「待つです。私はホムラさんの敵ではないです」
(敵? そんなの……)
「信用出来ると思うか?」
出会って数時間しか経ってない相手に、信用なんて出来る筈がない。
それに魔王乱舞を知っているなら、俺は正体をまた隠さなくてはならない。
「杖を捨てて武装解除すれば、俺は聞かなかった事にする」
そしてあとはアバターを変えれば良いだけだ。
「嫌ですよ。やっと会えたのですから……」
アキラは静かにそう言った。
(会えた? 何を言って……)
「…………3ヶ月前。私はホムラさんに会っているです」
(3ヶ月前って……。あの頃の)
あの頃を思い出そうと、一度その記憶に触れてみる。
思い出せない……。
否、思い出せない訳じゃない。
何か強い力によって、一方的に阻害されただけだ。
何度やっても結果は同じ。
俺はあの頃の記憶をうまく思い出せなかった。
「何、だよ……。これは……?」
新手の嫌がらせかと思う程、あの頃の記憶が次第に断片的となり、消えていくのが実感できる。
やがてそれが苦痛へと変わり果てていくのは、時間の問題だと、俺にも分かった。
「〝ファントムコマンド オール・リカバリー〟」
アキラは苦しむ俺に向けて何かを放つ。
すると消えた筈の記憶が段々修復され、断片的だった欠片が一つ一つ繋がっていくのが分かる。
「これは?」
「オール・リカバリー。対象者がファントムコマンドでの状態異常に掛かった時、それを全て治癒するです」
何故それを使ったのか俺は疑問に思ったが、その前にアキラには聞かなければいけない事が一つある。
「アキラは気付いてたのか?」
「いいえ」
アキラは首を横に振る。
それもそうか。
気付いてるなら、アキラは最初にやるだろう。
「私は記憶操作する類のファントムコマンドは元から使えないです。なので私自身がホムラさんに妨害する事は、まず出来ないです」
(記憶操作……)
じゃあ、あの中にアキラ以外にも潜んでいたって事か……。
だったら誰なんだ。
「じゃあ。もし同じ状況だったら、アキラは誰だと思う」
「私が今まで気付かなかった事を考慮して、術者はあの場にいた上位者にしか出来ない筈です。ただそれだと可能性は低いですよ」
「どういう事だ?」
「あの頃は私以外いなかったですから。……ただ、信じて欲しいです。私ではない事を」
アキラの真剣な眼差しに、俺は心を打たれる。
それが正しいと思える自分を信じるしか、今の俺には出来ないからだ。
あの頃にいた魔法使いはアキラ本人であり、俺は誰かに記憶を消された。
理由は分からないが……。
「信じるも何もアキラじゃないんだろ。だったら、俺は……」
太刀を鞘へとしまい、アキラへと歩み寄って手を伸ばす。
「アキラを信じる。それとごめんな、待たせて」
「遅いですよ。ホムラさん」
アキラは俺の手を握る。
その手はあの頃を思い出すかのような懐かしい温もりを感じた。
◇ ◇ ◇
プロメテウスが四散した場所から宝箱が出現し、次へと進む奥の両扉が開かれた。
「こっちです。それはホムラさんにあげるです」
アキラは宝箱に手を付けず、奥の両扉へと歩いて行く。
俺は宝箱の方へ行き、中身を回収した。
宝箱は施錠や仕掛けはなく、誰でも簡単に開けれる程軽く、逆に脆そうだと思えたが、作りはしっかりしていて頑丈だった。
宝箱の中から俺は鑑定の書と書かれた巻き物と、壊れた発信機のようなガラクタを手に入れた。
━ ━ ━ ━
【鑑定の書】
ランク ☆☆☆☆
一度でも使えば、鑑定スキルが取得できる。
但し回数制限があり、過ぎると壊れる。
回数制限1回。
━ ━ ━ ━
━ ━ ━ ━
【????】
不明。
━ ━ ━ ━
(この【????】は、鑑定スキルさえあれば表示されるのか?)
俺は鑑定の書を使用し、もう一度見てみる。
《鑑定スキルを取得しました》
━ ━ ━ ━
【壊れた発信機】
ランク ?
壊れている為、何に使えるか不明。
修復出来れば使用可能。
作成者、シャーロット。
━ ━ ━ ━
《作成者、シャーロットの権限により、特殊鑑定スキルを取得しました》
(何だよ、それ……)
「行くですよ」
「ああ、わかった!! 今行く!!」
既にアキラの姿はなく、俺一人取り残されていた。
抜け殻となった宝箱を後にして、俺は奥の両扉へと向かった。