔力爆発だ。

 だがこんな狭い空間で魔力爆発を実行すれば、僕も含めてホワイトクラン内にいる人達は全員死亡していた。

 だから僕は最終手段として、白と黒の狭間の剣を使用した。


『ほう。良く止めたな』


 それは上空から突然、低い男性の声が聞こえた。

 まるで今まで僕の戦闘を傍観していたかのように上から目線で聞こえた声に、僕は苛立ちを通り越して耳を傾けた。


「最初から話せるなら、何故話さなかった?」

『その方が面白いからだ。フリーテラ』


 その名を知っているという事は、敵はレゾナスレイドの経験者か。

 だがどうしてだ? あのゲートは今はもう閉じている筈だ。

 まさか協力者がいたりして……。


「何故お前がその名を知っている」

『またその回答か……。ノーヴァも同じ話をしていたな。お前達はフリーだろう。フリーがどの世界に居ようが関係無い筈だが……』


(確かに……)


 敵が話す通り、フリーは次元を超えて出現するケースがある。

 だがそれはあくまで、あのクロスレゾナの世界ではの話。

 果たしてこの世界に転移してまで現れるなど、協力者が居ない限り有り得ない筈だ。


「それにしても、この世界に転移するのは難しいんじゃ無いのか?」

『ほう。面白い男だ。そこに気付くとは大したものだ。さぞかしあの御方もお前を気に入る訳だ』


 すると上空から一本の魔剣が降って来る。

 土煙を上げながらその場所の視界が眩む中。得体の知れない何者かがその魔剣を掴み取り、その場を、空間そのものを横へと斬り裂いて姿を現した。

 全身に黒色の甲冑を装備した騎士の男性。

 身体から溢れんばかりの黒い闇の魔力を全身に纏い、左手に黒色の魔剣ヴォルディノーツ、右手には漆黒の魔剣を持っており、まるで男性が主人かのように漆黒の魔剣は黒い闇の魔力に過剰反応していた。


「遊ぼうぜ。テラ!」


 黒騎士は大地を蹴り上げて、瞬時に僕の目の前へと姿を現す。

 すると黒騎士は双剣のように魔剣同士を合わせ、僕に攻撃を仕掛けて来た。


「〝『コードソード』〟」


(間に合わない……!)


