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 Ⅰ Fragment / 救世の絆 

Ⅰ 09/17

9話「ラスネロ」


 自然豊かな草原、ラスネロ。

 そこはプレイヤーを敵対するような肉食系モンスターは滅多に出現せず、誰とも争わないような草食系モンスターがのどかに暮らしていた。

 息を吸えば上質な空気が体内へと入り、こんなにも空気が美味しく感じるのは初めてだ。

 日光もそこまで暑くない上余りにも平和過ぎるので、ここではピクニックも出来そうだ。


「何かここまで平和だと、さっきまでの戦闘は一体何だったんだ」


 火の魔神プロメテウス。

 初心者狩りのマイク。

 何もかも平和なラスネロ。

 このままずっとこの調子だったら、アルカディアにも着きそうだ。


「でもここはPVP可能エリアです。なので気を抜くと酷い目に遭うですよ」

「それにしてもな……。そう言えば」


 俺はメニューを開いて固有能力アーツと書かれた場所を開くと、ウィンドウが表示された。


━ ━ ━ ━

 ブレイドアーツ


 武器の熟練度を本来よりも大幅に上げる能力。

 未習得の武器を持つ相手から伝授された場合も対象。

━ ━ ━ ━


「この固有能力アーツって何だ?」

「それはフリーを引き継いだ時におまけで付いてくる特典です。私はマジックアーツを保有しているです」


━ ━ ━ ━

 マジックアーツ


 魔法の熟練度を本来よりも大幅に上げる能力。


 追加能力

 魔法系のファントムリベレイト使用時、能力を二倍にする。

━ ━ ━ ━


「案外、アキラのも使えるな」

「それはずっと使っているからですよ。追加能力については最近ですね」


 それにしても俺にブレイドアーツを使い熟せるのか。

 否か、不安になってきたな。


 ふと歩いていると、赤や青の小さな果実を実らした木を見つけた。

 他の場所にはそのような木はなく、この一本のみだった。


「あれは?」

「食べれるですよ」


 アキラは赤い実を摘むと、毒味をせずに生で一口食べた。


「但し赤い実だけですけど」


 俺は赤と青の小さな実を摘み、鑑定した。


━ ━ ━ ━

 リンの実


 赤い実は完熟しており、小さな果実としては甘く、美味しい。

 青い実は完熟初期段階の為、生のままだと毒があり、火を通す必要ある。

 リンの木は自然に生えている場合が珍しく、市場でも一部でしか取り扱わない。

━ ━ ━ ━


 俺も赤いリンの実を一口食べる。

 林檎のようなシャリッとした食感で確かに甘く、美味しかった。

 リンの実の数自体は多いが何個も食べる程ではなく、一つか二つ摘むくらいが丁度良い感じだ。


「目的を忘れるですよ」

「分かってる」


 俺達は赤いリンの実を半分程摘み、少し休憩をする事にした。



   ◇ ◇ ◇



「もう少しで着きそうだな」


 アルカディアの城壁が遠くから見え始めたので、俺はアキラに話し掛けた。


「はいです。あとあの橋を渡れば直ぐですよ」


 アキラは少し先にある橋を指差す。

 すぐ近くにアルカディアの門が見えるので、あの橋で間違いないだろう。

 ここは何もかもが平和過ぎて良かったな。

 また来れるなら仲間を連れて、か……。

 それまでにレベル上げもしないとな……。


(ファントムフリーに、レベルという概念があるかは不明だけどな)


《相手からの挑戦を受理しました。バトル形式を強制的にPVPに変更します》


「!?」


(どういう事だ。強制って……)


━━《PVP開始》━━


「避けるです!!」

「何が!?」

「見えてないのですね」


 アキラは俺の前へ飛び出し、杖を盾の様に構えた。

 ガンッと強い衝撃が襲ったが、目の前には何もなかった。

 だが見えてないのは俺だけだったらしい。

 それははっきりと声を発した。


『ホウ。コレガ見エルカ』


 男性のような野太い声が聞こえ、何やら驚いているようだった。


「はっきり見えてないですよ。これも騎士さんとの修行の成果ですが……」

『ホウ。騎士ト言ウノハ、アノスカーレットアイズノ……』

「知ってるという事は、貴方が金色ノ白王さんですね」

『娘。我ノ名ヲ知ッテイルトハ、面白イ』


 それは姿を現した。

 その姿は見覚えのある獣の姿をしており、金色の立髪、白き毛並みの百獣の王。

 ホワイトライオンだった。

 口には剣を咥えているので、あれがメイン武器なのだろう。


「あの剣は?」

「あれはワールドクラスアイテム、ガラティーンです」


(って事は、破壊は無理か……)


『剣ノ名モ知ッテイルトハ。娘、ナカナカノ博識ダナ』


 金色ノ白王はアキラに襲い掛かった。

 以前とは違って姿がはっきりと見えているから、素早さだけでアキラを守れそうだ。

 俺は鞘から太刀を手にして、金色ノ白王に刃を向けたが弾き返された。


「重い!!」


 何だ。この馬鹿力。さっきアキラはこれを防いでいたのか。


『効カヌワ。ソナタデハ我ヲ倒セヌ』

「くそっ!! 〝魔王剣技 桜〟」


 金色ノ白王は剣で俺を追撃する。

 追撃すらも攻撃は重く、衝撃が強過ぎて俺は倒れた。

 俺はそのダメージ量が酷過ぎて、HPバーが残り二割まで削れた。


『効カヌト言ッタロウ。コレデ止メダ』

「〝シャインチェーン〟」


 光の鎖が金色ノ白王の手足を束縛する。

 だがそれでも動けるのか、無理矢理にでも解除出来そうだ。


『ホウ。娘ヨ、我ノ邪魔ヲスルカ』

「元々、私を攻撃してたんじゃないですか……」

『良カロウ。デハ行クゾ』


 すると金色ノ白王とアキラが目を見開いた。

 次の瞬間。アキラは急いで金色ノ白王の束縛を解除し、倒れた俺に叫んだ。


「ホムラさん、逃げるです!!」


 俺がその理由を尋ねる前にある知らせが届く。


━━《乱入発生》━━


《乱入により、バトル形式をPVPからバトルロイヤルへ変更されました》


(乱入。有りかよ、そんなの)


 俺達の近くから隕石のような衝撃波が走る。

 ふと視線をそちらに向けると草原は燃えて大地は剥き出しとなり、中心には一人の少女がいた。


面白おもしれえから来たんだが、弱そうで良かった」


 紙パックの苺オ・レを飲みながら、少女はこちらに向き直ると軽く宣言した。




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