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………
…………………。
『諦めるのはまだ早いですよ。ホムラさん』
「アキラ……」
咄嗟に目を開けると目の前には、魔女の姿へ様変わりしたアキラがマジックシールドで白キ閃光に耐えていた。
「ホムラさんは半分正解してるです。この白キ閃光はプレイヤーの魔法や技を一時的に遮断し、超強力な閃光を放つ技。但し完全に魔法や技を無効化した訳ではないので、1回分なくなったと言う事です」
そう説明したアキラに対してある疑問点に気付く。
「じゃあ何でアキラは魔法が使えるんだ?」
「その質問をする前に。〝シャイン・チェーン〟」
白キ閃光の威力が段々弱まり、やがて消滅する。
そこでアキラは光の鎖を解き放ち、プロメテウスを縛り付ける。
するとアキラの魔女衣装が砕けるように解除され、元の魔法使いの姿へと戻った。
「そう言えば白キ閃光を止める為になっただけでしたね」
「何を言って……」
「〝ファントムリベレイト マジシャン〟」
アキラがそう言うと、さっきの魔女衣装へと姿が変わる。
「これはファントムリベレイト。ファントムフリーから生み出された技の1つでして、リベレイト中は様々な能力が付与されるです」
━ ━ ━ ━
マジシャン 固有
初心者の魔法使いが最初に使用する、あらゆる魔法に特化した能力が付与される。
主に初級魔法攻撃、魔法防御、座標位置固定、転移(1回まで)など。
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「それとさっきの質問の回答ですが、リベレイト中はプレイヤー以外の能力、又は効果を完全に無効化出来るです。なので今の私は自由に魔法が使えるです」
平然と振り返るアキラを見て俺は苦笑した。
「チートかよ……」
「前言撤回するですよ。この技はファントムフリーでは良く使われるです。…………これでも強化外装のような代物なので」
冷静に淡々と応えるアキラのその言葉に、俺は一度納得せざるを得なかった。
それはまだ俺がファントムリベレイトという技を所持していなかったからだ。
もしその技がこの世界について重要だとすれば、必然的に怒られても仕方がなかった。
(まぁそれは俺がまだ初心者だったから免れた、って事か……。チートは言い過ぎたな……)
「アキラ。俺が悪かったよ。ごめん」
俺は頭を下げた。
アキラに対して、否、この世界に対して侮辱してしまったから。
「頭を上げるですよ。まだ戦いは終わってないですから」
「ああ」
向き直るとアキラは何も言わず、杖で俺の頭を思いっきり叩いた。
「痛、ってぇぇ!!」
(許したと思ったら、不意打ちかよ)
「ホムラさんには罰として、ラストアタックを決めて来るです」
アキラは下にいるプロメテウスに向けて、真っ直ぐ指を差す。
プロメテウスの様子を見ると、アキラの放った光の鎖で身動きが取れていないようだった。
「ラストアタックって何だ?」
「決め技のような物です。では」
「おいっ!」
アキラは俺の肩に手を置く。
すると一瞬にしてアキラが消え去ったと思うと、どうやら違ったらしい。
それは俺一人がプロメテウスのいる場所まで転移されていたからだ。
◇ ◇ ◇
「マジかよ……」
額に手を当てると、俺はすぐに嘆く。
散々逃げ回るのに必死だったプロメテウスが、今こうして目の前にいるって事に……。
(縛られているだけ、まだマシか……)
『忘れてたですよ』
アキラの声と共に、プロメテウスは縛られていた光の鎖を引き千切った。
「鬼か!! 絶対に今、解除しただろ!!」
『…………』
(返事がないって事は、図星か……)
『その攻撃は避けるですよ』
不意にアキラは言ったが俺も気配には気付いてたので、背後から飛んでくる野球ボール程の大きさの火の玉を避ける。
(背後を向かせようとする陽動か……)
すぐに太刀は抜かず、正面のプロメテウスを見れば、襲って来ているのが分かる。
(当たりだな……)
プロメテウスは溶岩で作られた巨大な左拳で殴ろうとしたが、俺は後ろに跳躍して攻撃を避けた。
次は巨大な右拳が急接近している事に気付く。
殴ろうとしてきたので太刀を抜いて攻撃を受け流しつつ、刃先を向けて反撃する。
「〝魔王剣技 桜花一閃〟」
刃先が一瞬輝きに満ちて、光が閃く。
そして俺は見様見真似に十字に斬る。
すると巨大な右拳は呆気なく破壊され、大地に無惨な状態で転がった。
『やるですね』
「まだだ。桜舞い散る、春の丘。風の音色に耳を傾け、我は問う」
次いつ来るか分からない白キ閃光に対して、俺は詠唱を始める。
プロメテウスはそんな俺の行動を見て、残った巨大な左拳を目にも止まらぬ速さで襲って来る。
詠唱中の自動防御が発動して太刀で防ぐ事は出来たが、予想外の威力に太刀の耐久値が半分以上削られた。
(くそっ!! もう防げない!!)