「〝フリーテラ〟」


 その攻撃に黄金色の長剣は間に合わず、僕は一度詠唱をキャンセルする。

 そして僕は異空間から白色の長杖を出現させて、そのまま盾として使用してその攻撃を防いだ。

 黒騎士は舌打ちし、白色の長杖を弾き返して一度後退した。


〝〝背後〟〟

《黒い影が背後から貫かれ、その場で僕は死に至る》


「〝フリーテラ〟」


 その未来視に気付き、僕は白色の長杖を大地へと差した。

 地面から眩い白き閃光と共に1メートル程の術式が構築され、その周囲を無効化状態にした。

 すると背後から出現した触手のような黒い影が僕の胴体を狙って鋭く貫いたが、フリーテラの無効化状態により、黒い影は枯れ木のように朽ちて消滅した。


「この能力、何処かで……」


 黒い影を自由自在に操り、悍ましい程の黒い闇の魔力を持つフリーを僕は何処かで見た覚えがある。

 一体何処で……。思い出せ。思い出せ。思い出せ。

 ふと第四レゾナスレイドの映像が僕の脳裏に過る。

 黒い影を自由自在に操作する奴は確かに一人いた。

 だがその者が剣を、ましてや二刀流が扱えるなんて聞いた覚えが無い。

 否。来世で剣術を習得したのか。

 だとしたら、奴の名は……。


「フリーダークネス……?」

「ご明察! 会いたかったぜ。テラ! 〝バルムンク!〟」

「〝『コードソード』 王斬〟」


 黒騎士ことダークネスは漆黒の魔剣バルムンクの名を叫ぶと、漆黒の魔剣は黒い闇の魔力を吸収し、銀色の刃から黒い光を帯びた。

 僕は白色の長杖を背中に装備し、異空間から黄金色の長剣を取り出した。

 その直後。ダークネスは僕に突進し、漆黒の魔剣で攻撃を仕掛けた。

 僕は黄金色の長剣を盾に漆黒の魔剣を受け止めたが、ダークネスはもう一本の黒色の魔剣で交互に攻撃を繰り返し、僕に反撃のチャンスを与えなかった。


「テラの能力は物理攻撃以外を無効化にするその長杖や、解析に使える小娘のみ。俺のダークネスとの相性は格段に悪い。だったら俺が剣術を身に付けたならどうなる?」

「それでもお前に劣らない自信は有るぞ!」

「どうだかな!」


〝〝重攻撃〟〟

《二本の魔剣の内。一本の魔剣に薙ぎ払らわれて、僕は負傷する》


 ダークネスは黒色の魔剣を縦に振る動作で態と僕の注意を促し、その隙に漆黒の魔剣で大きく横に薙ぎ払らう。

 僕は事前に後退し、その攻撃に対して回避した。

 するとダークネスは獲物を狩る狼のように一歩前進した。


「逃がすかよ!」


 ダークネスは漆黒の魔剣を斜めへと振り下ろし、僕は黄金色の長剣を盾にその攻撃を受け止めた。

 すると黄金色の長剣の耐久値が激減してる事に僕は気付いて冷や汗をかく。

 その表情にダークネスは気付いて笑みを浮かべた。

 ダークネスは二本の魔剣で交互に攻撃を仕掛け、一撃二撃と黄金色の長剣の耐久値を徐々に減らしながら次々と攻撃を重ねていく。


〝〝重攻撃〟〟

《相手の魔剣に薙ぎ払らわれ、次の行動を封じられた》


 ダークネスは十連撃目に黒色の魔剣で大きく横に薙ぎ払い、前へと踏み込む。

 ここで僕がダークネスと真っ向勝負すれば未来視のような結果となり、僕の黄金色の長剣は破壊されて刃は貫通するだろう。

 だがそれは未来視を使用した確実に起こりうる現実であり、後になって後悔するなど許される筈がない。

 ならば確実な勝利の為に次の未来へ繋ぐには、僕自身の力でその先の未来を見通さなければならない。

 だったら……。


「〝ゼクシード〟」


 僕は自分の意志でゼクシードを使用した。

 するとその時点で時間の流れは遅くなり、僕の思考回路は加速する。

 否。それは僕の持つ固有能力『未来視』にも当てはまり、思考回路とは比較出来ない程の超加速を遂げ、遥か先の未来まで視る事が可能となる。

 だが加速させた僕の思考回路では未来視が感じ取る確実な未来を正確に捉える事は出来ず、僕に合わせて簡略化されていく。


『〝回避不可〟』『〝後退不可〟』『〝反撃不可〟』『〝□□不可〟』『〝□□□□〟』


 それは未来視で感じ取った未来についての補足説明でしかなく、以前と全く変わらない未来しか語られていなかった。

 僕が視たい未来は無数に存在すると思っていたが実際は何一つとして存在せず、初めてゼクシードと未来視に絶望する。


 すると時間の流れは次第に元の時間軸へと戻され始めていく。

 そう。それは、ゼクシードの発動時間が終了していく瞬間……


『〝□□□□□□に愛された者よ〟』


(今。なんて……)


 それは初めて未来視が僕に話し掛けた瞬間だった。

 その声の主は人工音声で作成された女性の声に似ており、彼女の何とも言えない程の棒読みを聞いて、僕はつい笑ってしまった。


『〝その攻撃は確実に訪れる〟』『〝彼女を悲しませるな〟』『〝武器を捨てろ〟』『〝相手に一瞬の隙が生じる〟』『〝貴方にとってはアドバンテージ〟』『〝上手く活用し、次の未来へと繋げよ〟』

