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 Ⅰ Fragment / 救世の絆 

Ⅰ 06/17

6話「あの頃の記憶」


「待つです。私はホムラさんの敵ではないです」


(敵? そんなの……)

「信用出来ると思うか?」


 出会って数時間しか経ってない相手に、信用なんて出来る筈がない。

 それに魔王乱舞を知っているなら、俺は正体をまた隠さなくてはならない。


「杖を捨てて武装解除すれば、俺は聞かなかった事にする」


 そしてあとはアバターを変えれば良いだけだ。


「嫌ですよ。やっと会えたのですから……」


 アキラは静かにそう言った。


(会えた? 何を言って……)


「…………3ヶ月前。私はホムラさんに会っているです」


(3ヶ月前って……。あの頃の)


 あの頃を思い出そうと、一度その記憶に触れてみる。


 思い出せない……。

 否、思い出せない訳じゃない。

 何か強い力によって、一方的に阻害されただけだ。

 何度やっても結果は同じ。

 俺はあの頃の記憶をうまく思い出せなかった。


「何、だよ……。これは……?」


 新手の嫌がらせかと思う程、あの頃の記憶が次第に断片的となり、消えていくのが実感できる。

 やがてそれが苦痛へと変わり果てていくのは、時間の問題だと、俺にも分かった。


「〝ファントムコマンド オール・リカバリー〟」


 アキラは苦しむ俺に向けて何かを放つ。

 すると消えた筈の記憶が段々修復され、断片的だった欠片が一つ一つ繋がっていくのが分かる。


「これは?」

「オール・リカバリー。対象者がファントムコマンドでの状態異常に掛かった時、それを全て治癒するです」


 何故それを使ったのか俺は疑問に思ったが、その前にアキラには聞かなければいけない事が一つある。


「アキラは気付いてたのか?」

「いいえ」


 アキラは首を横に振る。


 それもそうか。

 気付いてるなら、アキラは最初にやるだろう。


「私は記憶操作する類のファントムコマンドは元から使えないです。なので私自身がホムラさんに妨害する事は、まず出来ないです」


(記憶操作……)


 じゃあ、あの中にアキラ以外にも潜んでいたって事か……。

 だったら誰なんだ。


「じゃあ。もし同じ状況だったら、アキラは誰だと思う」

「私が今まで気付かなかった事を考慮して、術者はあの場にいた上位者にしか出来ない筈です。ただそれだと可能性は低いですよ」

「どういう事だ?」

「あの頃は私以外いなかったですから。……ただ、信じて欲しいです。私ではない事を」


 アキラの真剣な眼差しに、俺は心を打たれる。

 それが正しいと思える自分を信じるしか、今の俺には出来ないからだ。

 あの頃にいた魔法使いはアキラ本人であり、俺は誰かに記憶を消された。

 理由は分からないが……。


「信じるも何もアキラじゃないんだろ。だったら、俺は……」


 太刀を鞘へとしまい、アキラへと歩み寄って手を伸ばす。


「アキラを信じる。それとごめんな、待たせて」

「遅いですよ。ホムラさん」


 アキラは俺の手を握る。

 その手はあの頃を思い出すかのような懐かしい温もりを感じた。



   ◇ ◇ ◇



 プロメテウスが四散した場所から宝箱が出現し、次へと進む奥の両扉が開かれた。


「こっちです。それはホムラさんにあげるです」


 アキラは宝箱に手を付けず、奥の両扉へと歩いて行く。

 俺は宝箱の方へ行き、中身を回収した。


 宝箱は施錠や仕掛けはなく、誰でも簡単に開けれる程軽く、逆に脆そうだと思えたが、作りはしっかりしていて頑丈だった。

 宝箱の中から俺は鑑定の書と書かれた巻き物と、壊れた発信機のようなガラクタを手に入れた。


━ ━ ━ ━

【鑑定の書】


 ランク ☆☆☆☆


 一度でも使えば、鑑定スキルが取得できる。

 但し回数制限があり、過ぎると壊れる。


 回数制限1回。

━ ━ ━ ━


━ ━ ━ ━

【????】


 不明。

━ ━ ━ ━


(この【????】は、鑑定スキルさえあれば表示されるのか?)


 俺は鑑定の書を使用し、もう一度見てみる。


《鑑定スキルを取得しました》


━ ━ ━ ━

【壊れた発信機】


 ランク ?


 壊れている為、何に使えるか不明。

修復出来れば使用可能。


 作成者、シャーロット。

━ ━ ━ ━


《作成者、シャーロットの権限により、特殊鑑定スキルを取得しました》


(何だよ、それ……)


「行くですよ」

「ああ、わかった!! 今行く!!」


 既にアキラの姿はなく、俺一人取り残されていた。

 抜け殻となった宝箱を後にして、俺は奥の両扉へと向かった。




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