火の神殿の裏は自然豊かな草原が広がっていた。
風は優しく、日光もそれ程暑くない。
それに加え空気でさえも美味しく、俺達人間社会では再現出来ない程そこは美しかった。
「感動するのは後にするですよ」
「悪い悪い。……つい、な」
アキラはジト目で睨むので俺は苦笑した。
俺達は未だにこの空洞の外へ出ず、ずっと待機していた。
ただ待機するのもあれだから、その間に俺達は作戦を練っていた。
アキラが作戦を提案し、俺にその内容を告げてはいたが難易度は少し難しいようだ。
相手がどういう手段で攻撃を仕掛けて来るかは分からないが、作戦では俺が一度攻撃を受ける必要があるらしい。
それがもし即死級の攻撃だと、俺は最悪ポリゴン体となって四散する羽目になる。
それを踏まえた上で俺は今ある魔王宝具に頼るしかなかった。
どうやら待ち伏せてる奴は火の神殿の真上にいるらしく、同時に射程範囲内にいる。
逆に俺達は射程範囲外で攻撃すら出来ない為、相手は不意打ちし放題らしい。
相手のやり方は凄く狡いだろうと思うが、ファントムフリーでは一般的のようだ。
もし狙われた時の対処方法もそう難しくもない。
だがそれは初心者には難しく、案内人の中でも対処出来ない者も少なからずいるらしい。
「では作戦通りにするですよ」
「ああ」
俺は何も警戒せずに空洞の外へ出る。
草原へと足を踏み入れ、静かに歩き始めた。
すると遠くから音が聞こえた気がしたから、俺は躊躇なく防御魔法を自分自身に放つ。
「〝魔王宝具 焔神楽〟」
パスッと音が聞こえたと思ったら、HPバーが半分以上持っていかれた。
ダメージ量を見て俺はヒヤヒヤしたが即死級じゃなくて、ほっと息を吐いた。
だが作戦通り。
《今、相手から攻撃を受けました。バトル形式をPVPに変更し、始めますか?》
俺は《YES》のアイコンを押した。
━━《PVP開始》━━
━━《相手が射程範囲外の為、範囲内に調整》━━
相手が射程範囲内となって、パーティーメンバーのアキラも相手の位置を把握する。
剣士の俺では不可能だが、魔法使いのアキラなら攻撃可能だ。
「行け!! アキラ!!」
「はいです」
アキラは俺の元へ瞬間移動して現れた。
その姿は、あの魔女姿。
ファントムリベレイト、マジシャン。
「〝シャイン・チェーン〟」
俺を攻撃してきた相手の位置と反応を分析し、アキラは光の鎖を解き放つ。
するとそれに気付いた相手が縛り付けられて、地上へと落とされた。
「くそ!! 何だよこれ」
地上に落とされてから、ようやく相手の名前と性別が判明する。
相手の名は、マイク。
性別は男で体型は細いが筋肉質、顔はイケメンだった。
いわゆる細マッチョだ。
装備は身軽な軽装備。
背中には矢の入った筒が見えるので、主要武器は弓だろうか。
マイクは光の鎖を必死に解こうとしていた。
だが無駄足だったのかすぐに麻痺状態になり、身体は動けなくなると同時に何も出来なくなった。
犯罪がバレた時もこういう反応する奴いるよな。
大体は頭が真っ白になるんじゃなかったか?
「お前、案内人だろ。仕事終わったんなら、さっさと帰れよ」
「貴方に言われる筋合い無いですよ。今から本部に報告するので、IDの提示をお願いするです」
「するか!! あんな犯罪集団に連行されるなら、倒された方がマシだ」
(犯罪集団。案内人の本部って……、いったい何だろう)
「今録音してるですから、貴方の声は既に本部へ届いているですよ」
「くそ!! こんな事なら早く……、待てよ。おいガキ、何で俺に倒されて無いんだ」
マイクはふと思い出したかの様に俺へ問い掛けた。
「それはダメージ軽減したからな」
「不可能だろ。今まで成功してたんだぞ」
って事はコイツは即死級ではなく、攻撃に特化した技でも使用いたのか。
どちらにしろ受けたダメージ量が半分以上で済んだから良いが……。
「お前。初代魔王を舐め過ぎ。アキラ。もうやって良いんだろ」
「良いですよ。本部には報告した情報を元に特定するので」
アキラはさらりと恐い事を話したが、何やら嬉しいのかニコリと微笑んだ。
「じゃあお望み通り倒してやるか。さっきの攻撃もあるからな……」
「卑怯だぞ」
マイクは哀れにも今になって命乞いをした。
初心者狩りの癖に良い度胸だ。
「お前に言われる筋合いあるかよ。〝魔王剣技 桜花一閃〟」
桜の花が舞った所でマイクに刃を向けて、俺は身体を真っ二つに斬る。
クリティカルヒットしたのか、マイクのHPバーは一瞬で吹き飛び、ポリゴン体となって四散した。
━━《PVP終了》━━
《指名手配犯。初心者狩りのマイク敗北しました》
《ホムラはPKK報酬、並びに懸賞金ボーナス獲得しました》
俺は太刀を鞘にしまった。
プレイヤーキラーは倒すとPKK報酬、もしその相手が指名手配に任命されているなら、懸賞金ボーナスが同時に手に入る。
だがその場合は俺達も危険を冒さないといけないらしく、それがアキラの作戦。
わざと相手をPVPに持ち込ませる方法だった。
━ ━ ━ ━
バトル形式 《PVP》
プレイヤー同士で戦う事。
選択肢は二通りあり、挑戦式と選択式がある。
挑戦式は、自分もしくは相手から挑まれ、それを承諾するやり方。
選択式は、相手から一方的に三割以上攻撃された時、選択画面に出現するやり方。
自分と相手の射程範囲は固定され、なるべく不利な状況を作る事が出来ない。
但し攻撃範囲は固定されない。
もしバトル形式を《PVP》もしくは《バトルロイヤル》にしないでプレイヤーを倒した場合は、プレイヤーキラーになる。
━ ━ ━ ━
今回使用したのは選択式だ。
焔神楽を使ったから半分以下のHPバーを残せたが、もし使わなかったら俺が四散していたかも知れない。
そんな恐怖を味わいながら俺は一息吐いた。
「お疲れ様でした」
「ああ。案外楽で助かったよ」
「それは、どうもです」
「アキラの方は終わったのか?」
「もう特定済みです。ずっと前からあの方は初心者狩りを続けていたみたいで、案内人からは凄く迷惑してたので良かったです」
「なら良かった。じゃあ先を急ぐか」
(先生を待たせると悪いし……)
「そうですね。ホムラさんが良ければ行くですか」
そう言って俺達は火の神殿からアルカディアまで続く草原、ラスネロへ改めて足を踏み入れた。