自然豊かな草原、ラスネロ。
そこはプレイヤーを敵対するような肉食系モンスターは滅多に出現せず、誰とも争わないような草食系モンスターがのどかに暮らしていた。
息を吸えば上質な空気が体内へと入り、こんなにも空気が美味しく感じるのは初めてだ。
日光もそこまで暑くない上余りにも平和過ぎるので、ここではピクニックも出来そうだ。
「何かここまで平和だと、さっきまでの戦闘は一体何だったんだ」
火の魔神プロメテウス。
初心者狩りのマイク。
何もかも平和なラスネロ。
このままずっとこの調子だったら、アルカディアにも着きそうだ。
「でもここはPVP可能エリアです。なので気を抜くと酷い目に遭うですよ」
「それにしてもな……。そう言えば」
俺はメニューを開いて固有能力と書かれた場所を開くと、ウィンドウが表示された。
━ ━ ━ ━
ブレイドアーツ
武器の熟練度を本来よりも大幅に上げる能力。
未習得の武器を持つ相手から伝授された場合も対象。
━ ━ ━ ━
「この固有能力って何だ?」
「それはフリーを引き継いだ時におまけで付いてくる特典です。私はマジックアーツを保有しているです」
━ ━ ━ ━
マジックアーツ
魔法の熟練度を本来よりも大幅に上げる能力。
追加能力
魔法系のファントムリベレイト使用時、能力を二倍にする。
━ ━ ━ ━
「案外、アキラのも使えるな」
「それはずっと使っているからですよ。追加能力については最近ですね」
それにしても俺にブレイドアーツを使い熟せるのか。
否か、不安になってきたな。
ふと歩いていると、赤や青の小さな果実を実らした木を見つけた。
他の場所にはそのような木はなく、この一本のみだった。
「あれは?」
「食べれるですよ」
アキラは赤い実を摘むと、毒味をせずに生で一口食べた。
「但し赤い実だけですけど」
俺は赤と青の小さな実を摘み、鑑定した。
━ ━ ━ ━
リンの実
赤い実は完熟しており、小さな果実としては甘く、美味しい。
青い実は完熟初期段階の為、生のままだと毒があり、火を通す必要ある。
リンの木は自然に生えている場合が珍しく、市場でも一部でしか取り扱わない。
━ ━ ━ ━
俺も赤いリンの実を一口食べる。
林檎のようなシャリッとした食感で確かに甘く、美味しかった。
リンの実の数自体は多いが何個も食べる程ではなく、一つか二つ摘むくらいが丁度良い感じだ。
「目的を忘れるですよ」
「分かってる」
俺達は赤いリンの実を半分程摘み、少し休憩をする事にした。
◇ ◇ ◇
「もう少しで着きそうだな」
アルカディアの城壁が遠くから見え始めたので、俺はアキラに話し掛けた。
「はいです。あとあの橋を渡れば直ぐですよ」
アキラは少し先にある橋を指差す。
すぐ近くにアルカディアの門が見えるので、あの橋で間違いないだろう。
ここは何もかもが平和過ぎて良かったな。
また来れるなら仲間を連れて、か……。
それまでにレベル上げもしないとな……。
(ファントムフリーに、レベルという概念があるかは不明だけどな)
《相手からの挑戦を受理しました。バトル形式を強制的にPVPに変更します》
「!?」
(どういう事だ。強制って……)
━━《PVP開始》━━
「避けるです!!」
「何が!?」
「見えてないのですね」
アキラは俺の前へ飛び出し、杖を盾の様に構えた。
ガンッと強い衝撃が襲ったが、目の前には何もなかった。
だが見えてないのは俺だけだったらしい。
それははっきりと声を発した。
『ホウ。コレガ見エルカ』
男性のような野太い声が聞こえ、何やら驚いているようだった。
「はっきり見えてないですよ。これも騎士さんとの修行の成果ですが……」
『ホウ。騎士ト言ウノハ、アノスカーレットアイズノ……』
「知ってるという事は、貴方が金色ノ白王さんですね」
『娘。我ノ名ヲ知ッテイルトハ、面白イ』
それは姿を現した。
その姿は見覚えのある獣の姿をしており、金色の立髪、白き毛並みの百獣の王。
ホワイトライオンだった。
口には剣を咥えているので、あれがメイン武器なのだろう。
「あの剣は?」
「あれはワールドクラスアイテム、ガラティーンです」
(って事は、破壊は無理か……)
『剣ノ名モ知ッテイルトハ。娘、ナカナカノ博識ダナ』
金色ノ白王はアキラに襲い掛かった。
以前とは違って姿がはっきりと見えているから、素早さだけでアキラを守れそうだ。
俺は鞘から太刀を手にして、金色ノ白王に刃を向けたが弾き返された。
「重い!!」
何だ。この馬鹿力。さっきアキラはこれを防いでいたのか。
『効カヌワ。ソナタデハ我ヲ倒セヌ』
「くそっ!! 〝魔王剣技 桜〟」
金色ノ白王は剣で俺を追撃する。
追撃すらも攻撃は重く、衝撃が強過ぎて俺は倒れた。
俺はそのダメージ量が酷過ぎて、HPバーが残り二割まで削れた。
『効カヌト言ッタロウ。コレデ止メダ』
「〝シャインチェーン〟」
光の鎖が金色ノ白王の手足を束縛する。
だがそれでも動けるのか、無理矢理にでも解除出来そうだ。
『ホウ。娘ヨ、我ノ邪魔ヲスルカ』
「元々、私を攻撃してたんじゃないですか……」
『良カロウ。デハ行クゾ』
すると金色ノ白王とアキラが目を見開いた。
次の瞬間。アキラは急いで金色ノ白王の束縛を解除し、倒れた俺に叫んだ。
「ホムラさん、逃げるです!!」
俺がその理由を尋ねる前にある知らせが届く。
━━《乱入発生》━━
《乱入により、バトル形式をPVPからバトルロイヤルへ変更されました》
(乱入。有りかよ、そんなの)
俺達の近くから隕石のような衝撃波が走る。
ふと視線をそちらに向けると草原は燃えて大地は剥き出しとなり、中心には一人の少女がいた。
「面白えから来たんだが、弱そうで良かった」
紙パックの苺オ・レを飲みながら、少女はこちらに向き直ると軽く宣言した。