『〝幼き魂よ。イライザの名において、貴方に勝利と栄光を〟』


 初めて聞くイライザという名を差し置いて、僕はダークネスが持つ二本の魔剣による重い一撃に、黄金色の長剣は粉々に破壊された。

 するとダークネスは勝利を確信して勝ち誇り、何故か僕に一瞬の隙を見せた。

 僕はそれを見逃さずにそのままダークネスの懐へと入り込み、背中に装備していた白色の長杖を掴み取り……、


〝〝分身体〟〟

《攻撃しても当たらない》


 その未来視の反応に、僕は攻撃を中断した。

 僕の行動に最初に驚いた人物は、紛れもないダークネス本人だった。


「何故攻撃しない……? 本当にフリーテラか?」


 ダークネスは奇妙な台詞を吐き捨て、僕に二本の魔剣を向けて容赦なく斬り裂いた。


〝〝分身体〟〟

《攻撃されても当たらない》


 ダークネスに斬られた筈だというのに、僕は全く痛みを感じなかった。

 未来視の通りならと僕は冷静に考え、白色の長杖を大地に差して周囲を無効化状態にする。

 すると目の前にいたダークネスは幻影となって存在ごと消滅し、二本の魔剣が鈍い音と共に地面に落下した。

 その内の一本の魔剣。漆黒の魔剣バルムンクは黒い闇の魔力が外に流れて風化し、跡形もなく消滅した。


〝〝危険〟〟

《相手の攻撃範囲内に気付かず、僕は死亡する》


 その未来視に僕は何も意味を成していない事に気付かされる。

 相手が何処に居るのか分からない状況中、無闇に行動しても同じ結果が生まれるからだ。

 どうせ今までが相手にとって時間稼ぎだと気付くべきだった。

 そう。僕は未来視に頼り過ぎていた。

 すると諦め掛けた僕に対して、突然テラが叫んだ。


〝そのまま無効化にして!〟

「分かった……!」


 テラの叫び声に僕は白色の長杖を大地に差した状態で、その場に待機した。

 するとここから中距離の何もない空間から、突然ダークネスが姿を現した。

 ダークネスは僕に全く気付いていない様子で、その場所から離れる事も無さそうだ。

 こう言う時にガオウが居たら、先制攻撃が可能なのに……。


(仕方ない。近付いて奇襲でも仕掛けるか……)


〝〝無力〟〟

《相手は身動きが取れない》


(はい? どゆこと?)


 僕の思考は停止する。

 僕の未来視にも疲労が生じたのか、今まで前例のない未来視の内容に僕は騙されてると感じた。


「テラ。何か分かるか?」

〝自業自得。大技を使用したから〟

「まさか反動で動けないのか!」


 それなら哀れだな。

 隠れてるならまだしも反動で行動不可状態に陥るなんて、ソロにはかなりの痛手だ。


〝違うよ。フリーテラは発動そのものを無効化なんて出来ないから〟

「待て。どう言う事か説明してくれ」


 まず前提としてテラの無効化とダークネスの影は相性が悪い為、テラが圧勝する。

 それは理解しているが、何故ダークネスが行動不可となった経緯が僕には理解出来なかった。


〝あの身体、実際は影で出来ているの。影の生成で大掛かりな罠を仕掛け、明人を殺そうとした。でも明人にはフリーテラがある。罠に気付かれて効果を無効化されると厄介だから、影の生成で分身を用意して明人と戦わせた。でも発動直後に罠の効果が無効化されて、ダークネスは何も出来なくなってしまった〟


 道理であの時、ダークネスが白色の長杖に触れなかった訳だ。

 あの時点で既にダークネスは偽物であり、僕に悟られない為に態と影の力を使用した。

 魔剣の攻撃力が無かったのは、その罠に魔力を全て注ぎ込む為に予めいくつか所持していたアイテムでも使用しており、あの時点で全ての効力が切れたのだろう。


「じゃあ本体は何処に?」

〝詳しくは知らない。今頃遠隔操作してた事すらも忘れて、この戦闘を楽しんでたんだと思う。もし本体がいたなら、まだ戦況は続いてたよ。だから私は無効化にしてって明人に頼んだ。それが操り人形だったから〟

「ありがとう。助かったよ」

〝どう致しまして〟

「じゃあ終わらせようか」

〝そうだね〟


 僕はテラにそう告げて、浮き彫りになったダークネスへと近付く。

 白と黒の狭間の剣を使用し、僕は無抵抗のダークネスを葬り去る。

 こうして僕はこの模擬戦に幕を閉じた。



   ◇ ◇ ◇



 僕はホワイトクラン内の真っ白の部屋へと転移された。

 すると回復科ティオルの生徒達が会場内に現れ、刹那達を救護しに駆け付けた。

 そして楠見が全体の拡声器を使用して静かに言い捨てた。


『勝者! 九重ペア!』


 すると僕の隣では、血塗れで横たわるガオウが目を覚まし、自力で起き上がる。


「戦いは終わったか?」

「ああ。決着は済んだよ」

「だったら、ここからは俺の戦いだな」


 その言葉を聞いて、僕はガオウの瞳が橙色から紅く染まっていくのが見えた。

 そしてガオウは声を荒らげながら叫ぶ。


「〝フリーノーヴァ!〟〝真紅の剣スカーレットソード!〟」


 ガオウは一本の全長1メートルの巨大な真紅の片手剣を、対戦相手二階のサポーター室に狙いを定めて勢い良く放つ。

 すると当然の如く椎名さんの防御魔術が働いて透明なバリアが広範囲に展開し、ガオウが放った真紅の片手剣は止められた。

 だがそこにフリーノーヴァの力が加わり、真紅の片手剣の攻撃力は無限に増幅していく。

 すると防御魔術が本来の許容範囲を超え、バキッと鏡が割れるような音を立てて、真紅の片手剣の刃先が対戦相手のサポーター室の真上を目掛けて貫通した。


 ガオウは傷だらけの身体を気にせずに巨大な真紅の片手剣へ跳び乗り、サポーター室へと走り去っていく。

 ガオウのその行動に僕は非常扉を急いで開き、相手のサポーター室に続く通路へと駆け抜けた。




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