苺オ・レを片手に金髪ショートヘアの少女は俺達を見つめながら、ゆっくりと歩き始める。
「魔法使い。お前は敵か?」
「はい。敵です」
アキラはポシェットから回復薬の小瓶を手にして、背後で倒れている俺に渡す。
俺はそれを口に含みつつ、HPバーを全快させた。
「そこの白いライオン。お前は敵か?」
金色ノ白王は少女に向けて吠える。
すると金色ノ白王は少女には聞こえない様な小声で、俺達にこう告げた。
『一度共闘シヨウ。アレハ命ガ幾ツアッテモ足リヌ』
「分かったです」
「アンタでもあの子は強いのか?」
『コノゲームデハ見ナイ顔ダ。油断スレバ最悪死ヌカモ知レナイ』
(金色ノ白王がここまで警戒するなんてな……)
少女が近付くに連れて、名前と性別が分かる。
金髪ショートヘアの少女の名は、ミシロ。
性別は女。
童顔の美少女で、橙色の瞳。
身長はアキラとほぼ変わらず、痩せていて子柄な体型で特に装備はなく、剣士のような初期装備だった。
見る限り初心者と何も変わらない。
だが面白いを理由に乱入して来るのも怪しかった。
「そうか? 分かった。ならそこの男。お前は俺の敵か?」
「ああ。俺もアンタの敵らしい」
俺は立ち上がり、ミシロを凝視する。
するとミシロは残念そうに息を吐いた。
「分かったよ。じゃあ」
ミシロは苺オ・レを飲み干して見えない速さで姿を消した。
「ホムラさん、後ろです!!」
アキラが叫ぶと、確かに後ろで誰かの気配を感じた。
だが俺は鞘から太刀を抜くと後ろは振り向かず、目の前で防御の構えに入る。
「見切りは出来る見てえだな」
声が聞こえたと思えば、目の前でミシロは姿を現した。
ミシロの手にした紅い剣が俺の太刀に接触し、その場で俺はミシロとの鍔迫り合いが始まる。
「ああ。一応、剣士だからな」
元々防御に構えていた為、力は入れ易い。
それに当の本人もそれ程力が強い訳でもないから、金色ノ白王みたいに弾き返される事もない。
「面白え。なら行くぜ。〝パワーブースト〟」
俺は危険を察知する。
「アキラ、援護頼む!!〝魔王宝具 白式氷華〟」
白式氷華とは、任意で相手の攻撃を一度防ぐ事ができる。
その攻撃は即死級の技や呪術系の魔法、どういう方法を用いても一回判定になる。
余りにも強力過ぎる魔王宝具だから、運営の制限でニ回までなら使用できる。
「〝シャインチェーン〟」
俺の左から光の鎖が射出される。
するとミシロは紅い剣を右手から左手へ持ち替えて目を閉じた。
「3、2、1。そこだ!! 〝ディフェンスブースト〟」
すると目を開き、空けた右手で射出された光の鎖を拳で素早く殴り、そのまま魔法事ぶっ壊した。
(魔法破壊!!)
この目で見るのは初めてだが、実際に見ると迫力が違う。
色々なゲームだと、破壊系や無効化系の能力や魔法が存在するのは知ってる。
だが今ミシロがやったのは、ただのプレイヤースキルに過ぎなかった。
「な!?」
無残に破壊された光の鎖を見て、アキラは驚く。
すると金色ノ白王が駆け抜けて、ミシロに突進を仕掛ける。
「おい男。歯食い縛れ」
鍔迫り合いを中断し、ミシロは俺の片足を蹴り飛ばす。
そこまでダメージは無かったが、ミシロは離脱に成功した。
そのまま金色ノ白王へ振り向き、ミシロは紅い剣で反撃する。
ガラティーンの刃で負け路と紅い剣を防御するが、険しい顔をしている。
俺は白式氷華で防いではいたが、金色ノ白王もミシロの攻撃は弾き返せないのか、じっと防御に集中している。
「〝ファントムリベレイト マジシャン〟」
アキラは瞬間移動して、俺の隣へ現れた。
「逃げれるですか?」
「ああ。さっきの回復薬のお陰だ」
「それは良かったです」
「アキラは?」
「私は……、今から戦うですよ」
アキラは光の鎖を壊されても、まだ諦めていなかったようだ。
だったら俺も覚悟を決めないとな。
「なら、俺も協力させてくれ」
俺の発言にアキラは驚く。
それもその筈だ。
アキラは俺だけでも逃したかったに決まっている。
あのミシロという少女は、強者の金色ノ白王でも防御に専念する程の脅威だ。
初心者の俺には荷が重過ぎるのは当然だった。
するとアキラは微かに笑ったが気がした。
「ホムラさんなら言うと思ったです。本当は金色ノ白王さんと作戦練ってたですが、あの調子だと難しそうですし……」
金色ノ白王は今もミシロの攻撃を防いではいるが、攻撃は一向に出来ていない状況だった。
「分かったです。私に考えがあるので、ホムラさんはラストアタックの準備お願いするです」
「出来るのか? ラストアタック」
「バトルロワイヤルなら可能ですね」
━ ━ ━ ━
バトル形式 《バトルロイヤル》
プレイヤー同士で戦う事。
受けた相手の選択肢は、はい、いいえ。
乱入された場合は受けた相手の選択権はなく、強制となる。
戦闘は二通りで個人戦と団体戦がある。
バトルロイヤルでは特別ステージ扱いとなり、ラストアタックの使用は可能。
もしバトル形式を《PVP》もしくは《バトルロイヤル》にしないで、プレイヤーを倒した場合はプレイヤーキラーになる。
━ ━ ━ ━
「ああ。だったら任せろ」
そう言って俺は太刀を鞘に収めて詠唱を始めた。
「桜舞い散る、春の丘。風の音色に耳を傾け、我は問う」
「この世全てが永遠ならば、我は全ての平和を望み。この世全てが戦場ならば、我は全てを無へと返す。桜の魔王、ここに有り。〝術式解放 桜花〟」
俺は無事詠唱を完了し、魔法が発動する。
すると足元から周囲へと電流が一瞬迸る。
(これでラストアタックの準備は完了だな)
《ラストアタック〝魔王剣技 鬼牙一閃〟の準備が完了しました》
俺の詠唱が完了するとアキラはメニューを開いて、今の杖から白の長杖に装備変更した。
「それは?」
「私のお気に入り。聖なる杖Ⅳです。〝聖なる光は、私と共に〟」
アキラがそう言うと、白の長杖の上部にあるパールの様な丸く大きな結晶の部分が白く光る。
「では行くですよ」
「ああ。〝魔王宝具 雷虎流星〟」
アキラは瞬間移動し、俺は素早さを上げてミシロの方へ駆け抜けた。