それでも俺は詠唱を止めなかった。
「この世全てが永遠ならば、我は全ての平和を望み。この世全てが戦場ならば」
するとプロメテウスは、下半身の球体から巨大な眼がギロリと開く。
その巨大な眼は俺を見て、不敵に微笑むと同時にあの技を放つ。
『〝白キ閃『させないですよ』』
ガスッと巨大な眼に、鎖付き光の刃が刺さる。
プロメテウスは驚愕し、巨大な眼を閉じようとするが、光の刃が邪魔で閉じられない。
(今の内に……)
「この世全てが戦場ならば、我は全てを無へと返す。桜の魔王、ここに有り。〝術式解放 桜花〟」
詠唱を完了して魔法を発動すると、足元から周囲へと電流が一瞬迸る。
プロメテウスは巨大な眼に気を取られ、その電流に気付かないまま通り過ぎると、全身に麻痺状態が付与された。
俺は透かさずプロメテウスの懐に入ると、頭から流れるように女性の声が送られて来る。
《ラストアタックをしますか?》
頷くと、ラストアタックの説明が表示された。
━ ━ ━ ━
ラストアタック
ボスや特別ステージのみ発生し、成功すれば大ダメージを与えられる。
ただしチャンスは一度のみ。
ボスの場合は条件として瀕死状態まで追い込めば発生し、特別ステージでは条件はなく、プレイヤーが自由に使える。
━ ━ ━ ━
プロメテウスのHPバーはあと1本と半分があり、瀕死状態と言う訳でもなかった。
(って事は……、出来な)
《貴方のその技なら可能です。貴方自身がそう望めば、必ずやラストアタックが発動されます》
「ああ、わかった……。〝ラストアタック〟」
俺はもう終わったから、赤く染まった太刀を鞘に収めてこの場を離脱した。
するとプロメテウスは俺の気配に気付き、自身が麻痺状態であっても暴れ出そうとしてきた。
(だが、もう遅い)
俺は小声で言ってやった。
「〝魔王乱舞 鬼牙一閃〟」
何もない空間から突如出現した、いくつもの赤い斬撃がプロメテウスの周囲を囲うように巨大な眼に襲いかかる。
プロメテウスは当然防ぐ事が出来ずにそのまま受け続けると、その傷跡からある術式が刻まれた。
あれはさっき術式解放をした桜花の術式だ。
その桜花の術式の中から赤い玉が現れると、蝋燭の火をふっと消すように消え失せた。
すると同時にプロメテウスは何も理解出来ずにポリゴン体となり、バラバラに崩壊しながら四散した。
「お見事です。ホムラさん」
声の聞こえた方向を見ると、魔女姿のアキラがそこにいた。
「来てたのか」
「はい。もう終わる頃かと思ったので」
(終わる? 何でそんな事が分かるんだ?)
魔王剣技を使った時点で俺が魔王の後継者だと思うだろうが、それにしては早過ぎるのが普通の答えだ。
それなのにアキラは、あたかも知っていたような言い方をしている気がした。
「どうして分かるんだ?」
「魔王乱舞 鬼牙一閃……」
それを聞いた瞬間。
俺は得体の知れない恐怖を感じ、鞘から太刀を抜き、刃先をアキラへと向けた。