「ここ、って……」
石造りの道。
両方にそびえ立つ、門を守護する巨人兵の像。
そして門には燃え盛る炎をイメージした、火のエンブレムが刻まれていた。
すると後ろから誰かが応えた。
「魔法都市アルカナ、火の神殿ですよ」
思わず振り向くと、アキラがそこにいた。
アキラは如何にも魔法使いを主張するかのような服装に俺は気付くと、咄嗟に自身の装備を触り始めた。
その装備がどのゲームで身に着けていた装備だと気付いても、原理が分からず、不思議そうにする俺にアキラは仕方なく話し掛けた。
「ファントムフリーはフリーを拡張した世界です。そこまで不思議に思う事ではないですよ。この世界は、まだまだ開発途中。私達だってαテスターなので……」
「へぇ、そう言う事か。道理で見た事があると思ったら…………って、α!?」
αテストとは、新たに開発されたハードウェアやソフトウェア、オンラインゲームなどが開発初期段階、試作版の段階の時に実施されるテストのこと。
αテストの後は、良く耳にするβテスト、その後が正式サービスだ。
「何か問題でも?」
「だってフリーは7つの都市の内、まだ半分の4つだけだぞ」
「夏のイベントが終われば、次の都市は解禁されるですよ」
「嘘だろ」
「いえ、本当です。来年までには7つ全部…………。それとホムラさん。間違えているですよ。正確には消滅都市があるので、合わせると現在8つ中5つの都市があるです」
━ ━ ━ ━
消滅都市アナザー。
都市の大半が消滅されて進む場所はほとんどないが、隠された財宝が忘れられ、そして現在も眠っている。
━ ━ ━ ━
消滅都市アナザーは出現条件が難しく、滅多に出現しない為、あえて俺は数には入れずに伏せていた。
「えっと、次は武器ですね。ホムラさんはその感じからして剣士ですか?」
アキラは俺の通常装備を見て、なんとなく尋ねた。
「ああ、そうだよ。俺はフリーでは主に太刀を使ってたな」
「では、これをあげるです」
アキラはメニューを開いて操作し、実体化させた武器を俺に渡した。
「良いのかよ、これ……」
それはレアリティURの太刀で、既に所有者も俺に書き換えられていた。
「私には必要ないです。この世界ではレアリティのある武器やアイテムより、クラスアイテムの方が欲しい人多いので……」
「クラスアイテム??」
「これですよ」
アキラは肩に掛けていたポシェットのようなマジックバックから、あるアイテムを取り出した。
それは何処かで見覚えのある黄金の聖剣だった。
W エクスカリバー
「クラスアイテムは、レジェンドクラスとワールドクラスの2種類あるです。これは表記だとこんな感じですが読み方は、WCIエクスカリバー。その名の通り、かの有名な方の聖剣です。ただ鞘はないので自己回復能力はないです」
「へぇー。そのクラスアイテムって、レアリティのある物とどう違うんだ?」
「根本的に違うですよ。まずクラスアイテムは基本、頑丈なので中々壊れないです。それとレアリティのあるアイテムと比べれば、どれを取ってもクラスアイテムの方がほとんど上位です」
するとアキラはポシェットからURのエクスカリバーを出し、俺にそれを渡した。
さっそく見比べてみると、一目瞭然だった。
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UR エクスカリバー
攻撃力 2722 防御力 638
能力
HP・魔力回復(中)
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W エクスカリバー
攻撃力 2468 防御力 0
能力
HP・魔力回復(中) 邪神耐性
━ ━ ━ ━
クラスアイテムの方が攻撃力は微妙に低い数値だが、能力が1つ多い。
防御力がないのは鞘が不足している為らしい。
たとえURであっても、クラスアイテムの劣化という訳でもなさそうだ。
「それにクラスアイテムには、オリジナルのリベレイトが存在するらしいので、クラスアイテムを欲する者の気持ちは理解できるです」
「オリジナルの何だ?」
「それはボス戦の時にでも教えるです。着いて来るですよ」
俺は聖剣をアキラに返すと、手招きするようにアキラは前方に見える火の神殿へ歩いて行く。
「おい。待てって」
アキラを追うように俺は火の神殿へ向かおうと思ったが、門の近くまで来るとリアルに見えるその風景に俺は足を止めてしまった。
すると後ろから俺の背中を押すように、少女の声が聞こえた。
『怖がらないで』
その声が何処か家族のような、仲間のような感じがして、現実でもない仮想世界に怖気づく自分に俺は思わず軽く笑ってしまった。
「もう大丈夫。ありがとう」
この声の主は妖精だと思い、俺は小声でそう告げた。
そして勇気を振り絞って、火の神殿へ向かった。
◇ ◇ ◇
「少し来るのが遅かったですよ」
「悪かった。ごめ」
「頭は下げなくても良いです。最初はこの火の神殿を恐れても、当然なので……」
アキラにそう言われて少し安心したが、これが二回目だという事実は変わらない。
(俺、どれだけビビリなんだ。アキラには内緒にしておくか……)
俺は全体を見渡すと、辺りは灼熱地獄の世界が広がっていた。
周囲にある火山は噴火し、ドロドロと溶岩が下へ下へと大地にまで流れ込み、プレイヤーの行く手を阻んでいた。
ファントムフリーは、フリーを拡張した世界。
アキラの言ったその言葉は、この火の神殿で大体理解できた。
「そう言えば忘れてたですよ。〝コールド・ヒーリング〟」
アキラは杖を構えて冷却魔法を唱えると、俺とアキラに冷却のアイコンが表示された。
「これで暑さに負けないです。それとこれもしないと」
アキラはメニューを開いて何か操作し始めた。
「そう言えばメニューって、どうやったら出るんだ?」
「メニューと念じながら、人差し指で横にして縦の十字を作れば出るですよ」
試しに俺もメニューを開いてみた。
すると装備やアイテム、メールなど色々な項目が表示された。
最初は興奮したものの、すぐに俺はある事に気付いた。
メニューを閉じるはあったが、ログアウトがどこにもなかった事に……。
「アキラ。ログアウトはどこだよ?」
「ログアウトはまだ出来ないですよ」
「は? 何で?」
「ホムラさんは火の神殿クリア後にログアウトが出来るようになるですが、アルカディアに着くまでログアウトはさせないです。死んでも復活場所がここなので注意するですよ」
さらりとアキラは恐い事を俺に話すと、冷や汗と共にプレッシャーが走る。
(それ。最初に説明しろよ)
「って、俺。現実世界で人待たせて……」
「この火の神殿をクリアするまでは現実世界の時間は停止するですが、あとは仕方がないです。ごめんなさいです」
アキラは頭を下げようとしたが、俺はそれを止めた。
あの先生なら待ってくれるだろうと思ったからだ。
「別に良いって。大した用事じゃないし……」
「そうですか。ではパーティー申請したので、了承お願いするですよ」
パーティー申請のアイコンが表示されると、俺は了承した。
「最短ルートで行くですよ。ホムラさんのそのレベルなら楽勝なので……」
「ああ」
(悪い予感しか、しないんだが……)
「では行くですよ。〝ストック魔法 ゲート・オープン〟」
巨大な魔法陣が俺とアキラの足元に現れる。
アキラはその魔法陣を杖で突いた瞬間。
魔法陣は煌めき、俺達は魔法陣と共に何処かに消え去った。