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 Ⅰ Fragment / 救世の絆 

Ⅰ 04/17

4話「火を司る巨神」


 アキラを先頭に、俺も暗闇の中へと静かに入って行く。

 何処かに灯りがあるのか薄暗く感じるそこは全体的に広く、そして戦闘に適した場所だった。


(あの頃と一緒だな……)


 後ろの両扉がゆっくりと閉まっていく音と共に、段々部屋が明るくなっていく。

 俺は部屋全体を見渡していると、突然アキラが何かに気付いて叫んだ。


「下がるです!!」

「え?」


 呆気にとられた俺はアキラを見ると、目の前には溶岩で作られた巨大な拳がこちらに向かって来ているのが分かる。

 ほんの一瞬。俺は反応に遅れ、防御や回避が共に不可と表示された。

 アキラがそれに気付き、透かさずマジックシールドを前方に展開してその攻撃を防ぐ。


 だが次の瞬間。

 向こうの威力が強過ぎたのか、俺は身動きが取れないまま後ろに吹き飛ばされた。

 何処かの壁にぶつかってかすり傷を負ったが、俺はその場から自力で起き上がって鞘から太刀を抜いた。

 すると目の前には何とも特徴的な巨神が姿を現していた。


「何だよ。あいつは……」


 無骨な機械の鎧を身に纏い、ゴツゴツとした溶岩で作られた巨大な両腕。

 下半身は透明な球体で出来ており、球体の中では力強い炎が燃え上がり、気球のように少し浮遊していた。

 その巨神は俺達を上から見下ろして当然のように吠えた。


『オオオォォォォォォ』


 規格外の声に思わず俺は耳を塞ぐ。

 やがて巨神はその場にいる俺達を認識すると、長いHPバー3本と名称が同時に表示された。


 火を司る巨神 プロメテウス


「アレが火の神殿のボスです。私が足止めするので、ホムラさんは逃げるですよ」

「逃げるって……。あの巨神の攻撃からか。おいっ!」


 俺にそれだけを伝えたアキラは高く跳躍し、プロメテウスの背後へと周り込むように姿を消した。

 すると突然。

 ズウンッと重い音が聞こえたので俺は音の方へと振り向けば、プロメテウスの上空から黒く歪んだ空間が現れているのが見えた。


(重力魔法か)


 その重力がプロメテウスに触れるとまるで罠にかかったようにプロメテウスは大地に手を付き、跪くように倒れ込む。

 その時。重力魔法の威力が強力過ぎたのか激しい衝撃波が生まれ、それが原因で大地震が発生する。

 徐々に地割れも発生し、以前の地形からかけ離れる程変化し始めているのが分かる。


「おいおい。逃げてる場合じゃないだろ。〝魔王宝具 雷虎ライコ流星リュウセイ〟」


 雷虎流星とは、主に足に使用し、素早さと回避性能を底上げする能力。

 壁を跳躍して移動したり、足場を無視して無理矢理駆け抜けたり、忍者に似た移動手段として、出来る範囲、多種多様に使える技。


 地形変化で出来た崖のような道を跳躍して天井とは程遠いが、俺は頂上と呼べるべき場所まで辿り着いた。

 下を覗けばプロメテウスは重力魔法の影響で、今もその場から動けずに跪いていた。


(今迂闊に攻撃してもあの鎧で防がれるだろうし、重力魔法が解ける可能性もあるからな。どうしたら…………)


 俺はプロメテウスの攻略法が分からず、ただただ模索していた。


(確かフリーのプロメテウスは、胸の中央にある水色に光る宝石を壊せば弱体化し、止めを指すといったシンプルな倒し方だったような……)


 このプロメテウスもフリーと同じような宝石が胸に存在したが、姿まで酷似している訳ではない。

 だがもしフリーのような弱体化ではなく、鎧を外せるといった方法だとしたら、戦況は大きく変わるだろう。


(まぁ試す価値はあるな……)


 周りにある小石を拾い、俺はプロメテウスの背中から胸にあった宝石の位置を予想する。

 魔王宝具、桜花一閃には貫通能力を付加させる効果がある。

 小石を太刀に例え、貫通能力を付加させてみる。


「〝魔王宝具 桜花一閃〟」


 成功。小石はダーツような形状に変化した。

 俺は狙いを定め、ダーツを放つ。

 数秒後。プロメテウスの背中の予想していた場所にパスッとダーツが刺さる。

 するとダーツは溶けるようにプロメテウスの体内に侵入したが、微妙にHPが削れただけで特に何も起こらなかった。


「失敗か……。気を取り直して、次だな」


 また小石を拾って、2本目のダーツを作り始める。

 物体があるから想像し易いのか、2本目の付与も簡単に成功した。

 次こそは外さないように、狙いを定めようとしたその時。

 パリンッ。

 微かだが遠くからはっきりと宝石が砕け散る音が聞こえた。

 するとプロメテウスが身に着けていた無骨な鎧が全て外れ、ポリゴン粒子となって消滅した。

 さっきの攻撃では微動だにしなかったプロメテウスのHPバーが、今の攻撃で丸々1本分消し飛ぶ。


 上からプロメテウスの周囲を見ていると、今まで姿を見せなかったアキラが、プロメテウスより少し離れた場所で何かを伝えようと口を動かしている。

 だがあまりにも距離が遠過ぎて、俺には全く聞こえない。

 もしアキラがまた逃げろと伝えようとしても、俺からして見れば信憑性が見当たらない。

 それは俺がいるこの場所は、プロメテウスよりもかなり距離が離れているし、まず狙われる心配はないに等しい。

 それにどんな攻撃をされたとしても、回避は出来るし対策もある。

 プロメテウスは下半身の球体から巨大な眼がギロリと開く。

 するとその眼は俺の方向を睨みつけると、何の動作も見せずに容赦なく放った。


『〝白キ閃光〟』


 まず俺は対策として防御力を上げる焔神楽を使う。


「〝魔王宝具 焔〟」


 ズキンッ。

 頭に電流が走り、俺は倒れるように地面に手が付く。


(MP切れ……?)


 魔王剣技と魔王宝具には回数制限はあるが、MP消費など根本的に存在しない筈だ。


(なのに何で?? どういう事だ)


「〝魔王宝具 焔〟」


 そう発した瞬間。突然、俺はダメージを受ける。

 これは制限によるダメージ。

 だとしても、焔神楽が使えない理由はどこにも見当たらなかった。


「まさかあの白キ閃光。相手の魔法を封じる力でもあるんじゃ……」


(だから、逃げろか……)


 白キ閃光が近付くにつれて、俺は何も出来ない自分に対して段々諦めかけた。


 これはゲームだ。

 デスゲームじゃないんだから、もう一度どこかで復活すれば良い。

 アキラには悪いけど……。

 それもゲームの醍醐味だろう。


 俺は目を閉じた。




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